4月23日夕方7時前にオバマ米国大統領が大統領専用機「エアフォース・ワン」に乗って羽田空港に到着した。2009 年、2010年に続いて3回目の訪日だそうで、今回は初の「国賓」待遇だが、夫人同伴なしの国賓は異例だという。
そのミシェル夫人は3月10日(2014年)から1週間、北京を訪れている。オバマ大統領は訪日は夫人同伴なしで中国とのバランスを取ったのではないかとの穿った見方もある。インターネット上には夫婦不仲説を取り沙汰した記事もあった。
オバマ大統領は23日夜に羽田空港到着後、東京銀座の高級寿司店「銀座 すきやばし次郎」で行われた安倍晋三主催非公式夕食会に参加した。出席者は両者以外に日本側谷内国家安全保障局局長、佐々江駐米大使。アメリカ側ライス大統領補佐官、ケネディ駐日大使の少人数だという。
同店は格付けガイド本「ミシュランガイド東京」で最高評価三つ星7年連続受賞の有名店だそうだ。
安倍晋三は日米首脳会談のあと共同記者会見で、オバマ大統領の寿司評価を次のように話している。
安倍晋三「バラク、あなたは昨夜のおすしを『人生の中で一番おいしかった』と評価し ていただき、私たちは胸襟を開いて1時間半にわたり日本やアメリカ、世界の課題について語り合った。日米の絆と役割を確認し、日米関係のさらなる可能性について語り合う非常に充実した時間だった」(NHK NEWS WEB)――
大いなる自画自賛である。クリミア問題も尖閣問題も北方四島問題も北朝鮮拉致問題も、そう簡単にはいい方向には向かない。
安倍晋三は寿司をつまみながら、両者が抱えている各難問題を他処に大いなる高揚感を味わったようだ。世界の頂点に立ったような高揚感だったかもしれない。オバマ大統領を遥か下に見降ろした高みに自らを持ち上げていたといったこともあったかもしれない。
だが、オバマ大統領は「人生の中で一番おいしかった」と最大評価した寿司を出された量の半分しか食べなかったという報道もある。まあ、どうでもいいことだが。
半分で十分に腹一杯になったのかもしれないし、少々遠慮したのかもしれない。但し安倍晋三はホストの立場からだろう、全て平らげたそうだ。 ホストが残したら、ゲストは全て食べ尽くしたくても、食べづらくなる。
ニュースの画面で、一般的な徳利とは異なるガラス製の角小瓶とワンショットグラス程度の大きさの、これもガラス製の盃が映し出されていたから、日 本酒を出したのだろう。
安倍晋三は官民共同での日本酒の世界への売り込みを図っている。
だが、疑問が湧いたことが一つ。安倍晋三は3月8日(2014年)、1ヶ月半前である。東日本大震災で津波などの被害を受けた福島県いわき市に建設中の災害公営住宅や小名浜港の商業施設を視察している。小名浜港商業施設ではイカなどの海産物を試食。
安倍晋三「おいしい。風評被害を払拭させるために頑張りたい」(TOKYO Web)――
要するに2011年3月11日の福島第1原発事故以来今日に至るまで、以前程ではないにしても、福島では無視できない風評被害が続いていて、売上が芳しくない、あるいは価格低迷を強いられる状況下に依然としてあることを示している。
このことは安倍晋三が今回だけではなく、昨年2013年10月19日も相馬市松川浦漁港を訪れて、近海で採れたタコ、イカ、試験的な漁が始まったシラスを試食していることが証明している。
いわば風評被害が払拭できずに続いているから、試食も続けざるを得ない状況にあるということを示している。この時の発言。
安倍晋三「試験的とはいえ漁が再開し、検査の結果、すべて安全であることが明らかになった。
一方、事実に基づかない風評によって被害を受けているのも現実で、福島の水産物や農産物は安全だという正確な情報をしっかりと発信していきたい」(NHK NEWS WEB)――
最近の風評被害の状況を伝えている記事がある。最初の部分を紹介する。《原発風評被害 正確な情報の共有がカギ》(公明新聞/2014年3月19日)
記事冒頭解説。〈東京電力福島第1原発事故による風評被害が依然、福島県の農林水産業や観光業に重くのしかかっている。
農林水産省によると、津波被害を受けた東北3県の農家や農業法人の営農再開率は、岩手が 54%、宮城が65%にまでこぎつけたが、福島は23%にとどまる。再開できない理由の9割は「原発事故の影響」、つまりは「風評被害」だ。コメや野菜の市場価格の低迷も続いている。
福島県商工連合会が昨年12月、首都圏の消費者を対象に実施した調査でも、福島県産食品を 「買わない」と答えた人が3割を超えた。消費者庁が11日に公表した風評被害調査結果でも、同県産食品の購入を「ためらう」人は15.3%に上っている。〉――
安全とされた食品のみを市場に出していながら、現在も風評被害は払拭できていない状況にある。
安倍晋三は次のような発言も行っている。
2012年12月26 日の首相就任記者会見――
安倍晋三「被災地の心に寄り添う現場主義で、復興庁職員の意識改革、復興の加速化に取り組んでいただきます」
2013年1月1日、年頭所感――
安倍晋三 「忘れてはならないのは、二度目の冬を迎え、未だに仮設住宅などで不自由な生活を送られている被災地の皆さんのことです。就任最初の訪問地として、私は迷うことなく福島を選びました。未だ故郷に戻れない方々の厳しい状況に正面から向き合い、被災者の心に寄り添っていかなければなりません」
2013年1月7日、政府与党連絡会議・冒頭挨拶――
安倍晋三「東日本大震災の被災地は、2度目の寒い冬を迎えることになりました。被災地の皆様の心に寄り添う現場主義で、 復興の加速化に取り組んでまいります」――
風評被害払拭に関しても、「被災地の心に寄り添う現場主義」で臨まなければならないし、臨んでいるはずだ。
だとしたら、東京銀座の高級寿司店「銀座 すきやばし次郎」で行われたオバマ大統領との非公式夕食会を福島放射能風評被害払拭のまたとないチャンスとなぜしなかったのだろうか。
「すきやばし次郎」の寿司米は《宇佐美 伸氏(書籍『すきやばし次郎 鮨を語る』)》(日本著者販促センター )によると、「今は東日本橋(東京・中央区)の米屋さんに、各産地の状態を見てもらいながらブレンドした米を使っています」とインタビューに答えている。
安倍晋三が直々に頼み込んで、非公式会食のみに限って福島産の最高級米の使用をなぜ願わなかったのだろうか。安倍晋三自らが「風評被害払拭にお力添えを願いたい」と申し込んで、断られることがあるだろうか。
寿司種にしても、福島産魚介類を使用することをなぜ頼み込まなかったのだろうか。
振舞った日本酒にしても同じことを言うことができる。インターネットで調べてみた。今更ながらに情報に関しては便利な世の中になったものであると改めて感心させられた。使用された日本酒の醸造元が宣伝のためにだろう、自らのHPで紹介している。
《ニュース・イベント情報 広島の酒 賀茂鶴酒造》
安倍晋三がオバマ大統領の盃にお酌する写真付きである。
次のように書いている。
〈昨日来日したオバマ大統領。
安倍首相と会食した際の写真が、
今日の朝刊各紙に掲載されていました。
カウンターに座りお酌をする姿が日本的で目を引く写真でした。
大変光栄なことに、この時のお酒は「賀茂鶴」でした。
「大吟醸・特製ゴールド賀茂鶴180ml角瓶」
東京・銀座のすし店「すきやばし次郎」での約1時間40分の会食。
瓶の表面の細かな水滴から、適温に冷えている様が窺えます。
このような会食でご利用いただいたことを、大変うれしく思います。〉――
ガラス製の徳利に見えた瓶は180ml角瓶だったようだ。
なぜ、福島産米を使って福島の醸造元で醸造した吟醸酒を振舞わなかったのだろうか。福島の風評被害払拭の一大宣伝となったはずだ。
だが、そういった発想は安倍晋三にはさらさらなかった。1ヶ月半前の3月8日に福島県いわき市小名浜港商業施設を視察して、イカ等の海産物を試食し、「風評被害を払拭させるために頑張りたい」と言っていたにも関わらずである。
だとすると、言っている「被災地の心に寄り添う現場主義」は単なる口先だけのキレイゴトでしかないことになる。
福島を訪れての農水産物の試食は風評被害払拭の努力をしていますというアリバイ作りでしかないことになる。
福島の現場では、なぜ福島産を使ってくれなかったのだと歯噛みしている県民もいるに違いない。安倍晋三には何も期待できないと。