安倍晋三は児童養護施設出身者の社会的現状を認識せせずに、その施設を視察したようだ

2014-04-08 09:14:37 | Weblog



 安倍晋三が4月4日、東京都葛飾区の児童養護施設「希望の家」を視察し、入所する児童・生徒らから将来の夢などについて話を聞いたという。

 安倍晋三「仲間を大切にして、ここでの経験を将来に生かしてもらいたい」(YOMIURI ONLINE)――

 政府は今年度予算で消費増税の増収分を財源に充てて、親の虐待などで保護が必要な子どもを受け入れる児童養護施設の拡充を進めていると記事は解説している。

 児童養護施設の拡充だけでは問題解決とはいかない様々な困難を抱えているはずだが、政府がここに重点を置いていること自体が社会的現状を知らない状況にあると言わざるを得ない。

 優先されるべきは社会の児童養護施設出身者に対する意識の問題、一般的児童と置かれる状況の格差や差別の問題等の是正にあるはずだが、このような問題点に留意した安倍晋三の児童養護施設訪問だったのだろうか。

 《児童養護施設「希望の家」視察》首相官邸HP/(2014年4月4日)   

 平成26年4月4日、安倍総理は都内の児童養護施設「希望の家」を視察しました。

 都内の児童養護施設「希望の家」を訪れた安倍総理は、中高生と対話した後、施設内を見学し、低学年児童と交流をしました。

 安倍総理は、中高生との対話の中で次のように述べました。

 「皆さん、こんにちは。

 それぞれ自分の将来の夢を話していただきましたけれど、こんなに緊張する雰囲気の中で、皆さん立派にそれをお話をされ、私も大変驚いています。特に中学生の2人は、もし私が中学生時代にこんな場所で、後ろからテレビも新聞社の皆さんもいてですね、こんな風にちゃんと自分の考えを述べられたのかなと思いますけども、それともう1つ驚いたことは、やはり皆さんがちゃんと将来の夢を持っているということなのですね。

 皆さんのように将来の希望に向かって頑張る人が、その夢に向かって進んでいくことができるような社会を作っていきたいと思いますし、先ほど、奨学金の話もありました。これからそうしたものを、さらに必要な人たちが、しっかりそうした奨学金を受けられるような日本にしていきたいと思っています。これからも どうか皆さんには、夢に向かって頑張ってもらいたいなあと思います」

 入所者が立派に将来の夢を語ったと感心しているが、一般的児童と比較して夢だけではどうしようもない現実をより多く抱えていないかという視点が少しでもあったなら、こうも他愛ないことは言えないはずだが、他愛なく、さらっと言っている。

 大体が将来の夢を立派に語ったことについても、職員から前以て、将来の夢を聞かれるかもしれないから、誰が聞かれてもいいように何か将来の夢を考えておくようにと指示を受けていたかもしれないし、あるいは首相官邸の事務方から、「安倍のバカが将来の夢を聞くから、滞りのないように」との指示を受けていたかもしれない。

 そして「中学生の2人」がその代表だったということもあり得る。

 安倍晋三は「皆さんのように将来の希望に向かって頑張る人が、その夢に向かって進んでいくことができるような社会を作っていきたいと思います」と約束している。この発言は先ずは入所者にとって現状がどのくらいそのような社会となっているのか、一般的児童の社会とどのくらいの格差がるのか、あるいは全く同じなのか把握していた上での発言でなければならないが、そういった発言だったのだろうか。

 入所者にとって「将来の希望に向かって頑張る人が、その夢に向かって進んでいくことができるような社会」を自身の可能性の範疇に収めるための優先的必要事項は学歴社会である日本にとって先ずは学歴の取得、それもより上位の学歴の取得であることは改めて断るまでもない事実であろう。

 但し所得格差が学歴格差を生じせしめている日本の社会が現状となっている。親の所得が高ければ高い程、子どもに投資する教育費が潤沢で、高学歴獲得に有利となっている状況が厳然として存在している。

 このような状況に児童養護施設入所者は無縁でいられるのだろうか。それともなお一層の逆境となって跳ね返っていることになっているのだろうか。

 《社会的養護の現状について》厚労省2014年3月)に次のような記述がある。

 児童養護施設やその他の類似施設入所者の中学生を対象に平成21年度から学習塾費実費と部活動費実費を支給、平成24年度から公立高校通学生には特別育成費として、端数の意味が分からないが、予算から人数を割ると端数が出るということなのか、月額22270円を支給し、私立高校生には月額32970円の支給となっている。さらに平成24年度からと、最近のことだが、高等学校第1学年の入学時特別加算:59010円(年額/1人)、資格取得等のための特別加算(高校3年生):55000円(年額/1人) の支給。

 この後段の支給は平成25年から義務教育終了児童のうち高等学校等に在学していないものも対象となっている。

 その他学校給食費や見学旅行費、就職、大学進学等支度費などが支給されている。

 この多くが最近のことのようだが、経済的支援、もしくは経済的保護は充実化はしている。

 但し学習塾費実費は中学生対象のみで、高校生は対象から外されている。特別育成費が学習塾費を含んでいるのかと思って調べてみると、別の厚労省の記事が、〈特別育成費の取扱いについて

 1 特別育成費は年間の所要経費を満たすものとして算定されているので、必要に応じて数月分を合わせてあらかじめ支弁する等実情に応じた運用を図るよう留意すること。〉と解説している。

 学習塾費は一般的な意味での「年間の所要経費」ではないはずだし、別枠としている関係からも、学習塾費は高校生には支給されていないことになる。

 このことは日本の学歴社会にあってある意味中卒のススメであって、高卒のススメとはなっていない経済的支援、もしくは経済的保護と言うことができる。

 何日か前の当ブログ記事に、親の所得格差が子の教育格差の世代間連鎖を扱っていたあさひテレビ3月24日(2014年)放 送『ビートたけしのTVタックル』が、東大合格率の高い都内の有名塾の年間費用が授業料・教材費その他で、高額所得の親しか賄うことのできない約115万円だということを取り上げて、こういったことが格差の大きな要因となっていると紹介していたが、このように学習塾が大学進学の大きな手段となっていて、有名大学進学程、有利な将来が約束される現状からしたら、明らかに不利な境遇に立たされていることになる。

 この不利は「将来の希望に向かって頑張る人が、その夢に向かって進んでいくことができるような社会」に安々とは身を置くことのできない困難さを物語ることにもなるはずだ。

 この証明として、《東京都における児童養護施設等退所者へのアンケート調査報告書》東京都/平成23年)を挙げることができる。

 2011年、ごく最近の報告である。

 〈児童養護施設退所後の生活 

 1973年以降、特別育成費の支給によって入所児童の高校などへの進学が増え、厚生労働省の2008年調査では、施設入所者の中学卒業後の98.5%が高等学校等(専修学校、職 業訓練施設も含む)に進学している。また、高校卒業者の18.2%が大学等(短大、専修学校、職業訓練施設も含む)に進学している。(日本全国は68.6%(平成21年学校基本調査(文部科学省))。

 高校進学率は一般化し、大学進学率も年々高まっているが、大学進学は学費の面で厳しい場合も多い。高卒後の就職は、73.4%となっている。

 児童養護施設の子どもは9.3%が中卒で施設を退所し、そのうち約半数が卒業の翌年度中(2005年)に転職を経験している。高校中退は7.6%となっている。

 虐待や親からの遺棄などの理由で児童養護施設に保護された子どもも施設退所後に生活困窮に陥りやすい。婦人保護施設長によると、そこで育った子どもは進学しなければ中卒でも施設を退所しなくてはならず、10代女性では行きずりに近い同棲後に妊娠し、相手の男性は姿を消し、婦人保護施設に入所するという例は後を絶たず、そうでなくとも施設退所後に性産業に従事して未婚の母となる場合もある。傾向としては、婦人保護施設の10代出産利用者では一人親家庭や生活保護受給者も多い。これらの10代の母は生活経験が乏しく、低学歴・就労経験不足して育児に危険性が伴う。

 児童養護施設出身者がまたその子どもも児童養護施設に預けるという「負の連鎖」、「貧困の世代間再生産」も起きている。〉――

 2009年の全国大学進学率68.6%に対して児童養護施設入所者の大学進学率は4分の1強の18.2%。2005年の統計で全入所者に対する中卒施設退所者9.3%のうち約半数が卒業の翌年度中(2005年)に転職を経験。

 このような退所後も現実社会で引きずることになる“負の連鎖”は、例え政府が最近になって特別育成費等の支給によって経済的支援、もしくは経済的保護を充実化させても、今後共続くことを十分に予感させる状況を示している。

 安倍晋三は、「先ほど、奨学金の話もありました」と言っているが、文科省は奨学金事業の改善策として今年度予算で無利子奨学金貸与人員を前年度+2万6000人の45万2000人(1人当たり平均年間68万円)としているが、無利子というだけで、元金は返済しなければならない。

 有利な就職に恵まれた者は返済可能でも、恵まれない者が返済によって逆に生活になお一層苦しめられる悪循環に陥り、ホームレス等社会の落伍者となっていく例もあると聞く。

 あるいは銀行や金融機関に就職することは極端に難しいといった就職差別、施設出身者であることを理由に結婚を断られるといった結婚差別の例もあるという。

 職業や置かれた境遇によって差別する日本社会に於いて児童養護施設入所自体が社会的不利を背負うことになる現実を考えた場合、例え将来の夢を持って実社会に出たとしても、社会的不利の現実社会に変わりはない場所で学歴や職業で新たな不利を背負うことになったとき、夢の道が自ずと狭められない保証はなく、そういった入所者の現実が無視できない事実として存在することに対して、安倍晋三はそのような事実を認識もせずに中高生相手に将来の夢を他愛もなく尋ねたとしか思えない。

 いわば「将来の夢」を聞くこと自体が、そこに差別や格差の社会的不利を置いていないことになる。

 そうでなければ、「差別の状況を変える」と強く断言すべきだったろう。

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