次期衆議院議員選挙 争点とすべき 2つのこと ◎森友・加計政治関与疑惑にまみれた 指導者を続投させるべきか否か ◎成長実感ゼロのアベノミクスを 効果があると見せかける幻想に 今後も付き合うべきか否か |
2017年10月4日付「毎日新聞」 《衆院選 「北朝鮮」争点化に躍起…希望出現で首相》なる記事の冒頭解説。
〈安倍晋三首相(自民党総裁)が衆院選(10日公示-22日投開票)で、北朝鮮対応を争点化しようと躍起になっている。2019年10月に予定する消費増税分の使途変更を衆院解散の「大義」と主張した首相だが、10月3日の演説では幼児教育無償化などには触れたものの、財源となる消費増税自体には触れなかった。希望の党が消費増税凍結を主張するなか、消費税をめぐる議論は不利になる可能性があると判断し「北朝鮮シフト」を強めている。〉
その兆候として9月28日の東京・渋谷の街頭演説で「北朝鮮の脅威と少子化という二つの国難を乗り切っていかなければならない」と北朝鮮情勢を先に説明したこと、初の地方遊説となった9月30日の京都府舞鶴市の演説でも北朝鮮対応を先に触れたことを挙げている。
9月25日の首相官邸での衆院解散表明記者会見では生産性革命、人づくり革命、少子高齢化対策としての幼児教育の無償化、社会保障制度の全世代型への転換等の政策を先に挙げて、これらの財源として消費税増税分の使途変更を説明してから、会見冒頭発言の最後の方で北朝鮮の脅威を挙げて、少子高齢化と並べて国難に位置づけている。
要するに記者会見では国民に訴える重課題の優先順位を北朝鮮脅威よりも少子高齢化問題に置いていた。ところがいざ遊説に入ると、その優先順位を逆転させた。
この優先順位逆転の理由を希望の党代表の小池百合子が消費税増税凍結を打ち出したことで構図化された「増税の自民対凍結の希望の党」の、いわば不利を覆い隠すために北朝鮮脅威を前面に打ち出すことになったのではないかとしている。
記事は優先順位逆転の効果については、〈もっとも、首相が北朝鮮対応を強調してきたのは、安全保障法制に反対した民進党を意識した側面がある。しかし、民進党は事実上解党。希望の党は安保法制容認を前面に出し、リベラル系の民進党前職を「排除」した。北朝鮮対応は、政権としての責任や実行力を訴える材料にはなるが、野党攻撃としての効果は半減している。〉と、その効果の程を低く見積もっている。
確かに記者会見では内政を先に挙げて北朝鮮の脅威を後にしたが、北朝鮮のミサイルも核も現在のところ実験の段階であって、北朝鮮による軍事攻撃や暴発の危険性が目の前に迫っているわけではない。いくら少高齢化と北朝鮮の脅威の両課題を並べて国難と位置づけようとも、内政を先に持ってくるのは当たり前のことで何の不思議もない。
安倍晋三は対話を排除した圧力こそが北朝鮮のミサイル開発・核開発放棄の最善の策だとしている。安倍晋三の頭の中は圧力が北朝鮮を追い詰めて暴発を招く危険性を忍び込ませる余地を些かも持ち合わせていない。
上記衆院解散表明記者会見。
安倍晋三「圧力の強化は北朝鮮を暴発させる危険があり、方針転換して対話をすべきではないかという意見もあります。世界中の誰も紛争などを望んではいません。しかし、ただ対話のための対話には、意味はありません。
この20年間、我が国を始め国際社会は六者協議など対話による平和的解決の努力を重ねてきました。その中で北朝鮮は2度にわたり、核・ミサイルの放棄を約束しましたが、結果としてそれらはことごとく裏切られ、核・ミサイル開発が継続されていた。
対話の努力は時間稼ぎに利用されました。北朝鮮に全ての核、弾道ミサイル計画を完全な、検証可能な、かつ不可逆的な方法で放棄させなければならない。そのことを北朝鮮が受け入れない限り、今後ともあらゆる手段による圧力を最大限まで高めていく他に道はない。私はそう確信しています」
暴発の危険性を計算に入れていない圧力信仰の発言となっている。
と言うことは、安倍晋三は圧力=放棄という図式を、予想したことが予想したままの結果となって現れることを確信する意味の“予定調和”に置いていることになる。
確かに北朝鮮の射程距離を徐々に伸ばしていくミサイル発射実験とミサイル搭載を目的とする小型化に向けた核実験は日米の安全保障にとっては脅威であろうが、にも関わらず暴発はない、圧力=放棄を“予定調和”としていると言うことなら、そのどこが国難とも言うべき差し迫った脅威とすることができるだろうか。北朝鮮による軍事的挑発、あるいは軍事的先制攻撃の強行といった暴発の危険性を計算に入れてこそ、国難とすることができる。
圧力=放棄を“予定調和”としているなら、いわば暴発の危険性を計算に入れていないなら、北朝鮮の脅威は架空の脅威――安倍晋三自身が言葉でつくり上げた脅威に過ぎないことになる。
なぜ言葉で脅威をつくり上げなければならなかったのだろうか。
安倍晋三は森友・加計安倍晋三政治関与疑惑で一時期内閣支持率を急落させた。そこへ持ってきて、北朝鮮は北海道上空を飛行コースとするICBM(大陸間弾道ミサイル)と疑われるミサイルの発射実験を二度繰返し、さらに北朝鮮発表では水爆実験を強行した。
安倍晋三は北朝鮮の脅威を言い立て、トランプと4度の電話会談、他の国の首脳とも電話会談を繰返し、何度も「北朝鮮の脅威から国民の生命・財産を守る」ことを約束、国政の喫緊課題とした。
このことが国民の頭の前面にあった森友・加計安倍晋三政治関与疑惑の記憶を前面から遠ざけて、代わりに北朝鮮脅威の記憶が国民の頭の前面に躍り出ることになり、ミサイル発射と核実験に応じた安倍晋三の動向が結果として疑惑絡みで下落傾向にあった内閣支持率を一旦は改善させることができた。
この成功体験に味をしめて、安倍晋三をして次期総選挙の北朝鮮脅威争点化を学習させたはずだ。北朝鮮の脅威を選挙の争点の前面に打ち出すことによって森友・加計安倍晋三政治関与疑惑隠しの継続も可能となり、あわよくば投票日に向けて内閣支持率上昇の再現も期待できる。
だから、選挙遊説でどこへ行っても、国民の頭の前面に北朝鮮の脅威の記憶を優先順位1位で常に刻みつけるべく、オオカミ少年もどきに「脅威」、「脅威」と言い立てることになる。