安倍晋三が2017年10月22日投開票総選挙の圧勝を受けて、自民党総裁として翌10月23日自民党本部で記者会見を開いた。自身の冒頭発言では憲法改正について一言も触れなかったが、「質疑」で記者が触れた。
「質疑」 記者「東京新聞ナカネと申します。憲法に関して質問です。総裁は衆議院選挙の選挙期間中の演説で、憲法改正に関する話題に殆ど触れることがありませんでした。自民党の公約では、最重点政策の1つとして憲法改正を盛り込んでいましたが、総裁の選挙中の説明は十分でなく、国民の理解も不十分だという印象があります。 総裁が演説で憲法の話題に積極的に触れなかった理由をお聞かせください。それから今後、自民党として憲法に関する政策の説明をどのように行っていくお考えでしょうか」 安倍晋三「それでは2つお話をいたします。まず憲法改正というのは、通常の法案と違って、衆議院で多数、そして参議院の多数を得れば、それで成立するものではありません。 ですから、政権選択に際してはいわば重要な論点として街頭演説で述べるということは当然であろうと思いますが、憲法においては、まさに決めるのは国会ではなく、国会で発議をするわけでありまして、決めるのは国民投票であります。 まさにこの国民投票の場において、具体的な条文について説明する責任があろうと思います。 今回の選挙においては、冒頭で説明させていただいたように、立党以来の我々の党是である憲法改正について、今度は初めて主要項目として掲げさせていただき、そして4項目お示しをさせていただきました。 それを我々がどう考えているかというものをお示しをしたところでございました。これは街頭でもみなさまにお配りをしているものであります。 一方、街頭で述べることは、限られた時間の中で、まさにその地域地域の生活に密着したことに対する政策を述べるものであり。 まさに街頭にお越しをいただいている若いみなさん、あるいはたくさんの小さいお子さんを連れたお母さんたち、お父さんたちにとっては、まず日本の将来について、少子化をどのように乗り越えていくのか。 どのような政策を具体的なものを実行しようとしているのか。あるいはその財源はどうなっているのか。あるいは地方においては、地方をどのように活性化させていくのか。これは切実な行為なんだろうと思います」 |
見事なまでに誤魔化し極まれり、詭弁満載の論理展開となっている。ウソつきでなければできない言葉の遣いようであろう。
「政権選択に際してはいわば重要な論点として街頭演説で述べるということは当然であろうと思いますが」と言いつつ、憲法改正での国会の役目は発議だけで、採決は役目としていない、「決めるのは国民投票」だから、国民投票の際にのみ説明責任を負っているかのように誤魔化して、自民党の政策として憲法改正を掲げていながら、選挙戦での争点として掲げないことの正当性を言葉巧みに言い立てている。
そして「街頭で述べることは、限られた時間の中で、まさにその地域地域の生活に密着したことに対する政策を述べるもの」だと都合のいい話を持ち出して憲法問題に触れなかったことの自身の“選挙戦術”は間違いはないとしている。
憲法改正のプロセスは憲法改正意思を持つ各党が自党の憲法調査会で改正草案を決めて、衆参の憲法審査会に諮り、過半数で可決、本会議で3分の2以上の賛成で憲法改正は発議される。
問題は憲法審査会の委員は衆参それぞれの各党の議席数に応じて配分されることである。今回の総選挙で自民党が単独で過半数を超える284議席を獲得、公明党29議席と合わせると、憲法改正の国会発議に必要な3分の2の310議席を3議席上回っている。
これに自民党補完勢力、憲法改正に前向きな日本の維新の会の11議席を加えると、321議席。
そして2016年参議院選挙での自公を主体としたいわゆる改憲勢力は165議席、国会発議に必要な参院3分の2の162議席を上回っている。
当然、憲法審査会の自公を含めた改憲勢力の委員は各党の議席数に応じて配分されることから、自公だけに絞っても優に過半数以上が配分されることになって、憲法改正の自民党案が可決される公算が高い。と言うより、ほぼ決まりとなる。
安倍晋三のことだから、国民投票を通しやすくするために自民党案に差し障りのない範囲で野党案を申し訳程度に取り入れると言ったことをするかもしれなが、自身の改正意思を反映させた条文はしっかりと押さえてくはずだ。でなければ、虎の子の衆参3分の2以上を獲得している意味を失う。
と言うことは、このことが結果としての事態であったとしても、国民は今回の総選挙で憲法審査会の委員配分が自公だけで過半数を超えて自民党案を通りやすくする3分の2以上の議席を与えたことになる。
対して自民党総裁としての、あるいは首相としての安倍晋三からは選挙中に「街頭で述べることは、限られた時間の中で、まさにその地域地域の生活に密着したことに対する政策を述べるもの」だとの口実で憲法問題について十分な説明が為されていなかった。
ここに意図的な作為が働いていなかっただろうか。2014年12月14日投開票の総選挙では安倍晋三は「アベノミクス解散」と名付け、選挙中はそれを争点として前面に掲げて、憲法解釈による集団的自衛権の行使容認等の安倍晋三安保法制に関してはウラ争点として戦い、自公与党で3分の2以上を獲得した。
なぜウラ争点にしたかというと、集団的自衛権の行使容認、あるいは安倍政権の安保政策自体が賛成よりも反対が上回って、国民の拒絶反応が強かったからである。
ところが投開票翌日の記者会見の冒頭で次のように述べている。
安倍晋三「今回の総選挙は、アベノミクスを成功させるため、来年の消費税2%さらなる引き上げを1年半延期するという税制上の大きな変更について国民に信を問う解散でありました。いわば『アベノミクス解散』であったと思います」
但し記者との質疑で次のように安保法制に触れている。
安倍晋三「先ず安全保障法制についてですが、今回の選挙はアベノミクス解散でもありましたが、7月1日の閣議決定を踏まえた選挙でもありました。そのことも我々、しっかりと公約に明記しています。
また街頭演説においても、あるいは数多くのテレビの討論会でもその必要性、日本の国土、そして領空、領海を守っていく、国民の命と安全な国民の幸せな暮らしを守っていくための法整備の必要性、閣議決定をもとにした法整備の必要性ですね、集団的自衛権の一部容認を含めた閣議決定に基づく法整備、これを来年の通常国会で行っていく、これを訴えて来たわけです。
このことにおいてもご支持を頂いた。当然、約束したことを実行していく。これは当然、政党、政権としての使命だと思う。来年の通常国会のしかるべき時に法案を提出していきたい。そして成立を果たしていきたいと考えています」
「7月1日の閣議決定」とは集団的自衛権行使容認の閣議決定を指す。
街頭演説での実態は殆どアベノミクスの継続の是非、アベノミクスを以ってしてのデフレからの脱却を終始訴えて、7月1日閣議決定の安保法制に関しては刺身のツマ、申し訳程度にしか訴えなかった。にも関わらず、「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」と題した閣議決定を持ち出して、それを踏まえた選挙だから、国民の信を得たことになるとの文意で狡猾にも正当化を図る。
この狡猾さはウソつきでなければ発揮できない。
そして翌年の2015年9月17日、安倍晋三は衆議院に引き続いて参議院でも自公を含めて野党の元気、次世代、改革の3党を合わせた賛成多数の頭数で押し切って安保法制を可決させている。
2014年総選挙のときの安保法制はウラ争点としてアベノミクスをオモテの争点として圧勝した選挙の構図が、再び言うことになるが、「街頭で述べることは、限られた時間の中で、まさにその地域地域の生活に密着したことに対する政策を述べるもの」だとの口実のもと、憲法問題をウラに隠す戦術で今回の選挙にも引き継がれ、前回同様に圧勝するに至った。
明らかに意図的な作為に基づいて行われた総選挙遊説中の憲法に関わる話題の回避であり、選挙で自公合わせて3分の2以上の議席を獲得できさえすれば、憲法審査会の賛成可決も可能、本会議に送って賛成成立で発議が可能となると計算した憲法に対する争点隠しであるはずだ。
争点隠しのために選挙戦中に憲法問題を意図的に取り上げなかったにも関わらず、「街頭で述べることは、限られた時間の中で、まさにその地域地域の生活に密着したことに対する政策を述べるもの」だと平気でウソをつく。