安倍晋三のミャンマー・ロヒンギャ迫害に一言も物申さない価値観外交・積極的平和主義外交の正体ここにあり

2017-10-19 11:44:50 | 政治

 安倍晋三は「自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的な価値に立脚した戦略的な外交」――いわゆる価値観外交を常々掲げている。

 そしてこのような価値観をベースとして国際協調主義に則った国際平和の実現を目指す積極的平和主義外交を同時に掲げている。その名前からして、積極的平和主義外交は対話を主体とした外交のように見えるが、安倍晋三が新安保法制で憲法解釈による集団的自衛権の行使を容認し、自衛隊の海外派兵に道を開いたように軍事的側面をも強調した積極的平和主義外交を構造としている。

 ただの平和主義ではないぞ、というわけである。

 2017年9月14日付「Newsweek」記事は、9月11日、〈ゼイド・ラアド・アル・フセイン国連人権高等弁務官がジュネーブで始まった国連人権理事会の冒頭演説で、ミャンマーで起きている事態は「民族浄化の教科書的な典型例」だと糾弾した。〉と伝えている。    

 対してミャンマー政府は、勿論のことと言うべきか、〈取り締まりの対象は武装勢力で、民間人には危害を加えておらず、民族浄化は行われていない〉と否定している。

 ミャンマー政府の否定にも関わらず2017年10月11日には国連人権高等弁務官事務所はミャンマー国軍が最大宗教90%の仏教徒に対して4%のイスラム教徒少数民族ロヒンギャを国外に追放するだけでなく、帰還を阻むため、意図的に家屋や田畑を破壊・放火しているとする調査報告書を公表している。

 ミャンマーのロヒンギャ迫害は歴史的なものらしい。「Wikipedia」の記事を纏めてみると、インド支配後のイギリスは3次に亘るビルマとの戦争でビルマを支配。1942年に日本は植民地支配に苦しむビルマを解放するとの名目で侵攻、イギリス軍を駆逐し、傀儡政権を擁して事実上支配したもののイギリスの反攻に対して日本軍は仏教徒の一部を武装化。

 対してイギリス軍はイスラム教徒の一部を武装化、ビルマの西端、インド洋に面するラカイン州に侵入させ、日本軍との戦闘に利用したが、現実の戦闘はイスラム教徒仏教徒が血で血を洗う宗教戦争の状態となり、ラカイン州に於ける両教徒の対立は取り返しのつかない地点にまで至ったとある。

 以後両宗教間の憎悪を感情的な土壌とした対立は続き、一部過激派化したイスラム教徒によるミャンマー人に対する攻撃、そして多数派仏教徒のミャンマー国軍による少数派イスラム教徒に対する家屋や田畑の破壊と放火、虐殺やレイプなどの組織的な迫害と追放が続き、民族浄化の状況に至ることになっている。

 今年2017年8月25日にミャンマー西部ラカイン州で始まったロヒンギャ武装集団と治安部隊の戦闘を避けるために隣国バングラデシュに逃れたロヒンギャ難民が50万人を超えたとマスコミは伝えているが、1990年以降の難民と合わせると100万人近くに達しているようだ。

 2016年3月30日、民主的な選挙で国軍支配の前政権に勝利したが、憲法の規定により夫が外国籍であるために大統領に就任できなかったアウンサンスーチーは外相、大統領府相、国家顧問に就いて新政権の実質的指導者となったが、スー・チーの国政進出、大統領就任の阻止を企んできた国軍を掌握するまでに至らず、仏教徒がミャンマー国民の90%を占め、ロヒンギャに対する反感が強いことから無力であるらしく、長い間沈黙を守ってきたが10月12日、ロヒンギャ問題に対するミャンマー政府の対応への各国政府の批判の高まりに応じてロヒンギャの難民や国内避難民が大量に発生している事態打開に向けて自らが率いる新組織を設立し、難民の帰還や人道支援などの活動を来週開始すると発表した。

 但し各国政府の批判の中に日本政府は含まれていない。文飾は外務省。

 〈ミャンマー・ラカイン州北部における襲撃事件の発生及びラカイン州助言委員会による最終報告書の発表(外務報道官談話) 〉「外務省」/平成29年8月29日)  

1 8月25日以降,ミャンマー・ラカイン州北部各地において発生している治安部隊等に対する襲撃行為は絶対に許されるものではなく,強く非難するとともに,犠牲者のご遺族に対し,心からの哀悼の意を表します。また,現地の治安回復,住民の保護及び人道支援アクセスの一刻も早い確保を強く期待します。
2 日本政府は,コフィ・アナン元国連事務総長率いるラカイン州助言委員会による最終報告書に示された,同州の平和と安定の実現のための勧告の履行に係る,ミャンマー政府の努力を支援していきます。

【参考】
 日本時間25日午前3時30分(現地時間同日午前1時)頃から,ラカイン州北部マウンドー,ブーディータウン地区内の30箇所以上の警察拠点が,武装勢力の襲撃を受け,28日までに,一般市民を含めて100名以上の死者が発生(ミャンマー政府発表)。アラカン・ロヒンジャ救世軍(ARSA)と名乗る組織が犯行声明を発表し,ミャンマー政府はARSAをテロ組織に指定すると共に,襲撃行為を強く非難した。ラカイン州北部各地で,武装勢力による攻撃は継続しており,警察,国軍との間で衝突が発生し,数千人の避難民が発生している。

 また,24日,コフィ・アナン元国連事務総長率いるラカイン州助言委員会は,同州の恒久的な平和と繁栄の実現のための包括的な勧告を含む最終報告書をミャンマー政府に提出。ミャンマー政府は,同報告書の提出を歓迎し,勧告内容の早期履行のため検討を進める旨発表。

 〈襲撃行為は絶対に許されるものではなく,強く非難〉と太字で表記しているが、これはミャンマー政府側に立ち、アラカン・ロヒンジャ救世軍(ARSA)をテロ組織と見做して一方的に非難するものとなっている。

 軍隊が襲撃対象の家屋や田畑を徹底的に破壊、あるいは放火し、虐殺やレイプなどの組織的な迫害と追放を徹底的に行うのは廃墟化させて二度と人間が住めないような場所にすることで住民が戻ってきてテロの温床とすることができないようにするためであろう。

 だからと言って、非戦闘員まで破壊や放火を用いて、あるいは虐殺やレイプを用いて迫害することは許されない。

 国連が2017年9月14日の時点で、ミャンマー国軍によるロヒンギャ攻撃が「民族浄化の教科書的な典型例」と糾弾し、2017年10月11日にはロヒンギャを国外に追放するだけでなく、帰還を阻むため、意図的に家屋や田畑を破壊・放火しているとする調査報告書を公表しているにも関わらず、日本の外務省は2017年8月29日の日付でロヒンギャの武装勢力を一方的に非難する記事を載せたままでいる。

 安倍晋三は「自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的な価値に立脚した価値観外交をベースとした積極的平和主義外交を掲げながら、ロヒンギャに対するミャンマー国軍のこのような“民族浄化”を一言も物申さすにいる。

 安倍晋三のこの沈黙は外務省の上記「外務報道官談話」に相互対応している。安倍晋三が自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的な価値を最重要視し、そのような価値観でロヒンギャ問題を捉えてミャンマー政府に対して何か一言物申していたなら、外務省は上記内容の談話は早々に引っ込めていたはずだからだ。

 ミャンマー国軍のロヒンギャに対する“民族浄化”レベルに達している破壊と追放の迫害に一言も物申さない。安倍晋三の価値観外交・積極的平和主義外交の正体がここにある。

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