選挙戦初めての週末香川県坂出市での安倍晋三の遊説演説。「NHK NEWS WEB」(2017年10月14日 19時19分)
安倍晋三「我々が一つ一つ政策を進めた結果、民主党政権では下がったGDP=国内総生産は493兆円から543兆円と50兆円増えた。
株価も上がり、昨日の日経平均株価は21年ぶりの高値になった。株式市場で運用している年金は、この4年半で46兆円も資産が増え、年金財政はしっかりしたものになってきた。
国のもといである農業は統計をとって初めて3年連続で40歳以下の若い就農者が毎年2万人を超えた。若い人が自分の情熱でこの分野を切りひらいていくことができる、そう思える農業になり始めている。がんばった成果が出てくる農業、努力が実る農業に私たちは変えていく」
「民主党政権では下がったGDP=国内総生産は493兆円から543兆円と50兆円増えた」と自慢たらたらである。
国が公共事業を1兆円支出すると、その時点でGDPは1兆円上乗せされるという。
第2次安倍政権の1年目の2013年度からの当初と補正合計の公共事業費はを見てみる。千円単位は切り捨て
2013年度 6兆1140億2008万円
2014年度 6兆4057億9972万円
2015年度 6兆5469億8532万円
2016年度 7兆4636億0300万円
合計すると、26兆5千億円程度になる。この段階で既に「50兆円増えた」と言っている半分以上の中身が公共事業費に過ぎない。
このカネが建設業界等に回って、幾分か会社の儲けになったり、その従業員の賃金になって、それらのカネが消費に回り、小売業等の収入へと波及していく。その全てがGDPに加算されるわけではないが、各段階の付加価値がGDPに加算される。
但しこれらの公共事業費を含めて、政府は国債を発行して賄っている。国が公共事業費や出資金・貸付金の財源に充てるために発行する建設国債の発行額を「国債発行額の推移」(当初ベース)から見てみる。
(単位:億円)
2013年度 57,750 5兆7750億円
2014年度 60,020 6兆0020億円
2015年度 60,030 6兆0030億円
2016年度 60,500 6兆0500億円
2017年度 60,970 6兆0970億円
合計 31兆2930億円
公共事業費の殆どを建設国債で賄っていることになる。要するに借金で賄っている。2013年度から2017年度までの全国債発行額(建設国債+特例国債+年金特例国債+復興債+財投債+借換債)の合計は838兆1千億円
こう見てくると、あまりどころか、全然自慢にならない「50兆円増えた」となる。だが、平気で自慢する。
安倍晋三は「株価も上がり、昨日の日経平均株価は21年ぶりの高値になった」と言っているが、日銀が金融緩和の一環として2013年4月から開始した日本を代表する大手企業225社を対象とした株価の平均である日経平均株価連動のETF(上場投資信託)大量購入が株価を下支えしていると言われている。日経平均に連動しているゆえにETFを購入すると、「日本を代表する大手企業225社すべてに投資」するのと同じ効果が得られて、日銀が年間3.3兆円程度の購入(2016年7月には6兆円の購入 )でも株価吊り上げに効果あるという。
株価は企業収益から導き出される価値でありながら、日銀の資金(バラ撒き)で株価を吊り上げ、吊り上がった株価で企業が収益を上げる。この構造はアベノミクスが株価反映の企業収益に殆んど役に立っていないことを意味する。
建設国債を大量に発行して公共事業を行い、GDPをそれなりに押し上げたとしても、株価の吊り上げに日銀のETF購入に頼っている。それをアベノミクス効果に自慢げに組み入れる。
「農業は統計をとって初めて3年連続で40歳以下の若い就農者が毎年2万人を超えた」と言っているが、一方、多方面で人手不足が生じている。僅かばかりの賃上げも企業収益が仕向けているのではなく、人手不足が演じているに過ぎない。だから、賃上げ額が僅かばかりとなる。
このような原理を強いられていることに対して人口減少に歯止めを掛ける政策に関しては無力なのだから、「毎年2万人を超えた」は一つの現象を表面的に捉えた皮相な自慢に過ぎない。
衆院選の投票日まで残すところ1週間となった唯一の日曜日の安倍晋三の札幌市での遊説演説を2017年10月15日付「NHK NEWS WEB」記事が紹介している。
安倍晋三「1人の正規雇用を求める求職者に対し、1人の正規の職があるという状況を、私たちは初めて日本でつくりだすことができた。
この前、あるお年寄りが『安倍さん、最初の孫は運が悪くて民主党政権時代に就職した。なかなか就職が決まらなくて悩んでいる孫の顔を見るのがつらかった。でも次の孫はおかげさまで行きたい会社に行けたんだよ』と言ってくれた。
若い人たちがみずからの努力で未来をつかみ取ることができる、働きたい人が働くことができる、これこそ未来ある希望ある社会ではないか。こういうことが真っ当な社会だ。私たちはもっともっと多くの皆さんにこの景気を実感してもらいたい」――
景気は循環して現れる。民主党政権時だけが就職難の時代ではない。「失われた20年」と言われている日本の経済低迷期は自民党政権下の1990年代初頭のバブル崩壊後から始まり、2009年9月から発足した民主党政権はその最中(さなか)にあり、その2年半後に東日本大震災が発生している。
そしてバブル経済崩壊と共に大規模な就職難の時代を迎え、1993年頃から2005頃まで就職氷河期と称されることになった。4年後に民主党政権時代を迎えているが、一気に就職率が良くなるわけではないし、大震災が景気回復の歩を鈍らせてもいる。
第2次安倍政権下の有効求人倍率1にしても、人手不足による囲い込みが多分に幸いしている面があり、当然、景気が少しでも悪化した場合、放り出されことになる囲い込みであろうから、手放しで絶賛できる就職状況というわけではない。
にも関わらず、安倍晋三は雇用増や有効求人倍率、株高等々を根拠にかくもアベノミクスの効果を宣伝してやまない。2012年12月の第2次安倍政権発足後に始まったアベノミクス景気が1990年前後のバブル経済期を抜いて戦後3番目の長さになったと言うことだが、長いだけが自慢で、「実感なき景気」という有り難い評価を頂戴している。
安倍晋三が好景気の謳い文句としているこれら指標に反した個人消費の低迷はアベノミクスが格差ミクス、あるいはカネ持ちに有利なカネ持ちミクスの何よりの証明であろう。
「平成28年国民生活基礎調査の概況」((厚労省/2017年6月27日)から所得金額階級別の年収を見ると、中央値(所得を低いものから高いものへと順に並べて2等分する境界値)は428 万円であり、平均所得金額(545 万8 千円)以下の(世帯数の)割合は2016年6月2日現在に於ける全国の世帯総数(熊本県を除く)4994万5千世帯の半数以上の61.4%が平均所得金額以下となっていることは格差の一つの状況を示している。
しかも100万円未満から400万円の所得に占める世帯の割合は46.5%、100万円未満から300万円の所得に占める世帯の割合は33.3%で、それぞれが61.4%の半数以上を占めていることも格差の反映と言える。
100万円未満の世帯は6.2%、約300万世帯前後で流石に少ないが、日本は経済大国と言われている。そして物価も高い。アベノミクスの円安を受けた生活必需品の値上げで苦しめられている。
このことも格差を示すが、所得金額階級別の年収が低くなる方向に世帯数が多い傾向はアベノミクス景気によって大企業が軒並み戦後最高益を得ている好景気状況に反していて、何よりも格差の状況を示していることになる。
このような格差社会を「これこそ未来ある希望ある社会ではないか。こういうことが真っ当な社会だ」と図々しくも平気で言い替えることができるのはペテンもいいとこで、そのツラの皮は相当厚く仕上がっているようだ。