■艦上からの日本近海の船舶
イージス艦“あたご”の漁船衝突事件。海上保安庁による捜査が、まだ明確な情報を出さないまま、漁船の航路とイージス艦の航路について、憶測が乱れ飛び、憶測を精査しないまま、連日のようにテレビのニュース、ワイドショーが採り上げている。
当事者、目撃者以外から得た情報は、想像の産物であり、想像の情報を挙げて、コメンテーターが議論するのは、妥当性に疑問符が付かないでも無いが、自衛隊叩きの要素を必死でさがし、競って過熱報道がすすんでいるようにみえるのは私だけか。あたご乗員は上陸も許されず、横須賀から舞鶴に戻れる目処も立たない中、一方的な過熱報道。もはや報道被害の域というべきやも。本日は、あたご航路情報などが正式な情報がない中で記せば、その仲間入りとなってしまうので、体験航海で見た、そして撮った様子を紹介したい。
護衛艦“はるな”。展示訓練における写真である。写真は5インチ砲空包発射に備えて、慌しく安全確認を行っている様子。この場所は、艦橋の隣にあり、入港や出港はもちろん、航行中であっても常時人員を警戒として配置し、船舶往来や小型船の接近に備えている。双眼鏡は、集光性がSIGUMAのF.2.8のようなレンズと比べても比較にならないほど思いのほか明るく、航海レーダー以外にも肉眼で安全確保を行っている。
舞鶴湾を出港する途上、後続する護衛艦“あぶくま”の間を通るべく、プレジャーボートが待機している。距離は充分あったのだが、それよりも休日の日本海でこれだけの船舶が往来するのか、と驚かされた次第。これだけの船舶が出港するならば、当然ながら同じだけの船が帰港するわけである。したがって、先に述べた艦橋やCICの監視要員は万全を期して任務についている。
ところかわって、今度は大阪湾展示訓練での写真。舞鶴湾や若狭湾よりも大阪湾の方が船舶往来量は多い。
海上自衛隊の操艦技術については、体験航海などで単縦進航行や一斉回頭などを何度もみていると当たり前に見えてくるが、この一見、単純な航行も海軍で艦隊勤務の経験がある大学院の留学生にいわせると中々難しいのだとか。それも途上国海軍ではなく、3000㌧級のフリゲイトや駆逐艦を20隻以上保有している国の海軍OBから出ると、なるほど技量は高いのか、と。
海上自衛隊は、その高い操艦技量を一般の人たちには展示訓練や観艦式などで公開している。この展示訓練や観艦式では、艦隊行動の実施海域が海上保安庁の航路情報で公表されているのだが、船舶がその海域に進入してこないように、警戒船を配置する。写真の交通船2150号型も警戒船として航行しているもので、横断幕には“警戒中”と書かれている。小生、まさか、航路情報で何度も回頭を行う訓練海域に入ってくる、いわば高速道路を横断するような危険を冒す船はいないだろう、と正直思っていた。
しかし、交通船5152号が速力を徐々に上げて行く様子が目に入った。よくよくみてみると、一隻のプレジャーボートが艦隊行動の真ん中を通過しようと接近。警笛を鳴らし、航路を変更するように促すが、それでも真っ直ぐと進んでくる。結果、洋上のカーチェイスのような写真となった。入ろうとする船もいるのか、と驚いた瞬間である。興味本位か、通りたかったのか、今では確認する術はないが、この写真のような状況があったことだけは紛れもない事実である。
展示訓練を終えて、艦は神戸港摩耶埠頭に接岸作業を行う。すると一隻のプレジャーボートが入港作業中の護衛艦に接近してくる。航路警戒にあたっている海上保安庁の巡視船が警笛を鳴らし、護衛艦からもハンドマイクで進路変更し、距離をとるように叫ぶ。それでも進路は変更せず、護衛艦にどんどん接近してくる。
小生は飛行甲板にて接近船舶を見守るのみ(船名など一部にモザイク加工を行っておりますがご了承下さい)。他の展示訓練見学者も、おいおい、ここまで接近して大丈夫なのか、というような呟きが聴こえてくる。巡視船はこちらに向かい、警笛を鳴らすが間に合わない、このままでは衝突。ゆるやかに艦中央部に向かう、機関部のガスタービンエンジンへ進んでいる。
非常に危険な距離まで接近したのち、進路を急転換し、艦尾のシースパローミサイルランチャーの後方に消えていった。しかし、再度、進路を転換して艦尾周辺をしばらく航行、徐々に遠ざかっていった。この写真で距離は20㍍程度。きわどい瞬間であった。
日本近海の船舶往来量は非常に多く、展示訓練というひとときでもこのような状況に出くわしたという実情を、とりあえずお知らせした次第。
■今後の対策 監視要員増強とシースワップ
今回の事故は、二名の人命以上に報道加熱は目立っているが、本質は別のところにあるように思う。事故の根絶を前提として、警戒人員の増強と、乗員の負担軽減という二つの視点から、少し考えてみたい。
今回の衝突事故をみてゆくと、イージス艦の警戒要員、交代のタイミングなどが、報道では問題視されている。ここで思うのだが、衝突防止に加えて対テロなどの視点の観点から、アメリカ海軍の艦艇並みに、もう少し警戒要員を増やしてみてはどうかな、と思ったりする。米海軍は、ソマリアのアデン港で自爆ボートによりイージス艦を大破させられた戦訓から警戒要員を増加させている。
艦橋横には12.7㍉機銃を連装で装備し、上甲板には左右にそれぞれ25㍉機関砲と12.7㍉重機関銃を配置している。横須賀基地に入港していても、写真の乗員はM-16A2突撃銃を構え、また一部の兵士はベレッタ9㍉拳銃を腰に帯びて警戒に当たっていた。停泊時でこれだけの警戒を行うのならば、航行時の警戒はもう少し多いのかな、と。
25㍉機関砲。ブラットレー装甲戦闘車や87式偵察警戒車に搭載されているものと同じ動力式の機関砲で。右舷、左舷に配置されている。海上自衛隊の補給処には、除籍艦から取り外した5インチ砲が保管されているようなので、旧式のエリコン20㍉機関砲なんかも保管しているのではないか。銃座を設置して人員を配置すれば、射手と弾薬手、銃座指揮官の三名が就くので、テロ対策にもなり、安全管理対策にもなるはずである。
今回の事故の背景には長期間にわたる航海があるという疲労度からの指摘もある。補給艦乗員を例に挙げるまでも無く、9.11対テロ派遣を契機に艦艇乗員への負担は大きくなっているのではないか。
シースワップという制度がある。米海軍などでは、極めて長期にわたる展開では、乗員の一部を航空機で輸送し、乗員を一定期間を置いて交代させている。固有の艦艇乗員を採る海上自衛隊ではこの方式は難しいかもしれないが、艦隊規模で同型艦の乗員を融通し、負担を極力軽減させるような方式に海上自衛隊も検討して然るべき時期が来たのではないかと考えたりする。海上自衛隊には人員輸送に用いることが出来るYS-11輸送機を保有している。
シースワップ制度は、9.11以降の2002年8月から米海軍で導入された制度で、これによりクルーの艦隊勤務は一ヶ月程度とすることが出来る。人員交代にYS-11では航続距離が不足というのであれば、航空自衛隊はKC-767空中給油輸送機を導入しているが、可能であれば一時期言われていた中古のボーイング767型の政府専用機として装備するという話を再検討し、可能ならば四機程度を導入、海上自衛隊におけるシースワップ制度の導入を検討してみてはどうだろうか。
艦艇勤務は過酷である。今回、“あたご”が自動操舵を用いて航行していたことが、問題点の一つとして挙げられているが、年月年始返上でハワイで三ヶ月近くに及ぶ訓練、疲労も背景にあろう。艦艇が削減される中で負担は増大しているという海上自衛隊を運用する政治側の問題があるようにも思えてくる。現場に責任を押し付けるだけではなく、艦艇の充実や人員の確保などの観点から防衛大綱の改訂を含め検討が必要なのかもしれない。
HARUNA
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