■SEA SWAP
ミサイル護衛艦“あたご”衝突事故は、いまだ衝突した漁船の乗組員二人が行方不明のまま推移しており、捜索活動が続けられている。一刻も早い発見を願いつつ、抜本的な再発防止案を一つ提言したい次第。
あたご事故について、コメントで書いた、シースワップは、人員の一部を順次、入れ替えてゆくという方法なのだと勝手に誤解していたが、よくよく調べてみると、世界の艦船誌通巻648号に解説があった。人員の一部ではなく、艦船を展開海域に残し、乗員だけそのまま入れ替わってゆくという方式。背景には米海軍の人的不足があるようで、現状の人員を輸送する手段だけやりくりすれば、実現可能な方式。この点は、同じく、人員不足になやみ、同時に艦艇も削減されている海上自衛隊にも学ぶべき点を提供するのかな、と。他方で、本質的な解決策を講じなければ十年二十年先までの再発防止とはならないようにも。
今回発生した衝突事故の背景には、三ヶ月にも及ぶ航海が一つとして考えられる。考えてみれば、数年前のインド洋対テロ作戦給油支援任務派遣艦艇での続発した諸問題なども、あまりにも長い航海と任務が背景にあるのではないか。この点、疲労困憊やストレスを配慮しないまま、過剰な負担を強いた政治的な背景もあるように思える。なんとなれ、給油支援に対応可能な海上自衛隊の全補給艦を集めても五隻、弾道ミサイル防衛に対応できる海上自衛隊の全イージス艦を集めても五隻。これは紛れもない事実である。
実際体験したことが無い身の上で、又聞きした情報なので恐縮だが、艦隊勤務は過酷である。インド洋に派遣されれば、夕方にちょっと外出、なんてのも無理だし、ハワイでの訓練派遣であっても、やはり上陸は制限される。洋上でのプライバシーは寝台特急のB寝台並で、三ヶ月間、B寝台は辛いやも。艦内の居住区画の実情をみると、せめて施錠できるような扉はいらないからソロB個室(B寝台と同じ料金のやつね)並にならないか、と思ったりする。
艦隊勤務が厳しいのは外洋海軍の世界では共通のようで、アメリカ海軍でも艦隊勤務、特に長期の航海は嫌がられているようだ。例えば、空母機動部隊をノーフォーク海軍基地からペルシャ湾に派遣すると、片道だけで約一ヶ月必要となる。半年間の派遣ならば二ヶ月間が移動、四ヶ月任務、ということになる。
ここで提示されたのがシースワップ制度。三隻の同型艦の内、一隻を派遣して、6ヶ月置きに乗員だけ空輸で交代させる。同型艦であれば、新しい艦に乗っても、基本的に同じ設備を同じ要領で扱うことが出来る。すると、現地に艦艇だけ往復を含め20ヶ月展開させることができ、乗員の展開期間はこれまで通り、結果、負担は軽減することができる。往復二ヶ月必要とする海域への部隊派遣に固有の艦艇に固有の乗員を組み合わせて実施した場合、6ヶ月航海を基準として任務対応期間は各4ヶ月。20ヶ月間で5隻の艦艇が必要となる。これがシースワップ制度を用いれば3隻で対応することが出来るということ。
戦略ミサイル原潜では、一隻に対して二組のクルーを用意して、稼働率を向上させていたが、シースワップ制度では同型艦三隻と三隻分の乗員を、一隻だけ派遣、一隻だけクルーをローテーションさせる。派遣任務から戻った乗員は、航空機で帰国し、入れ替わりの交代で乗員が居なくなった同型艦に乗艦し、任務にあたる、というわけ。同型艦とはいえ、乗員を全て入れ替えるには、米海軍でも抵抗があったようだが、次期駆逐艦などが大型化し、コスト高(3000億円くらい)により配備数が制限されることを考えれば、止むを得ない措置として、検討されているようだ。
艦艇の効率運用方策を人員の負担軽減に流用するのは、万全とは言いがたいかもしれないが、シースワップ、検討に値するのではないか。海上自衛隊の場合、アメリカ海軍の6ヶ月勤務と比べれば、短い、と思われる方もいるかもしれないが、アメリカ海軍が横須賀に持っているような海外拠点が無く、また、ノーフォークから中東までは英語圏の豪州フリーマントルを中継地としているが、日本語圏の中継地というものも無いのが実情だ。神戸の阪神基地のような規模で、海上自衛隊真珠湾基地やモルディブあたりにマレ基地を新設するというのも難しい。このことを踏まえれば、6ヶ月以下の派遣でも、可能な限り乗員の空輸交代などを検討して然るべきではないか、と。
海上自衛隊が、まず汎用護衛艦でシースワップを実施すると想定してみたい。三月までに、海上自衛隊では地方隊の護衛艦部隊である護衛隊を護衛艦隊に編入する改編を実施するが、更に一歩進んで、同型艦3隻からなる護衛隊に全て改編し(むらさめ型が9隻あるので三個護衛隊、あさぎり型は練習艦所要を差し引いて6隻なので二個護衛隊、はつゆき型が練習艦所要を差し引いて11隻あるので、三個護衛隊と+α、最新の、たかなみ型が5隻・・・)、同型艦編成の9個と混成編成の1個、そして小型護衛艦、あぶくま型6隻の2個、12個護衛隊を各護衛隊群に配分して、護衛隊の中でシースワップを行う、という制度としてはどうか、と。
固有の艦への愛着や、護衛隊の中での優秀艦を目指して練成しているという海上自衛隊の現状は背景にあるが、これを所属する護衛隊での技量練成に代えることはできないのかな、と。なお、海上自衛隊の任務範囲広域化と艦艇や予算削減を両立する上で、他に名案があるのなら、また話は別。極力、護衛隊を構成する護衛艦は異動させず、護衛隊の固定化を図り、その中でシースワップの人員をやりくりする、というかたち。
ただし、イージス艦の場合は、そもそもシースワップをしようにも、“こんごう”型四隻、“あたご”型が新造の“あしがら”就役でようやく二隻の計六隻である。補給艦であれば“とわだ”型三隻と“ましゅう”型二隻、ともに護衛艦隊直轄艦なのだが、イージス艦はそれぞれ、第61・62・63・64護衛隊に配備されており、三月の改編で、護衛隊群のDDGグループ直轄艦として更に動かしにくくなってしまう。
イージス艦だけによる二隻基幹の護衛隊ならば三個可能なので、思い切って、護衛隊群を大型化し、汎用護衛艦による護衛隊×3、ミサイル護衛艦による護衛隊×1、そして直轄艦としてヘリコプター護衛艦、イージスシステムを搭載していない在来型ミサイル護衛艦(これも、はたかぜ型に関してはSPY-1Kでいいのなら、イージス艦に改修することも出来なくは無いんだけど、コストの関係で非現実的)を配置する、護衛隊群編成に移行。在来型ミサイル護衛艦は将来的にイージス艦により代替し、順次二隻編成を三隻編成に移行する。という方法もあり得るのでは、と。定数は護衛艦だけで14隻、場合によっては第一艦隊(横須賀)、第二艦隊(佐世保)、第三艦隊(舞鶴)として、潜水艦隊をそのまま第四艦隊(呉)としてしまう、とか。
削減することだけに重点が置かれた冷戦後の自衛隊は、基幹部隊の効率運用と抑止力維持、能力強化に重点を置いた、自衛隊再編ということを本気で検討するべき時期がきているように思う次第。
最後になりましたが、本日1034時、YAHOO検索から“饗庭野演習場 八尾駐屯地”で検索され、“航空自衛隊 装備名鑑”にアクセスされた方を以て、Weblog北大路機関はアクセス解析開始から34万アクセスを突破しました。たくさんのアクセス、ありがとうございます。
HARUNA
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)