■呉地方隊展示訓練
海上自衛隊呉地方隊展示訓練、この大阪湾展示訓練詳報は、いよいよ神戸港を出港した様子を前回紹介した(詳細はこちら→※)。そしていよいよ、大阪湾における展示訓練の様子を紹介したい。
神戸港を出港した護衛艦「やまゆき」は大阪港より展開している輸送艦「くにさき」や潜水艦、訓練支援艦などの部隊と合流し、一列に航行している。
群青の大海原を背景に、この一列の陣容は以下の通り。護衛艦「うみぎり」が「やまゆき」の先を行き、輸送艦「くにさき」、訓練支援艦「くろべ」、練習潜水艦「ゆきしお」、多用途支援艦「ひうち」、掃海艇「つきしま」である。
護衛艦「うみぎり」。第4護衛隊群第8護衛隊の護衛艦で、8隻が建造された「あさぎり」型護衛艦の最終艦である。映画「ガメラ2 レギオン襲来」において松島湾に潜むガメラを発見したことで一躍有名となった本艦は、満載排水量4950㌧、飛行甲板や通路には多くの観覧者が並んでいることがよくわかる。
旗艦「ひえい」を中心に、先頭を護衛艦「まつゆき」、しんがりを護衛艦「せとゆき」が固めている。護衛艦「まつゆき」「せとゆき」は、この写真を撮影した「やまゆき」とともに呉地方隊第22護衛隊を編成している。この「はつゆき」型護衛艦は、対潜、対艦、対空にバランスのとれた4000㌧級護衛艦である。望遠レンズの圧縮効果もあるが、ヘリコプター護衛艦へも遅れを取らない大きな艦容だ。
「ひえい」と「せとゆき」。この大阪湾展示訓練が実施される海域は、淡路島の津名港沖で、神戸港からは20浬、大阪港からは23浬の距離がある。今回の展示訓練参加艦艇は、12隻。更に6隻の艦船が警戒艦艇として参加している。これにエアクッション揚陸艇を含めると20隻となる。
先頭をゆく護衛艦「まつゆき」、いよいよ呉地方隊展示訓練の開始だ。どこまでも広がる大海原であるが、ここは神戸港、大阪港などに向かい多くの船舶が往来する大阪湾。展示訓練が行われる海域は1浬×5浬。ここに20隻の艦船が集結し、艦隊行動などを展示するのだから、海上自衛隊が世界に誇る高い操艦技術が試される瞬間である。
第四護衛隊群旗艦「ひえい」には、呉地方総監の半田謙次郎海将と、第4護衛隊群司令官井上力海将補が座乗している。なお、井上司令官は、第4護衛隊群司令官に続き、練習艦隊司令官の要職を拝命しており、同じ呉を基点として、日本に、世界に活躍されていると聞く。
背負式に二門が搭載された5インチ砲と、航空関連施設の調和が美しいヘリコプター護衛艦「ひえい」は、満載排水量6800㌧、ヘリコプター3機を搭載する「はるな」型護衛艦の二番艦として1974年に就役している。海上自衛隊では「はるな」に続き最古参の形式である「ひえい」であるが、大型のヘリコプター格納庫は、HSS-2A、HSS-2B、SH-60Jとヘリコプターの世代交代にも難なく対応しており、国際貢献などに任務が増加した新世紀の海上自衛隊にとって、不可欠な航空機運用能力を提供している。
観閲航行を終え、訓練展示に移行するべく、艦隊は一斉に回頭を開始する。14000㌧の「くにさき」の遠景には、警戒艦として参加している呉地方隊直轄の輸送艦「ゆら」が見える。本来であれば、観閲航行とともに航空観閲部隊として海上自衛隊よりP-3C哨戒機、US-1A救難飛行艇、SH-60J哨戒ヘリコプター、TC-90練習機、T-5練習機が、陸上自衛隊よりOH-6D観測ヘリコプター、UH-1多用途ヘリコプター、AH-1S対戦車ヘリコプターが参加する予定であったが、悪天候により中止となってしまった。
回頭の際に、二隻の掃海艇が重なる。掃海艇「つきしま」と、向こうには阪神基地の掃海艇「くめじま」がみえる。「くめじま」は警戒艇として参加。二隻とも、呉地方隊第42掃海隊の所属で、大陸棚程度までの中深度掃海が可能な「うわじま」型掃海艇である。高価であるが機雷掃海に不可欠な非磁性や耐爆性に優れた木製船体を採用しており、満載排水量は570㌧である。
高速航行展示を行うエアクッション揚陸艇。輸送艦「くにさき」に搭載されている。2隻が高速航行を展示した。通常60トン、最大75トンまでの車両や装備を搭載し、母艦を発進、沖合い95浬から40ノットで海岸に直接揚陸させる装備。2003年までは、搭載艇扱いであったが、現在は自衛艦扱いとなっており、同艇6隻で第1エアクッション艇隊を編成している。なお、運用は護衛艦隊第1輸送隊だが、整備は呉地方隊造修補給所のLCAC整備所が実施している。
操作性に優れ、その一端を展示していたが、水飛沫が凄いということが伝わってきた。くるくると廻っている性能は、航空機のようだが、実は整備なども航空機に準じているとのこと。なるほど、ホバークラフト方式だけに小回りは利いている、ただ、水飛沫で「せとゆき」の艦影が霞んでしまっており、もしかして艦まで水飛沫は届いていたりするのかな?と思ったりしてしまった。
続いて一斉回頭。観閲航行の際に、「ひえい」とともに、「やまゆき」と反航していった練習艦「あさぎり」「やまぎり」も艦列に加わっている。よくみると、ヘリコプター格納庫内にプレハブ式の建物がみえるが、これは練習艦として運用するために必要な講堂などを収めている。
淡路島を背景に回頭する「ひえい」。この展示訓練では、淡路島津名港沖の1浬×5浬の海域を用いて実施しているのは前述したが、20隻の艦船が行き来するには決して広いとは言えず、頻繁に回頭航行を行った。海上保安庁航路情報にて情報を開示しているのだが、展示訓練の航行に割り込もうとするクルーザがあり、警戒船により退去させられる一幕もあった。
訓練支援艦「くろべ」。満載排水量2550㌧で、訓練支援艦「てんりゅう」とともに、護衛艦隊の第1海上訓練支援隊に所属している。母港は呉。本艦は、艦隊の対空射撃などを支援するべく8機の高速標的機を搭載、マストの根元に装備されたフューズド・アレイ・レーダーにより管制する。
射撃評価をこれまでは発射艦が独自に行っていたのだが、複数の目標を操作可能で、第三者的視点から訓練を評価させることができる海上訓練支援隊により、護衛艦隊の対空戦闘能力は大きく向上したとされる。後部甲板にみえる蛍光色のものが、無人標的機チャカⅢとBQM-34AJ改である。背景にみえるのは回頭を終えたヘリコプター護衛艦「ひえい」。
回頭の際には複数の艦艇が様々な姿をみせることが嬉しい。護衛艦「せとゆき」と多用途支援艦「ひうち」。こうした回頭に一般船舶が巻き込まれないよう本訓練の警戒艦には、小松島航空隊の交通船2145号、阪神基地隊本部の交通船1028号、呉港務隊の交通船2152号と、呉水中処分隊の水中処分母船4号、輸送艦「ゆら」、掃海艇「くめじま」が出動している。
SH-60Jが掃海艇「つきしま」上空を行く。飛行展示は、大幅に縮小され、SH-60J哨戒ヘリコプター2機が参加した。66機が6個航空隊で運用されている海上自衛隊の主力航空機で、速力は149ノット、二本の対潜魚雷を携行し、国産センサー、データリンク装置などを駆使、海上の猟犬が如く潜水艦を追い立てる。近年は、武装工作船対処の為に画像伝送装置や機銃、防弾板装備などの改修が進んでいる。
多用途訓練支援艦「ひうち」の上空をフライパス。「ひうち」は呉地方隊の直轄艦で、護衛艦の対水上射撃訓練における水上標的“バラクーダ”の管制や魚雷発射訓練の支援、航空機からの魚雷投射訓練の支援や魚雷の回収などを行う任務にあたり、その他、災害派遣などにも後部甲板の輸送能力などを活かして対応する。
一連の展示訓練を終えて、最後の艦隊航行に移る。呉地方隊は、呉基地に加え、阪神基地、由良基地分遣隊、仮屋磁気測定所、紀伊警備所、小松島航空基地などを隷下に有する。呉地方総監部の下に第22護衛隊、第42掃海隊、小松島航空隊、呉教育隊、呉造修補給所、呉弾薬整備補給所、呉警備隊、呉基地業務隊、呉警備隊、呉衛生隊、呉音楽隊が隷下にある(部隊表記は展示訓練実施東寺のもの)。
点々と広がる艦隊。この艦艇だけで、中小国の海軍力を凌駕する規模だ。海上自衛隊は各国海軍と比較しても巨大な機構と多数の大型艦船を運用している。沿岸警備及び災害派遣に加え、呉という海上自衛隊教育体系の一大拠点を滞りなく機能させ、第4護衛隊群や第1輸送隊、第1潜水隊群などの部隊が最大限の抑止力発揮と任務遂行に寄与するという責務を負っている。こういった展示訓練のような一般公開を、毎年実施させることができる、これ自体が、抑止力と日本の平和に寄与しているのだなあ、という印象を抱かせ、帰港へと舵を切った。
HARUNA
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