◆東アフリカ情勢の変動
12月1日の北澤防衛大臣記者会見において、陸上自衛隊の南部スーダンPKOへ派遣の可能性を岡田外務大臣が示唆したことについて、報道で見たことはあるが聞いたことは無い、と発言した。なるほど、外務省発の大本営発表というところなのだろうか。
さて、アフガニスタンへ今月上旬、増強部隊第一陣として9000名の米海兵隊部隊が展開する旨、オバマ大統領がウエストポイント陸軍士官学校における演説で発表された。海兵隊9000名は南部ヘルマンド州に投入され、2010年夏までに三万名を増派する計画で、駐留米軍は増派を行った後18カ月以内に治安を回復し撤退を開始することができる、と述べた。アフガニスタン戦費として2010会計年度に300億ドルを計上しているとのこと。
岡田外務大臣の発言報道や、過去の民主党党首時代の小沢代議士による発言から、アフガニスタンへ陸上自衛隊を派遣する意向は民主党内部にはあるようなのだが、最終的に米軍派遣部隊は10万名の規模に上るほどであり、とてもではないが、戦闘部隊と戦闘支援部隊以外の自衛隊派遣は現実ではないという状況が現出している。こうした中で、アフリカ情勢がまたしても悪化の兆候を見せている。以下ににロイター通信のWebサイトから引用する。
[アテネ 30日 ロイター] ギリシャの沿岸警備当局は30日、ソマリアから1000キロ以上離れたセーシェル共和国付近の海上で、ソマリアの海賊がギリシャ船籍の超大型タンカーを乗っ取ったことを明らかにした。タンカーは30万トン級で、乗員はフィリピン人16人、ギリシャ人9人、ウクライナ人2人、ルーマニア人1人の計28人。クウェートからメキシコ湾に向かっていた29日未明に乗っ取られた。
匿名のギリシャ当局者は「ソマリアから700マイル離れたセイシェル沖で、武装した海賊約9人がタンカーを襲撃して乗っ取った」と述べた。 ギリシャのタンカー運航会社がロイターに語ったところによると、乗っ取られたタンカーはソマリアに向けて航行中で、乗員は無事だという。 http://<wbr></wbr>jp.reut<wbr></wbr>ers.com<wbr></wbr>/articl<wbr></wbr>e/world<wbr></wbr>News/id<wbr></wbr>JPJAPAN<wbr></wbr>-127141<wbr></wbr>2009120<wbr></wbr>1
1300km以上沖合での海賊事案という状況、位置的にはソマリア沖というよりもセイシェル沖、もしくはケニア沖、マダガスカル沖というほうが正しい場所で、東京から熊本まで走破した寝台特急はやぶさ、が走行距離1293km、1300kmというと、京都から北海道の千歳という程度の距離だろうか。重要なのは、アフリカの角とよばれるソマリアの北部、これまで紅海からアラビア海・インド洋を結ぶアデン湾に集中していた海賊行為が、順次、ソマリア東岸のインド洋に移行しているという状況を端的に示しているという状況だ。
海上自衛隊のアデン湾海賊対処任務は、11月29日、護衛艦たかなみ、はまぎり、による第83回護衛任務(海賊対処行動第42回)を完遂、タンカー9隻、自動車専用船2隻、一般貨物船1隻の12隻を無事送り届けた。現在海上自衛隊が採っている護衛方式は、エスコート方式で、冷戦時代からシーレーン防衛の方式として研究されたもの、護衛は100%完遂されており、未だ護衛下の商船には海賊被害は1隻として出ていない。
しかし、海上自衛隊の護衛任務はアデン湾に限られており、アデン湾での各国海軍による警戒が今後厳しくなれば、海賊行為はアデン湾からソマリア東岸沖の広範な海域に展開する可能性が高い。1300kmとなれば、小型船舶ではなく、トロール船のような母船を用いていることとなるから、空中哨戒などにより、海賊行為に必要な梯子などを発見することが難しくなる。
これは言い換えれば、船団護衛方式でなければ、漁船なのか海賊船なのか見分けがつきにくい海賊への対処は難しくなる。ここまで広範な海域に展開されてしまえば、可能な限りで最大限の厳重な警戒を実施したとしても、どうしても摺り抜けられてしまうからだ。船団護衛方式をとっていれば、海賊事案に対し即座に対応できるのだが、船団を組むために時間を要するし、いちばん低速の船舶に速度を合わせなければならないなど、海運業者としては頭の痛い問題が多い。
他方で、海上自衛隊がソマリア派遣部隊を2隻、としているのは、インド洋対テロ海上阻止行動給油支援において派遣している補給艦1隻、護衛艦1隻との協同を考えても、遠いアラビア海、アデン湾に対して海上自衛隊のローテーションというかたちで部隊運用、訓練体系などとの両立させる上での限界、という背景があり、難しい現実がある。
哨戒機とともに、可能であれば護衛艦部隊をアフリカ東岸地域に展開させることが望ましいのだが、同時に日本周辺海域の防衛警備態勢を維持する必要もあることから、派遣できる規模には限界があるわけで、防衛大綱に明記された護衛艦定数を、冷戦中とまではいかないが、冷戦後の規模に戻すべきでは、と考える次第。
HARUNA
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