◆事業仕分の判断が及ばない政治問題
Weblog北大路機関、アクセス解析では検索キーワードとして普天間移設問題よりも“22DDH事業仕分”“22DDH護衛艦”、つまり22DDHに関心が集まっている模様。大丈夫です、事業仕分通りました、というのが本日の話題。
自衛隊観艦式2009に参加した、ひゅうが。ひゅうが、に次いで新しいヘリコプター搭載護衛艦くらま、とともに並び、背負式5インチ砲二門に代えて採用された全通飛行甲板、ステルス性への配慮、満載排水量は7200㌧から19000㌧へと大型化。世代交代、新世代護衛艦という強い印象を示した。
二年後には、二番艦いせ、が就役し、はるな型ヘリコプター搭載護衛艦を置き換えることとなるのだが、平成22年度防衛予算概算要求では、もう一回り大きい22DDHが、しらね型の後継として建造されることとなる。心配されたのは、事業仕分により、この大型艦が短絡的な判断から建造が延期、もしくは中止されるのかもしれない、という漠然とした不安だろう。
22DDHは、現在の計画で基準排水量19500㌧、ひゅうが型の事例からすると、必要な機能を更に盛り込むことで、19800㌧程度に大型化する可能性もある。ひゅうが型二隻を上回り、満載排水量は30000㌧に迫るものとなり、海上自衛隊発足以来建造された護衛艦としては、最大のものとなる。
海上自衛隊の新型護衛艦、これが無駄、と事業評価で判断されてはたまらないという判断からの検索だろうか、北大路機関へのアクセスキーワードの上位にあがっているわけだ。共産党などは防衛関係の予算に対して条件反射的に無駄、と決めつける習性があるので、よく槍玉に挙げられているが、共産党がかつて日本に創設しようとしていたような人民軍創設は現実的ではないわけで、以下略。
ひゅうが型は、射程60kmのESSM(発展型シースパロー艦対空ミサイル)を、多数の航空機や対艦ミサイルの同時攻撃に対して多目標同時対処能力を持つFCS-3により、迎撃することが可能で、大型ソナーを搭載し、潜水艦の接近にも早期に対処することができる、護衛艦である。
22DDHは、排水量が非常に大きくなっているのに対して、建造費は、ひゅうが型とほぼ同等であるのだが、その分、ESSMは搭載されず、射程9.5kmのRAM個艦防空ミサイル10連装発射装置を搭載、FCS-3も搭載されない設計として計画されており、より航空機の運用を重視したものとなっている。
ヘリコプター搭載護衛艦は、横須賀、佐世保、舞鶴、呉に置かれている四個護衛隊群に一隻づつ配属させることとなっている。したがって、22DDHは、ひゅうが型二隻が、はるな型二隻、はるな、ひえい、を代替するように、しらね型二隻の、しらね、くらま、を、恐らく22DDHを二隻建造し、代替することとなろう。
こういった大型護衛艦が必要となった背景には、はるな型、しらね型が整備された時代、海上自衛隊の任務は、日本周辺海域でのシーレーン防衛を行いつつ、北海道や新潟などに上陸を試みるであろうソ連太平洋艦隊を迎撃することが任務で、最大限見積もっても鈴木内閣時代の1000浬シーレーン防衛を行うことが最大行動範囲であった。
しかし、東西冷戦終結後、海上自衛隊は、ソマリア沖に重武装の海賊から商船を護るべく派遣され、インド洋やアラビア海において継続的に対テロ海上阻止行動給油支援に部隊を派遣中、海上自衛隊の活動範囲は、非常に広く拡大しているのだ。このために母艦機能は陸上基地の支援を受けられない地域でも航空機を運用できる程度に、そして護衛艦の航続距離も行動範囲の増大に併せて大型化し、多くの燃料を搭載する必要があるわけだ。
したがって大型化したヘリコプター搭載護衛艦の要求であるが、その必要性は、今後の日本の対外政策、外交関係の展開、国際安全保障環境の推移、周辺国の国防政策により変化してくるものである。高度に政治的な内容となるため、ノーベル賞受賞者のとあるお方が科学技術関連予算についての削減に述べた“歴史という法廷に立つ覚悟はあるのか”ということになる。
結果、事業仕分は、歴史という法廷に立つ覚悟はなく、高度に政治的な問題であるとして判断を避けた。・・・、政治の問題、・・・、言い方を変えれば統治行為論、ということか。結果、事業仕分は、予算調達の方法は見直すべき、という曖昧な判断のみを残し、通過した。・・・、もっとも、麻生内閣が景気回復のカンフル剤として準備した補正予算、これを鳩山内閣が政権交代に気取り執行停止したことで深手となった経済状況を立て直すための新第二次補正予算、この補正予算により、事業仕分の節約分は全て消えそうだ。おそらく今回の事業仕分で将来生じる損害の補てんに、次の内閣は頭を悩ませられるのだろう。しかし、そうした状況下であっても、22DDHにより、最低限日本のシーレーンは安泰であろうことがせめてもの救いなのかもしれない。
HARUNA
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)