◆国防費を切り詰めアフガン戦費を捻出する英軍
イギリス国防省が1950年代から継続していたUFO調査費を国防予算から全額廃止し、イギリスの安全保障に外宇宙からの脅威は認められないとしてUFO調査部門そのものを廃止したとのこと。
本日の話題は、アフガンとイギリス、そして日本のポストインド洋派遣問題。BBCによれば、イギリスでは、国防省の無駄な事業に関する洗い出しが全力で進められている。第一にイギリス国内のハリアー飛行隊が展開するロンドン北方のコッテスモア空軍基地が一個ハリアー飛行隊ごと廃止閉鎖される。第二に、トーネード一個飛行隊が廃止される。
第三にニムロット対潜哨戒機部隊の縮小と近代化改修の見送りが行われる。第四に陸軍訓練の大幅縮小による訓練費削減が行われる、等など。基地廃止、飛行隊廃止といった自衛隊では考えられないような国防の根幹にも影響を与える分野を含め、実に2500もの事業が廃止もしくは削減の対象となっており、この中に前述のUFO調査費50000ポンド廃止も含まれる。
削減された予算は、全てアフガニスタン戦費に充てられ、第一に不足しているCH-47輸送ヘリコプター22機の緊急取得、第二に毎日の如く増加する戦死者を少しでも抑制するべく個人防護装備の充実と小型装甲車の大量調達、等を行うとのこと。しかし、山岳戦に不可欠なCH-47Eの22機は、引き渡しが2012年になるとのことで、問題となっている。CH-47は陸上自衛隊や航空自衛隊に多数配備されている輸送ヘリコプターだ。
しかし、アフガニスタン戦費は全くの不足した状態が続いていることは変わりない。加えて、既にイギリスのアフガニスタン戦における戦死者はイギリス国防省によれば2001年10月以来239名、刻々と1982年のフォークランド紛争での戦死者256名に迫っている。こうした背景で、少しでもまともな装備を、少しでも多く、という状況なのだ。時間との戦いであり、自衛隊では装備化が許さないような契約条件でも、装甲車両などは、間に合えば調達されるとのこと。
イギリスは現在ヘルマンド州において治安作戦を展開中で、11万弱という、陸上自衛隊よりも少ない人員で構成されるイギリス陸軍を中心に、現在イギリス陸軍は、現在第6師団司令部を中心に、第11軽旅団、第8戦闘工兵旅団、第101兵站支援旅団、第845海軍航空隊、第846海軍航空隊、第857海軍航空隊、近衛砲兵連隊などなど多数の9000名の部隊を派遣中。
イギリスは更に600名を増強する計画があるのだが、ここで航空機材を中心に不足が痛感される状況となっているのだ。タイフーンやハリアーが派遣され、既にVC-25空中給油機やニムロット、C-130Hに墜落や損傷などの事案が報告されるアフガニスタンの状況は、厳しさの極みにあるともいえる。このあたりに、日本による支援を実施する余地はあるのではないか、と考える次第。
2010年1月15日以降、インド洋給油支援終了後の日本による国際貢献は、もうそろそろ具体的な青写真を提示しなくてはならない時期が来ている。選択肢として最も妥当なのは、安全で国際的な評価が高い給油支援任務の継続で、民主党は連立与党を組む社民党の説得に全力を傾注するべきだろうが、時間的に厳しいものがある。
こうした中で、真剣に検討するべきなのは二つ、一つは民主党が野党時代に提唱していたようにアフガニスタンへ陸上自衛隊を派遣するというもの、もうひとつはアフガニスタンへの駐留米軍兵力抽出により治安悪化の傾向があるイラクへの陸上自衛隊派遣であろう。海から陸へ、というわけだ。
連立与党である社民党や、野党である共産党がアメリカへの戦争協力に反対するという立場からの自衛隊派遣に反対するのであれば、イギリスのアフガニスタンでの治安任務を支援する形が検討されるべきではないか、と考える次第。民間人を送るという民主党のここ数ヶ月間の提案は、標的を提供するだけのもので、いたずらに死傷者を増やすだけの提案といえることから、現実的ではない。
現実的なアフガニスタン支援案としては、中央即応集団か方面ヘリコプター隊から、8~12機のCH-47JAを抽出し、ヘリコプターに同乗する警備要員に空挺一個中隊、基地機能警備のために普通科二個中隊、そして最も不足している火力を補強するべくFH-70か99式自走榴弾砲を運用する一個特科中隊を派遣、後方支援部隊は、施設中隊、ヘリコプター野整備隊、普通科直接支援中隊と管理機能を混成した部隊を編成。
可能であれば、偵察隊か移動監視隊などを編成に加え、拠点宿営地に迫る脅威を未然に察知する戦場監視任務に充てることが理想だ。併せて1100名~1300名程度の派遣、というところだろうか。かなりの規模ではあるが、ドイツ軍派遣部隊やフランス軍派遣部隊、カナダ軍派遣部隊の半数程度、イタリア軍派遣部隊、オランダ軍派遣部隊、ポーランド軍派遣部隊よりは少ない。
空中機動部隊は、CH-47JAを中心に編成。CH-47JAは、ISAF部隊の空中機動支援にあたり、兵員輸送、弾薬を含む輸送支援、火砲や車両の輸送支援に充てる。しかし、何らかの緊急時においてISAFや米軍の勢力圏外に不時着するという可能性は捨てきれず、特殊作戦群とともに、UH-60JAを若干数派遣することが望ましい。
可能であれば、CH-47に加えて、航空学校から若干数のAH-64D戦闘ヘリコプター派遣を行う検討も為されるべきだろう、場合によってはAH-64Dの運用適性を再判断、富士重工におけるライセンス生産を再開するという機会にも繋ぐことができよう。OH-1も、攻撃を受けた場合に対する柔軟性は欠けるが、観測ヘリとして支援に派遣することを検討する余地はある。
警備は、機体に同乗する空挺部隊と、拠点飛行場を警備する普通科中隊により為される。第一空挺団は三個空挺普通科大隊に9個空挺普通科中隊が配属されており、ローテーションを考えれば、一個中隊は、一年程度であれば、なんとか捻出できる規模であろう。各中隊には軽装甲機動車が配備されており、個々人持ち前の高い戦技とともに、車両面でも近年その近代化は著しい。
普通科中隊は、中央即応連隊から第一次派遣部隊は抽出するのが望ましいが、長期化を考えた場合、全国の師団・旅団から志願者を集めるという方式に順次移行することがローテーション上望ましい。また、各師団・旅団に、レンジャー資格保持者を中心に、レンジャー中隊を臨時編成し、派遣するという方法論も考えられる。
特科火砲は、遠距離からのロケット弾攻撃に対応するために不可欠だ。平野部が広がったイラクのサマワと異なり、山間部のアフガニスタンにおいては、盆地に構築される航空基地は散発的なロケット弾攻撃に曝されるため、反撃には火砲が不可欠となる。特に、装甲車両とことなり、ヘリコプターは砲弾片による損傷に弱く、機体防護の観点からも反撃手段は必要となる。
FH-70か、99式かで、その能力は特に防御力の面で異なってくるが、射程の長い火砲を宿営地に備えることで防御に用いることから、移動は大きく考慮せずとも任務に対応できる。他方で、突発的なロケット弾攻撃に対しては、装甲防御力を有していることも理想的ではある事から、99式自走榴弾砲の配備の方が選択肢としては理想だろう。狭い演習場での訓練が常態化している陸上自衛隊特科部隊は、その火砲による命中精度で特に秀でたものがあり、誤爆誤射も最小限とすることが期待される。
なお、90式戦車を派遣するという選択肢も真剣に検討されるべきかもしれない。防御力に関しては日本の現有装備において最強度を誇っているほか、暗視装置などの夜間監視機材の面で秀でたものがあり、実際、治安任務や基地警備任務に戦車を投入している派遣部隊も多い。
施設中隊は、宿営地の要塞化に不可欠である。このため、復興人道支援任務ではなく、拠点機能の維持と野戦築城に主として充てられる。可能であれば、航空機や火砲は、坑道掘削装置とライナープレートにより、掩砲所を構築し、運用することも望ましい。なお、この作業の一旦として、周辺の地雷源除去も行うことから、結果的に施設中隊の任務は、復興人道支援任務と重なる任務となるだろう。なお、第一次隊派遣までには、大隊規模の施設部隊を派遣し、宿営地の基礎部分を構築する必要もあろう。
某大臣は、自衛隊をPKO初心者と表現したが、カンボジア国連平和維持活動以来、数々の国際平和維持活動に参加しているほか、もともと、北海道での日ソ軍事衝突を想定し、高い戦闘能力を錬成して今日に至る。他方で、インド洋派遣で民主党が問題とした国際的な評価、というものを考えるのならば、イギリス軍支援へのアフガニスタンへ大規模な空中機動部隊を中心とした臨時混成団の派遣、検討に値すると思うのだが、どうだろうか。
HARUNA
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