◆本質は連環:インド洋給油と普天間問題
五月まで五月末まで、と昨年内に解決を求められ出来なかった普天間問題の陰に隠れて忘れられがちですが、インド洋への補給艦派遣が終了してから間もなく二カ月ですね。
そもそも、インド洋へ補給艦を派遣して、アフガニスタンからイラク、アフリカ地域への武装勢力の移動を監視する各国海軍部隊へ給油を行い、後方支援を行う、という支援で、日本は同時多発テロ以降のいわゆるテロとの戦いに参加してきました。決定当時小泉内閣で首相補佐官を務められた元外交官の岡本行夫氏の言葉を借りれば、テロとの戦いは、今日の世界に属する世界と、イスラム教が生まれた世界の再現といいますか、その水準まで文明を後退させよう、という主張の人たちとの軋轢で、しかも後者の人たちが同時多発テロというかたちで、こちらの世界に圧力を掛けてきた訳ですので、これに対する選択肢、というのは限られている訳なのですよね。
そこで、日本は補給艦と護衛艦から成る派遣部隊を編成して、テロとの戦いに部隊を派遣してきました。過去の記事でも幾度か書きましたが、こうしてテロとの戦いに日本が参加しているということで、フロリダ州タンパ市にあるアメリカ中央軍司令部に連絡官を常駐させて、しかも、そこで行われる公式非公式の会合で様々な現地情報やテロ関係情報を得ることが出来ましたし、給油活動を通して各国海軍との間で、有形無形の人的関係を結ぶことが出来ました。しかし、これを現政権は、アフガニスタンの復興に直接寄与していないということで一蹴、給油活動の中止に踏み切った訳です。当初では、アフガニスタンへの民生復興支援を民間NGO主体で行うこととセットの筈だったのですが、いつの間にか治安悪化でうやむやにされ、代案が無いまま補給活動だけを中断して、日本はテロとの戦いから一方的に離脱しました。
アフガニスタンの治安状況は悪化している中でヘルマンド州を中心に米英軍の激戦が続く中、日本はインド洋からは離脱して、当初発言していたアフガニスタン陸上部での支援は実施しないまま、発言にさえ上らなくなりました。このあたりで、アメリカ側からは強い日本への不信感が生じている、と考えられますし、一方で給油終了から一ヶ月と経たない2月13日には民主党の小沢幹事長はアメリカのキャンベル国務次官補に対して毎日新聞2月13日の報道では、“極東でひとたび不安定な状況が生まれると、イラクやイランやアフガニスタンの比ではない。アメリカはもっとしっかり考えないとダメだ』という話をした」と明かした。そのうえで「極東の状況は非常に不安定度を増している”という旨の発言を行い、わざわざ神経を逆なでさせたあとで、同じく日米間の安全保障問題で懸案となっている普天間問題について政府連立与党ではグアム移転案、テニアン移転案が出てくる始末です。
結局のところ、普天間問題は、国内問題として認識されているようで、沖縄県と連立与党の間で様々な思惑が錯綜している状態なのですけれども、一方の当事者はアメリカ、一方の当事者は日本、という完全な外交問題なのですよね。そして、日米間の問題、というわけですから、普天間問題とインド洋給油との対米政策をアメリカ側から望見すれば、日本への不信感、という点で双方ともに一致してしまう訳です。日本への不信感は、日本が持つソフトパワーに対しても波及効果をもたらすことも否定できず、自動車リコール問題へも異なったフィルターを被せる事にもなる訳です。同時に、果たして日本はアメリカとともに同じ安全保障価値観を共有することが出来るのか、という不信感に繋がるのですよね。そして日米関係は安全保障面だけではなく、経済社会、国際金融の面にも連環しているわけで、こちらにも影響が及ぶ可能性を無視して、インド洋海上阻止行動給油支援と普天間問題の迷走が続いている、という状況があるわけです。
代案の無いままアフガニスタンに関わる任務から一方的に離脱し、アフガニスタン情勢の悪化に対しては黙殺と言われざるを得ないような対応を執りアメリカに意図しないメッセージを送った日本は、普天間問題でも問題を長期化させ、その所在さえも曖昧にしつつある迷走を通じて続く誤解を与えています。代案には、給油支援再開、第二次イラク復興支援自衛隊派遣任務実施、アフガニスタン治安作戦への自衛隊投入等など、幾つか考えられるのですけれども、日米間の安全保障と世界秩序、国際公序の価値観は共通のものである、という対応を示す必要は、大きいのでは、と思います次第。
HARUNA
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