◆外交・国際交流との共振を目指して
大西洋クロマグロ国際取引に関する昨今の国際論議は、日本の対外発信能力といいますか外交能力にはまだまだ限界があることを示しました。一方で、自民党時代に重視されていたアフリカ外交の事業評価は必ずしも高くない事が、今回の交渉における日中の影響力で如実に洗われているという印象です。今回はこの話題について。
就任当時、まだ支持率が高かった頃の鳩山総理は、海上自衛隊の輸送艦をNPOなどにも開放して、途上国の巡回医療や文化交流に当てる友愛ボート計画を打ち出しました。この計画はかなり進められていたようで、この計画を実際に行うための演習計画を優先させ、今世紀最大規模の直下型地震災害となったハイチ地震への自衛隊派遣に輸送艦を当てることが出来なくなってしまったのは記憶に新しいところです。
日本国内でも大規模地震への警戒は必要であることから、海上自衛隊は護衛艦隊の八八艦隊とは別に、輸送艦6隻、補給艦6隻から成る六六艦隊を目標に舞台整備を行ってはどうか、と記事を掲載しました。現時点で、おおすみ型輸送艦は3隻のみ、稼働状態にある輸送艦と補給訓練にあたる輸送艦、長期整備に入る輸送艦と、ローテーションを組んでみますと三隻というのはぎりぎりの数字になってしまいますからね。最低でも六隻は必要といえるでしょう。
さて、海上自衛隊による途上国への医療支援や文化交流ですが、本来、軍艦はその国を代表する使節としての性格を有していますから、的外れではないと思います。もっとも、病院船として使う場合ならば一カ所の停泊期間はどのくらい必要なのか、ほかの地域で大規模災害が起こった場合、治療中の入院患者は途中で降ろすのか、それとも一緒に次の被災地へ連れていくのか、という問題が生じますし、文化交流には、果たして300億円以上の建造費をかけたドック型揚陸艦構造を採用した輸送艦である必然性は果たしてどのくらい、という疑問点があるのですけれどもね。方向性だけは確かだろう、と。
こうした一方で、自衛艦の国際発信能力という観点から、この友愛ボートといいますか、水上艦による親善訪問を基調とした各国との友好関係拡大、もう少し長期的に、または外交政策と連携して行われてもいいのではないかと考えます。特に東南アジア地域ではなく、アフリカ地域のような、日本への理解が非常に薄い地域、日本との馴染みが相手国の国民に広がっていない地域との関係で、ODAに代表される国家間援助、自治体国際化協会とともに地方自治体が推進する自治体国際交流、といった既存の体系に重ねて、艦艇の親善訪問を積極的に行うということは重要ではないか、と考えます。
要するにもっとアフリカを寄港先として重視しよう、という意味なのですが。こう考える背景には、アフリカ諸国との日本の連携強化を現在までの関係に一歩進めて行う、という目的を実現する上で必要性があるからです。先日ドーハで行われましたワシントン条約締約国会議における大西洋クロマグロ国際商取引にさいしての、日本側がとった科学的根拠に依拠しない規制への反対という立場とともに、日本側の意見と利害が一致した中国が、支持のまとめに奔走したことにより、もともと友好関係といいますか影響下にあった旧宗主国の姿勢よりも、関係を拡大している中国の意見を尊重した姿勢に転じたという一点について、日本も長期的にODAを投じるとともに、アフリカの開発や貧困の撲滅、教育の普及に取り組んでいる訳ですから、よりいっそう、価値観の共有を目指すことは出来ないか、ということを考えさせられる機会となりました。
ODAで建設される潅漑施設、橋梁、貯水施設、港湾設備といったいわゆる箱もの、青年海外協力隊といった組織を中心に人の自己実現への支援、そして物資の援助などが行われているのですけれども、建物に刻まれた日本のODAにより建設された旨を紹介する刻印を刻むだけでは充分ではない、ということは想像に難くありません。もちろん、このほかには外務省委託での草の根NGO活動を筆頭に様々なものが行われているのですけれども、どうしても広報能力には限界があります。
自衛艦の国際発信能力といいますか、護衛艦が今いわれている友愛ボート以上に、日本の姿勢を示すことができる、国際間の友好関係に寄与することができるのではないでしょうか。例えばアフリカの友好国に、定期的に親善訪問として護衛艦が入港して、護衛艦の一般公開、ヘリコプター格納庫や飛行甲板での交歓会、指揮官の相手国への表敬訪問を行う、ということはそれなりに意義があることでしょう。チャーター機で政治家や政府高官が赴くことも意義があるのでしょうけれども、軍艦旗にあたる自衛艦旗を掲げて、一国の代表というかたちでの護衛艦など自衛艦の訪問というのは、意味が異なってくるでしょう。客船や巡視船、政府専用機ではなく、自衛艦だからこそ行える事です。
海軍に入り世界を見物、これは1930年代にアメリカ海軍が志願者募集のポスターに掲げた標語ですが、現代ではなかなか通じません。今日、海上自衛隊でも艦隊勤務というものは、自由時間や家族との時間などの点から忌避されがち、ということがあります。現在、ソマリア沖で海賊対処任務に当たっている艦艇、そして遠洋航海の艦艇などが、こういう任務に当たることができるのですけれども、練習艦隊は演練が第一目的ですから表敬訪問、友好関係の増進というものを考えるとほかの部隊を編成する必要もあるでしょうか。ローテーションの面では厳しいものがあるでしょう。一方で、インド洋対テロ海上阻止行動給油支援が終了し、ひと段落している現在だからこそ、遠方の海域での展開、というノウハウが構築されているのですし、友好関係の深化、という意義を考えれば、何とかならないのかな、と考えてみます。
HARUNA
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