■防衛大綱の位置づけと今回の改訂
防衛大綱改訂について、自民党から政権を引き継いだ民主党は一年の遅れとともに本年末を目処に新防衛大綱を画定させるべく意見を集約しています。
防衛大綱とは、日本の防衛政策や軍事分野を含めた安全保障政策を示すもので、これに基づいて具体的な部隊編成や装備の定数を定めて行くものです。自衛隊、というと毎年の防衛予算と予算に基づく装備品の調達などが注目されるのえすけれども、その防衛装備品の調達や教育訓練、演習、隊員の数といったものは、数年を区切って中期防衛力整備計画というもので大まかに決められています。
かつては、第一次防衛力整備計画、第二次防衛力整備計画、というように、略して3次防、4次防、というように示されていたのですけれども日本の防衛力がアメリカと協力して一定の事態に対応できるようになった1976年、その防衛力を維持し、新しい脅威に対応できるように大綱を定めることとなった、これが防衛計画の大綱、つまり防衛大綱です。
そして、防衛大綱が定めた水準に防衛力を維持するために中期的な計画を定める、つまり、大綱と毎年の予算の中間を担うものが必要となりました。これが70年代から中期業務見積、今日の中期防衛力整備計画となります。中期業務見積は、通称:中業、制定された年度ごとに例えば昭和53年中期業務見積は略して53中業といわれたのですが、中期防衛計画は中期防と略されています。
今年度までの中期防衛力整備計画は平成17年度のもので、五年間で23兆6400億円の予算が計画されていました。23兆6400億円というと、かなりの費用にみえるのですけれども、子ども手当の満額支給を行えば五年間で22兆5000億~25兆円となりますので、見方は変わってきます。 さて、防衛大綱は、この中期防衛力整備計画の大本になる基本計画を示すものですから、基本的に日本はどの分野での脅威をそうていしているか、ということをしめした上で、陸上自衛隊であれば、師団や旅団といった基幹となる部隊の規模を示した上で、主要装備はどの程度必要か、という視点を示します。具体的な装備の調達計画は中期防衛力整備計画が示し、年間にどの位の割合で調達するかは毎年の防衛予算において明示します。
海上自衛隊の場合は、こちらも基幹部隊と護衛艦や潜水艦、作戦機の規模を明示した上で、実際に何隻を建造するかは中期防衛力整備計画があたり、型式などは毎年の防衛予算が当たります。航空自衛隊も、海空自衛隊と同じように作戦機や地対空ミサイルの部隊規模が定められた上で、中期防衛力整備計画、毎年の防衛予算が細部を積めてゆく構図となります。 それでは、今回の防衛大綱改訂はなにを注目するべきなのでしょうか。
まず、これまでの防衛大綱は、冷戦型の装備体系を改めて、基盤的防衛力を維持しつつ、部隊のスリム化を行う、という指針で90年代に改訂が行われ、2000年代に基盤的防衛力を維持しつつ財政難を背景に思い切った削減を実施、こうした上で弾道ミサイルやゲリラコマンドーといった新しい脅威に対応する体制を構築する、という内容でした。今回の改訂において注目するべきは、これまで二回の改訂にさいして、削るに削られた基盤的防衛力により実際には様々な不都合が生じている現状を是正する試みが行われるのか、という一点が注目されます。
そしてもう一つは、これは基盤的防衛力の維持とも重なるのですけれども、防衛装備品の国産能力を維持するのか、という点です。この一点は装備品の稼働率の問題と直結していて重要な問題です。もう一つは、西方シフトについて。これは北方重視の体制を冷戦時代に構築して戦車部隊を中心に整備してきた方針を、演習場の環境に恵まれた北海道を中心に部隊を展開させ、必要に応じて全国に展開させる、という方式がとられてきました。これが北方以外からの日本への圧力を想定すれば、南西諸島の防衛を重視するために機甲部隊から空中機動部隊に体系を転換する、というような選択肢も出てくるかもしれません。 現在の日本の防衛力は、削ることのできる無駄な部分はすべて省かれた状況になっています。
一時期無駄といわれた北海道の戦車部隊は、削りすぎた本土の機動打撃部隊を補うとともに、ゲリラコマンドー対処では戦車の位置づけが見直されています、そしてこれ以上削減すると戦車の国産能力が失われてしまい、大柄な外国製戦車を無理して使う必要が出てきます。相手が戦車を持っている以上こちらも戦車が必要になりますので装備しない、という選択肢はありません。もっと削れるのではといわれていた護衛艦は、海賊対処をはじめとして海外での任務が増える中で隣国の海軍力が増強されていて、日本近海での活動も回数が増加していますから現状では不足している状況です。
航空自衛隊の戦闘機は、日本列島の非常に広い空域を非常に少ない機体に国産能力を維持していることによる企業の支援、これに依拠しての高い稼働率で支えているのですけれども、対領空侵犯対処任務は一定で推移していますから、削減するということは難しそうです。無駄な部分はない中、削りすぎた部分が大きくなっていますから、これを復元の方向で調整できるのか、ということが問題となるでしょう。 個々の部分は、このほかにも多くの命題があるのですけれども、新防衛大綱の画定まで時間がありますので、こちらは追々、列挙し掲載してゆくこととします。
HARUNA
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