◆高性能輸送機、北沢防衛大臣、輸出に意欲
本日、岐阜県各務原市の川崎重厚岐阜工場において次期輸送機XC2が航空自衛隊に納入されました。今後はこれまで通り航空自衛隊岐阜基地において飛行試験を行うのですが、航空自衛隊飛行開発実験団が試験を行うこととなります。
今後の計画としては技術試験を終了した上で、運用試験、部隊配備、部隊運用試験、そして実任務への対応、というかたちになります。エンジンはアメリカ製を採用したことで、性能としては世界のどの輸送機と比較しても遜色なく、民間機用のエンジンを採用していますので、国際航空路線の航路をそのまま飛行することが出来、今後は、C130輸送機が担っている海外への輸送任務において大きな活躍が期待されます。そもそも、C130Hは、米空軍の巨大輸送機C5のような戦略輸送機が拠点基地に運んだ物資や人員を、第一線の飛行場に輸送することが目的の輸送機、つまり戦術輸送機なのですから、物資などを搭載して海外まで長距離を飛行するための任務には不向きの期待であった、ということが出来ます。ですから、C130Hを用いて中東やアフリカ、中米といった遠い地域に輸送任務を行う際には、搭載する物資を出来る限り少なくして、それでも何度も給油の他、絵に着陸を繰り返しながら現地に展開していました。しかし、XC2により、この天は大きく改善されます。物資などを搭載しないフェリー航続距離では10000km以上飛べます。また、先ほど書いたように国際航空路線を使えますから、従来の輸送機よりも高い高度を飛行できて、安定して迅速に輸送を行うことが出来るわけです。
26㌧の搭載が当初求められていたのですけれども、これをクリアしたうえで、最大搭載能力は37.5トン、と川崎重工が海外の国際航空宇宙展用のパンフレットに記載していますので、新戦車は残念ながら搭載することはできないのですけれども、それでも災害事の復旧に必要な施設車両や、野外手術システムなども搭載して輸送することが出来ますし、装輪装甲車や、装甲戦闘車なども輸送することが出来ます。輸送能力一つとってもかなり充実しているのですが、加えて飛行能力は上記の通りかなり先進的なものであるわけです。
防衛省に納入された、ということなのですけれども、開発では輸入リベットの不具合が発生してすべて取り替え、ということになりました、そしてその後、機体強度の面で、これは技術者の型から聞いたのですが、そんなことが起こったのか!、と驚くような強度不足が判明していまして、もう一度作り直さなくてはならないのでは、また、初飛行はさらに遅れるのではないか、という話をしていました。しかし、なんとか是正できたようで、本当に初飛行の際には、技術者冥利、という一言につきたのではないでしょうか、一月二日から作業を行っていたとのことで、本当に頭が下がります。
開発が開始された際には、次期輸送機と次期哨戒機を同時開発して、C1とP3Cの後継機を一度に開発することで、出来る限り部品を共通化して、そうした上で開発コストも低減しよう、という意欲的な試みだったのですけれども、そもそも全く仕様の異なる機体をどうやって共通化するのか、失敗するのではないか、といろいろといわれていました。正直に次期輸送機は開発が進んでいる欧州のA400を、次期哨戒機はアメリカ製のP8を採用したほうがいいのではないか、といわれていましたが、しかし蓋を開けてみますとA400は国際共同開発ということで、技術的な引継が難しく、各国が仕様に発言を繰り返して機体構造が複雑化した上に、止めが最大の顧客であるドイツがA400の構想がでた頃にはなかった大型装甲車を搭載できるように求めたことで構造が補強されて重量が過大に、そうした上で肝心の新エンジンの開発がどうしても上手くいかずに推力不足、昨年末になんとか初飛行を果たしたのですけれども、キャンセルする国がでている、という状況。初飛行して飛べることは証明できたのですけれども実用化はいつなのだろうか、という状況。P8についても旅客機であるボーイング737を改造したのですから飛行性能は高いのですけれども潜水艦を探すために海上を低空で低速飛行する能力は元々低く、仕方ないので対潜哨戒は副次的な任務で海洋監視と情報収集、戦域情報管理を行う機体だから対潜哨戒は無人機とともに実施すればいい、とお茶を濁しました。確かに、ソノブイを散布して潜水艦の音響情報を収集しつつ、磁気を感知するMADを搭載した無人機を多数飛行させて、それで上空から管制して潜水艦を探すのは、一つの方法ではあるのでしょうけれども、P8はその分高性能化を繰り返して高コスト化、無人機を含めたユニットコストは現段階で天井知らずという状況となっています。結論として日本はXC2とP1を開発して良かった、ということになったわけです。
国際共同開発は、一時期、開発コストとリスクを分散することが出来るので、これからは主流になる、といわれていたのですけれども、多国間で開発すれば出資額に応じて発言権が盛り込まれて仕様変更につながりますし、重要な技術は囲い込みを行われれば、当然こちらの面でも開発遅延の要素に。技術者が入れ替わる際に引継が上手くいかなければこれも開発が遅延する原因となりますし、開発が遅延すれば開発コストは上昇してしまいます。結果的に、自主開発を行って、これを国際市場に供給するか、既存の技術を導入する程度で外国の技術に依拠した、XC2がアメリカ製エンジンを導入したように、こういうかたちで開発を行えばリスクは低くなるのですよね。日米共同開発の弾道ミサイル防衛に関しては、アメリカがイニチアティヴを執っていますからこうしたことはないのですけれども、共同開発ではF2の際に大きなトラブルを繰り返していた日本は気づいていたのでしょう。欧州は、トーネードのようになんとかなったあとで、A400を開発したのが、不運だったのでしょうか。
エンジンはボーイング767をはじめ民生でも多く使われているアメリカ製を採用したということで、国際的にみて、この機体の輸送機としての価値はかなり高くなっています。このレベルの輸送機というものは意外と少ないのですよね。C17はいよいよ生産終了が近づいていますし、オーストラリアが導入したときには初期費用を含めたユニットコストがかなり高くなっていると報じられていました。A400は先ほど並べたように、いつ実用化できるのかわからないわけですし、C130シリーズの最新発展型、胴体を延長したC130J30といった機体は、これはこれで高コスト化に陥っています。旧東側のIl76やAn70といった機体は完成度が高いのですが、東側という縛りは大きいでしょう。輸出を考えれば、かなりいい線に行く機体といえるかもしれません。
こうした関係もあって、北沢防衛大臣は、本日のXC2納入行事において、民間転用を行って輸出を検討する、という発言を行いました。こうすることで、量産効果が高まって自衛隊への納入価格が低減することが出来るんではないか、という点。そして防衛技術基盤の維持にもつながるのでは、という発言を行っていて、P1哨戒機、それに救難飛行艇US2を民間転用して輸出する、という提案を行っています。XC2の場合、海外からかなりの数の発注があった場合川崎重工の生産能力で間に合うのか、という工場の規模の問題があります。P1の民間型、といいますが海上を低速で飛行するためにあの大きさの機体でエンジンを四基搭載しているのですけれども、旅客機に転用するには運用コストで失格です、哨戒機として運用するのならばともかく民間はホエールウォッチングでも使わないでしょうし、US2の場合、ヘリコプターでは対応できないような救難や森林消火の際には需要はあるのでしょうけれども、そもそも、この種の機体がロシアと日本でしか開発されていない状況で、ロシア製の飛行艇が売れていないことを考えると、かなり高コストで、しかも運用が難しく、海面近くで使うので機体寿命という縛りがある機体は輸出できるのかな、と素朴な疑問も持ってしまうのですけれども、防衛装備品の輸出に一歩を刻もうということは意義があるのでしょうね。
輸送機としてみた場合XC2はかなり有力な輸送機としての性能を持っているのですから、今後日本は国際貢献任務に、後方支援の一つの方法として空輸支援というものを位置づけて、輸送航空団を将来的に拡充してみては、とも考えてみます。航空総隊を本土防空集団と航空輸送集団の基幹に改編する、という方向性で、人員と規模を拡大してみては、と考えるわけです。現状ではC130Hでのこうした支援には限界があるのですけれどもXC2が数を揃えれば、国際平和維持活動や人道復興支援任務などに航空自衛隊の輸送機を充当する、ということが出来るわけです。
XC2による輸送支援は、そもそも日本ではロジスティクスの重要性がそこまで正確に政治の面で認識されていないのですけれども、ロジスティクス無しに軍隊は任務を遂行し継続することは出来ません。これは民間でも同じなのですけれども、ね。しかし、諸外国ではこうした面の重要性はしっかりと認識されている一方で、どこの国でも正面装備に予算を回したい傾向はありますので、輸送という面で日本が支援を行う、ということは相応に意味があるわけです。日本の輸送機が世界中で人道支援を行う、そして国際平和維持活動を輸送で支える、国際貢献のあり方としてはかなり理想的とおもえるのですが、このために予算や人員の面で配慮する、というのは意義があるのではないでしょうか。本日は年度内にXC2が納入できた、ということでこういうことが浮かんできました次第。
HARUNA
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