◆名護市沖でなければ環境負荷や騒音問題は度外視?
普天間飛行場移設問題で、鳩山内閣に火が付きかけている状況ですが、もしかしたら母屋がほぼ全焼していて寝室で、たった今、その事実に気づいた、という状況なのかもしれません。
マニフェストに縛られており、予算的裏付けや地域合意を無視してなりふり構わずがんばっている、という状況なのですが、普天間も同様で、とになく名護市沖合でないのならば、環境負荷がどのように大きくなっても、危険性や騒音範囲がいかに広がろうとも、移設にどれだけ予算が掛かろうとも度外視、という流れになっています。普天間問題は名護市辺野古沖合への移設という日米合意の見直し、というマニフェストへの明記に縛られるあまり、このままでは移設先が決定せず、名護市に移設しなくてもいいものの、現在の宜野湾市にある普天間飛行場が維持されてしまい、自民党が苦難の末に日米交渉を重ね、ようやくアメリカ側が納得する位置にあるとともに周辺住民へ騒音被害が起きない名護市沖合に移設を決定したのに、民主党がすべてを台無しにして、騒音被害だけではなく、離着陸中に墜落すれば即住宅街、ブッシュ共和党政権時代のラムズフェルド国防長官をして世界一危険な飛行場、といわしめた普天間飛行場が、民主党のマニフェストに従ったことで維持される、ということになる訳です。
そこで、いろいろな場所を移設先に検討したのですが民主党はようやく、その部内で、移設候補となり得る場所は沖縄本島しか、合意に至ることができない、ということに気づいたのでしょうか、沖縄県うるま市、勝連半島のホワイトビーチ沖合に海上飛行場を建設する案を提示しました。勝連半島は、海上自衛隊の勝連基地のほか、アメリカ海軍の揚陸艦が入港できる埠頭が置かれた施設で、沖縄県に駐留する海兵隊戦闘部隊が揚陸艦に乗艦する際には不可欠の施設として知られています。このホワイトビーチは海兵隊に不可欠の施設ですから、機能を維持した上で、沖合の津堅島との間を大規模に埋め立て工事をおこなって、ここに海上航空基地を建設しよう、という壮大な案です。
ホワイトビーチと津堅島との間を埋め立てるという方式ですので、面積としては充分見込むことができ、半島と島との間は比較的遠浅の海底地形となっていますから、この区間を埋め立てる、というのは技術的には建設は不可能ではありません。そして海上、正確には海峡をすべて埋め立てるという方式になりますので、住宅街の上空を飛行、ということにはなりません。騒音問題が解決されている点は、国民新党が提案している名護市キャンプシュワブ陸上案、陸上に飛行場を建設して住宅街上空に離着陸コースを設定することになります。これでは、キャンプシュワブ周辺住民に、自民党政権時代の沖合案では無かった、地上へ騒音が届かない、という唯一といえるような利点を消し去った案ですので、問題があったのですが、これに対してホワイトビーチ沖合埋め立て案は騒音問題が少ないという利点が挙げられます。
それならば、大きな問題とは何か、と問われれば海峡をすべて埋め立てる訳なのですから、自動的に潮流が大きく変わってしまい、非常に大きな環境負荷が掛かる、というわけです。島と島の間を埋め立てる、という訳なのですから工法によっては羽田空港新滑走路のように海上に独立した構造物を建築して、下部を潮流が自由に行き来できる方式を採用すれば、この問題はある程度解決できるのかもしれませんが、少なくない費用を要します。飛行場といっても、海兵隊ヘリコプターの長距離移動には輸送期が用いられる場合を考えての滑走路の要求ですので、木更津や明野、相馬原のヘリコプター用滑走路とは用法が違うのですし、ヘリコプターを緊急時に増強する際鋸とを考えると駐機場もある程度確保しなくてはなりません、そこに環境調査や工法検討などを含め、工事にはいる前に行わなくてはならないことが山積していますので、既に測量や環境負荷調査を行った上で地元と調整を行っていた自民党時代のキャンプシュワブ沖合案と比べて、工期や代替飛行場完成の予定である2015年までの完成、というのは非常に厳しいといわざるを得ないかもしれません。
米海兵隊は、絶対条件としてヘリコプターを運用する上で不可欠な1500メートルの滑走路を飛行場に不可欠としています、ヘリコプターといっても、アメリカ本土のような遠い場所から日本まで、ヘリコプターの搭載燃料では太平洋を越えることはできませんから、大型輸送機に搭載してヘリコプターを輸送します、そのために必要な滑走路、これが第一点。第二に沖縄県には海兵隊地上戦闘部隊が駐留しています、海兵隊は大統領命令だけで出動できる緊急展開部隊で議会の承諾が必要な陸海空軍よりも身軽な緊急展開部隊ですから、火力も防御力も少な目で、その分は輸送ヘリコプターの機動力と攻撃ヘリコプターの火力に依存していますから、すぐそばに海兵隊地上部隊の駐留が必要になります。そして海兵隊は、いつどういう状況に投入されるかはわからない緊急展開部隊ですから、国土防衛と国際人道支援任務に投入されるだけと考えることができる自衛隊と比べれば、どうしても危険度は高くなりますので、沖縄北部演習場のような広大な訓練地で訓練することが必要になります。自衛隊の任務も過酷ですが、明日アフガニスタンに出動し、ヘルマンド州の高山部に立てこもる武装勢力を一人残らず掃討すべし!、とか、朝鮮半島情勢が悪化した際に北朝鮮沖合に輸送艦にて展開していつでも沿岸の脅威を排除して上陸できるように、というような命令は現時点では考えられないのですが米海兵隊の場合は考えられる、こうした上で犠牲者を最小限に抑えるべく訓練が必要とされているわけです。
したがって、社民党が提案しているような佐賀空港、大村航空基地、鹿児島県馬毛島という選択肢を選びますと、自動的に海兵隊地上部隊と空中機動、上陸演習を行う演習場負担が附いてくる事になりますね。飛行場移設、と社民党は言いくるめているのかもしれませんが、海兵隊地上戦闘部隊ざっと数千、それがこれまで九州や西日本に無かったほどの演習場を必要として移転される、という訳なのですから、地元としては納得するのでしょうか、もちろん巨額の公共事業費は地元経済を潤沢なものにかえてくれるのですけれども、地元の方々の合意というものがとれる見込みがあるのか、非常に慎重に事を進めてゆかなければなりません。
そもそも移設が考えられた目的は、地元の負担軽減です。しかし、社民党案は、非現実的なグアム移転案を除けば、沖縄の地元負担を本土並に引き下げるのではなく、本土の基地負担を沖縄並に引き上げる、という結果のものとなってしまっていますね。これでは本末転倒です。そして民主党案は、沖縄の負担軽減という題目はそのままですけれども、実際にはキャンプシュワブ沖合以外の場所に移転する、ということが第一目的になっています。これは方向性としては間違っていないのかもしれませんけれども、キャンプシュワブ沖合に移転するよりも沖縄県全体に環境や騒音の面で被害が増える案、騒音はキャンプシュワブ陸上案、環境はホワイトビーチ沖合案なのですが、こうした案が、キャンプシュワブ沖合ではない、というだけで模索されていることには、ちょっと何かがずれているのではないのか、と考えてしまいますね。
HARUNA
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)