北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

普天間移設案:空自那覇基地とともにホワイトビーチ沖の巨大海上基地へ移設案

2010-03-15 22:56:57 | 国際・政治

◆沖縄再編、キャンプシュワブ陸上案と並ぶ有力案

 三月十四日に琉球新報が報じたところによれば、普天間基地移設先の候補に挙がっているホワイトビーチ沖合の海上埋め立て構想について新しい動きがあったようです。そして、問題は山積している案なのですが、有力案のようなのですよね。

Img_9172  わたしも相当、この種の話題ではどんな案が提示されても驚かなくなったのですけれども、今回は驚きました。今回も、と訂正するべきでしょうか。普天間基地代替施設に併設して、海上埋め立て施設に航空自衛隊那覇基地を移設する、という案でした。なんでも、浅海の珊瑚礁で埋め立てが容易であるのに加えて、珊瑚礁がすでに死滅しているので、海上施設も地元の理解を得られるだろう、という考えなのだとか。羽田空港新滑走路のように海面から独立した方式で建設して潮流への影響を最小限に抑える工法を、と思ったのですがそれは当方の考え過ぎだったようですね。しかし、那覇基地まで移設、どこからでてきたのか。

Img_8901  今回の案は実現すれば米軍再編といいますか、国内的には沖縄再編といえるような規模、那覇空港が許容いっぱいにまで旅客機の発着がある、ということから航空自衛隊の第83航空隊を移設して、その分発着枠と利用できる面積を広げよう、ということなのでしょうか、ホワイトビーチ沖合に建設するという海上施設には、東側に海兵隊用滑走路、西側に航空自衛隊用の滑走路、という構造を採用するようです。こうした検討は以前にも行われていたようなのですが、まず現在発表されている案では、これまでよりも遥かに大型の海上施設となる点、そしてその費用を日本のどこの省庁が分担するかという点、そして費用対効果の面でどうなのか、という点で疑問符が付きます。

Img_0681  那覇基地の航空自衛隊航空隊を移設する、という案ですが、当然那覇基地の代替施設として運用するのですから、F15戦闘機以外に、KC767空中給油輸送機、E767早期警戒管制機、それに新輸送機XC2の運用を考えなくてはなりません。XC2は川崎重工提示したデータによれば最大の輸送量、つまりペイロードを搭載した場合の発着には2200メートル以上の滑走路が必要とされていて、たとえば美保基地ではこれを見越して滑走路の2500㍍への延伸工事を行っています。普天間代替施設というのならば、海兵隊は1500メートル滑走路を、求めていたのですが、これよりは確実に大きくなります。

Img_7271  隣に那覇基地の代替を建設することで隣の滑走路が1000メートル長くなってしまうわけです。埋め立て式の海上構造物が全長で1000メートル大きくなった場合、工費や環境負荷がどの程度大きくなるのか、ということは先学にしててもとに資料を持ちませんが、果たして地元の合意を得られるのか、という素朴な疑問があります。また付け加えれば、嘉手納基地の戦闘機も移設しよう、という案が過去に検討されていると報じられているのですけれども、その場合、嘉手納基地並の3500㍍級滑走路を求められる可能性もあります。1600㍍滑走路一本を海上に建設する予定が随分大きくなりましたね。

Img_8856  もう一つの問題は、建設費です。過去に北大路機関が提案した、米海兵隊施設を那覇空港に移転させ、那覇空港の代替施設を自民党時代の日米合意のあった名護市沖合に新沖縄空港として建設する案であれば、公共事業として国庫と自治体で建設費を折半、もしくは国の直轄事業として空港整備を行うことが出来たのですが、那覇基地の移設費用となれば防衛予算から捻出しなくてはなりません。現時点で防衛予算に余裕はないのですが、海上に滑走路を建設して、支援設備、管制設備を建設する、となりますとこれは陸上に飛行場を建設するよりも多くのコストを要することが予想されます。

Img_9489  航空自衛隊はF-X選定と調達、次期輸送機の調達など、思いつくだけでも多くの予算を要する展望なのですから予算の余裕はありません。基地建設の分、政府が防衛予算に潤沢な配慮を行うのならば別なのですが、現実的ではないでしょう。また、こうした関係で防衛予算が増える、ということは緊縮財政下では世論の反応も厳しいでしょうし、厳しい世論を背景に増強する予算を不足する輸送艦や補給艦にまわして災害に備えたり、稼働率を支えるための防衛産業基盤をまもる支出に使うのではなく、基地建設、となってしまうと、ちょっと失うものの方が大きいかもしれません。

Img_8236  もう一つの問題点は、航空自衛隊の戦闘機部隊を移駐したとしても、那覇空港の発着枠がそこまで余裕が生まれる、というものではない、ということです。たしかにF15戦闘機一個飛行隊が訓練と対領空侵犯措置のためのスクランブル発進を行っていたのを移転すれば、滑走路の使用では余裕は生まれるかもしれません。しかし、那覇基地二隣接して海上自衛隊の那覇航空基地にはP3Cの航空隊が展開していますし、陸上自衛隊の第101航空隊も展開しています。また、航空自衛隊の南西方面航空混成団司令部が地下に置かれていて、高射群司令部も置かれています。

Img_6207  戦闘機だけを移駐しても、そこまで大きな余裕には繋がらない、という問題があります。嘉手納基地の米空軍F15を新海上基地に移設して、空いた部分に那覇航空基地のP3Cを移駐させる、という案もあるようですが、そうも簡単に日米の基地や飛行隊を移転できるのならば、嘉手納統合案の際に出た問題と重なる点も出てきますし、なによりも那覇駐屯地や海空の機能の移設は困難です。予算度外視で、国が潤沢に配慮してすべてを沖合に、となりますと、それこそ大きくなりすぎてしまいますし、那覇駐屯地の第1混成団は海上に移駐させることは無理です。果たして多くの予算を投じて海上に新基地を建設する意義とは費用と比べ高いのか、一考の余地があります。

HARUNA

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