◆全自衛隊の訓練を圧迫する油購入費18%減
本日は平成22年度防衛予算について。22DDHが予算として認められた中で忘れられている一視点、燃料費の大幅削減についての話題です。油については、陸海空全てに共通する問題なのですが、この文章が22DDHについての一文から転用したものですので、悪しからずご了承ください。
平成22年度防衛予算で要求された19500トン型護衛艦(22DDH)は、事業仕分けの場においては高度に政治的な問題であるから事業仕分けの対象とすることは適当ではない、ということで政府に差し戻され、全通飛行甲板型の護衛艦は災害時に有効、という社民党の賛成もあって、無事に平成22年度防衛予算に盛り込まれることとなりました。
新しい22DDHは、基準排水量で19500トンといいますので、燃料や物資、装備品、真水などを積み込んだ満載排水量ではおそらく30000トン前後となるでしょう。艦内に他の護衛艦に供給する燃料を搭載する、といいますのし、現段階からは数値も動く可能性もあり、これらを加味すると、もう少し満載排水量は大型化する可能性もあります。海上自衛隊が導入する艦船としては史上空前の規模になるでしょう。
ただ、平成22年度防衛予算をみますと、概算要求の時点で油購入費が15%も縮減されていて、原油価格は一頃と比べれば非常に安定しているとはいえ、概算要求からいきなり15%も間引いて、艦艇稼働率を大きく引き下げようとしています。燃料の購入費が15%も縮減される、となりますといろいろな部分に波及するでしょう。
油購入費は一般物件費に含まれているのですが、平成21年度が1015億円、しかし平成22年度予算では841億円で、実際には18%減少、というところですか。一般物件費は4013億円で前年比189億円減少、修理費、教育訓練費、光熱費、医療費が一般物件費に含まれているのですがこのなかで174億円が油購入費の削減分です。
艦艇稼働率が低下すれば装備修繕費は少なくなるので、安上がり、と単純に考えたくなるのですがこれは支出する側の論理、消費する現場は燃料不足で訓練や広報活動に支障が出てくるでしょうし、受益者となる国民は、有事の際に損益を被る立場、果たして22年度予算はこれで良かったのか、と頭を傾げてしまいます。
訓練が減り、結果、事故が起きれば当事者が批判の矢面に立つのでして、装備をそろえておけば動かずともなんとかなる、という浅い考えなのか、と疑問符をつけたくなります。ただ、どこかの政党では、衆院選挙で多数生まれた新人議員を、次の選挙対策に専念させるべきとして地元に張り付け後援会などとともに国政から離れ駅前演説会などに使っています次第、数さえそろっていれば文句はないだろう、という理論は彼らなりに理にかなっているのかもしれません。
平成22年度防衛予算は防衛装備品調達費の後年度負担繰り延べ、要するに後払いの装備品調達費を別の年まで待ってくれ、ということをやっているわけで、なるほど史上空前の国債発行を行って子供手当の財源捻出を行った政権ならでは、と変に納得してしまうような気がしてきます。
納得しつつも、後年度負担に応えてくれるのは国内の防衛産業だけなのにもかかわらず、これをさらに広げて行おうとすれば外国から装備品を売ってもらえなくなるぞ、とも思います次第、さりとて国内防衛産業の維持策を打ち出しているのかと問われれば技術がなくなれば大変だね、と懇話会ではまるで他人事。平成22年度防衛予算は22DDHの予算こそ通りましたものの、かなりの問題を含んだ内容となっていました。
原油価格高騰の折には、護衛艦御極力訓練時には推進装置の片方を停止させて少しでも燃費を向上させようとしたり、訓練体系を見直すなどして必死のやりくりを行ってきたという事ですけれども、今回の燃油費切り込みは、それとは別次元の大きな問題を内包しているということに留意する必要が油購入費18%削減の背景にはあります。
それは、一旦削減した予算については、年度ごとで比較した場合、元の水準に戻すタイミングが難しくなる、という事です。18%マイナスした、前年比82%の油購入費を100%に戻すには、翌年に前年比22%の予算増を認める必要があり、実施す敵に元に戻すだけなのですが、22%と言う数字が独り歩きして、これが大幅増、ととられてしまうのではないか、という事です。
節約しなくては、という機運は理解できなくもないのですが、削減してしまうと大きな問題を長期間にわたり残してしまうものがあります。油購入費と直結する訓練の問題は、長く響きますし、それを補うような税収増につながる成長戦略や経済政策の展望は見えてきません。現政権は、長く安定した政権を望むのならば小手先の発想で長期的なマイナスを生むのではなく、長期的な展望、というものを求めたいですね。
HARUNA
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