北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

国連PKOスーダン派遣団への陸上自衛隊輸送ヘリコプター派遣を断念

2010-07-14 12:59:53 | 国際・政治

◆専守防衛の編成

 九州、西日本の豪雨が心配ですが、本日はスーダンの話題。陸上自衛隊のスーダン派遣、防衛省が非常に困難と判断していたのですが、政府として先送りする方針が発表されました。

Img_7207  陸上自衛隊は現在、ハイチでのPKO任務にあたっており、朝雲新聞や統合幕僚監部で任務の様子が掲載されています。自衛隊は日本の災害派遣のように早期進出と復旧後の撤収が望ましい、という事を書いてみたのですが精鋭部隊を送り、目覚ましい活躍、今後のハイチ復興の礎を目指して頑張っているようです。

Img_7369  しかし、日本は憲法が示すように専守防衛の防衛政策を展開しており、海外への展開能力は決して高くはありません。日本列島という長大な面積の領土を防衛するための最小限の能力、その中から人員を抽出して国際貢献に充てている、という状況で、海外派遣を前提とした編成では無いのです。

Img_69301  こうしたなかで陸上自衛隊のスーダンPKOへのヘリコプター派遣について共同通信からの引用です。陸自ヘリ部隊スーダン派遣見送り PKOで政府 仙谷由人官房長官は13日午後の記者会見で、スーダン南部に展開している国連平和維持活動(PKO)スーダン派遣団(UNMIS)について、陸上自衛隊ヘリコプター部隊の派遣は見送ると発表した。

Img_9001  現地調査を踏まえ(1)部隊の内陸部への輸送は予想以上に困難(2)ヘリコプターの運用上の支援態勢がない―などを「総合的に判断した」と説明した。スーダンへの新たな資金協力については「具体的検討には入っていないが、政府として積極的な協力をしたいという考え方だ」と強調した。

Img_9004  UNMISへの陸自部隊派遣をめぐっては、岡田克也外相が積極的な姿勢を示していたが、北沢俊美防衛相が慎重論を展開。仙谷氏は岡田氏に見送り方針を伝えたところ、やむ得ないとの認識だったと述べた。2010/07/13 18:54   【共同通信http://www.47news.jp/CN/201007/CN2010071301000744.html

Img_9151_1  引用は以上です。スーダンでの南部独立を問う選挙に対して、選挙支援を行う国連PKOに陸上自衛隊が参加し、投票箱のヘリコプターによる空輸を行う、という支援が構想され、個の為にCH-47輸送ヘリコプターの派遣が考えられていたのですが先月、既に防衛省が現在の展開能力では厳しい、という判断を行っていました。関連記事→http://harunakurama.blog.ocn.ne.jp/kitaooji/2010/06/post_87cd.html

Img_9217  スーダンは東北部にスアキン、ポートスアンなど港湾都市があり、黄海に面しているのですけれども、今回任務を行う南部は空路か海上輸送した補給物資を陸上輸送するほか輸送手段が無く、しかもヘリコプターの運用基盤が無い、という状況下でしたから、防衛省が不可能、と判断し、外務省もこの判断を尊重した、とのことです。

Img_9259_1  ヘリコプターというものは発着が自由自在、という印象もあり、これは運用面では正しいのですけれども、少なくない整備基盤が必要となります。そして多くの航空燃料が必要となりますし、予備部品などについても近くに米軍基地でもない限り、全て自前で運ばなければなりません。

Img_5825  インド洋大津波緊急人道支援では、スマトラ島へCH-47を含むヘリコプター部隊を派遣することが出来ましたが、あの時には、おおすみ型輸送艦が派遣されていましたので、艦上で整備を行う事が出来ました。しかし、スーダンだと海は遠く、おおすみ型に搭載できる部品や燃料、を車両で運ばなければなりません。

Img_6964  また、治安状況が微妙ですから、警備要員も必要となってきます。投票場が空港に隣接しているのならば警備は拠点飛行場に中央即応連隊か空挺団から一個中隊も配置されていれば充分なのでしょうが、そういうところに投票場があれば陸上自衛隊への派遣が求められる、という事にはなりません。

Img_7061  ヘリコプターでは、かつてパキスタン地震に陸上自衛隊が11名乗りのUH-1Hを派遣しましたが、55名乗りのCH-47を派遣するのですから相応の運用基盤と後方支援基盤が必要です。ドイツ軍はNATOの協同運用基盤の支援を受け、米軍は外征を前提とした兵站能力を持っていますが、自衛隊は専守防衛。

Img_7113  中央即応集団が編成され、第一ヘリコプター団や第一空挺団、中央即応連隊が国際任務に即応できる部隊として置かれたのですけれども、それ以前は地域防衛に当たっている北部、東北、東部、中部、西部の各方面隊から部隊を待機指定し、各部隊から少しづつ人員を抽出して対応していました。

Img_7199  こうして陸上自衛隊は全部隊が日本有事と災害への即応体制を採っていたのに対して、新しく国際貢献に即応できる部隊が誕生したのですが、中央即応集団は陸上自衛隊145000名の中の4000名、まだまだ陸上自衛隊は日本国内での任務を第一とした専守防衛が前提の組織となっている訳です。

Img_7104  海外派遣を前提とするためには、方面隊と同格まで中央即応集団を拡大改編し、隷下に国際旅団としてヘリコプター隊と普通科連隊、後方支援隊、施設中隊を持つ編成の部隊を幾つか置き、方面補給処と同等の補給能力を持つ基盤を新たに構築でもしない限り不可能で、少なくとも現在の予算体制と人員配置を再編しなければ難しいかもしれません。

Img_6980  しかし、最近は聞こえなくなりましたがアフガニスタン自衛隊派遣案、そして今回のスーダン派遣案、現在のハイチ派遣、国際貢献任務のバラマキ政策とも見えてくるのですが、行う以上、政治は人的予算的措置をしっかりと行わなければ、以後、厳しく責任を問われる事となるでしょう。この際ですから、改訂予定の防衛大綱に中央即応集団増勢に向けた人的充実を記してみては、と思いました。

HARUNA

(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)

コメント (12)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする