◆日本のMOOTW:友愛ボート
米軍主導で実施されたパシフィックパートナーシップ2010が終了しました。友愛ボートとして参加した輸送艦くにさき、と陸海空自衛隊合同部隊、NPOは帰国の途に就いたとのことです。
朝雲新聞より引用 7/1日付 ニュース トップ :米太平洋軍主催医療・文化活動 「PP10」終わる 3自混成チーム帰国へ・・・ 陸海空3自衛隊の混成医療支援チーム約40人と民間NGO団体約20人など日本から総勢約220人が参加して5月31日からベトナムを皮切りに行われていた米太平洋軍主催の医療・文化活動「パシフィック・パートナーシップ2010(PP10)」は6月28日、最後の開催地カンボジアのシアヌークビルでの活動を終え、全ての日程を終了した。
海自輸送艦「くにさき」(乗員等約160人)は7月1日、帰路の中継地シンガポールで補給を行い、5日に同地を出発、15日に呉に帰国する予定。 シアヌークビルでは6月16日から21日まで、シアヌーク州立病院、23日から27日までアンドゥン・トゥーモ学校で自衛隊と米軍、日本の民間NGOの各医療チームが共同で現地住民を診察、治療などに当たった。
ベトナムでの活動と同様、部屋ごとに内科、小児科、眼科、歯科などに分かれ、医師や看護師らが現地の通訳を介して地元住民を診察した。無料で診療を受けられるとあって人々は大使館などを通じて事前に配布された招待券を持って朝早くから学校に詰め掛けたほか、口コミで評判を聞きつけた周辺地域の人々も終日押し寄せた。自衛隊手術車両を使っての診察、治療も行われた。
文化交流では「くにさき」の乗員が子供たちに剣道や折り紙を教えて日本の文化を紹介した。 PP10は米軍主催で平成19年から始まり、海自は毎年、医官、歯科医官各1人を派遣してきたが、今年は鳩山前首相が災害医療救援に海自艦を活用する「友愛ボート」構想を掲げたことから、初めて3自衛隊混成の医療チームを編成、輸送艦とともに派遣された。
友愛ボートとして海上自衛隊の輸送艦をこの種の任務に充てるという発想は、名称そのものが提唱した鳩山総理大臣の安直な発想から名づけられた、という印象もあり、加えてみんなの党渡辺党首との会談において急きょ浮上した日の丸サンダーバード隊構想とともに、いったい何を考えているのか、と識者や国民の間に不満が噴出しました。
これらは当時の報道姿勢やWeb上でもそのあり方について議論が交わされていた傾向で、機会が無く聞くこともままなりませんでしたが、海上自衛隊部内においても、また新しい任務が人員も装備も増強されないままに加えられるのか、という事も含めて疑問符を加えた受け止め方もあったのではないでしょうか。
しかし、個人的に今回の友愛ボート構想に基づく海上自衛隊の輸送艦派遣は自衛隊による戦争以外の軍事任務:MOOTWとして見た場合、一定以上の評価があってしかるべきなのかな、と考えています。この事は以前にも繰り返し掲載したのですが、ヴェトナムやカンボジアという地域を選び、カンボジアは日本が国家再建への国連平和維持活動へ自衛隊を派遣した地域である訳ですし、第二次大戦とその後のインドシナ紛争までの期間のヴェトナムと日本の交流も小さくありません。ヴェトナム戦争に日本が参加しなかったという事もあるのでしょうが現在も関係は良好です。
F機関も含め、独立に関与した事例もあるのですから、友好関係の東西冷戦期という断絶を挟んだ持続を目指し、そういった地域と現代の日本との軍事面以外にも文化面を含め交流を強化する、という事は外交上の意義がありますし、何よりも日本の自衛隊が東南アジア地域において評価は度外視しても認知され、少なくとも敵対するものではない、という事を示すだけでも信頼醸成の観点からは大きな意義があります。特に安全保障問題は些細な誤解が異なった重大な結果に帰結することがありますから、信頼を醸成し誤解に基づく不幸な結果を回避するための努力というものは重要です。
もうひとつ、中国が東南アジア地域への影響力を増大させている中で、日本の満載排水量14000㌧の大型輸送艦が南シナ海を通りトンキン湾やタイランド湾を航行する、という事は軍事的示威を含めることなく、影響力を与えることが出来ます。この地域、特に南シナ海は周辺国が海底資源に関する利害を軍事力とともに提示しあっている南沙諸島問題という領土紛争を抱えています。この中で急激に軍事力を増強させている中国海軍を目の当たりにする東南アジア諸国に対して、海上自衛隊の輸送艦は多極化という意味合いで影響を受けることになります。
そもそも友愛、という名称も旧ソ連軍がワルシャワ条約機構軍の連携を目指し、NATOに圧力を加えた演習が“友愛演習”でしたし、日本語では自衛隊に用いる用語として馴染みがないだけで、決して変な名称では無い訳です。また、上記のとおり意義も大きい訳ですから、輸送艦、補給艦、掃海母艦、ヘリコプター搭載護衛艦等、なんとか一隻を捻出して今後も米軍とともに継続的な参加を行えないかな、と思います。(写真は小松島港まつり2009のものです)
HARUNA
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