北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

海上保安庁、今後拡大するであろう南西諸島における我が国の警備と領海保全について

2010-09-24 23:30:31 | 防衛・安全保障

◆摩擦と衝突を回避するために巡視船の増強を

 検察に政治判断を強いる形で尖閣諸島中国漁船公務執行妨害に伴う一連の事案は船長の不起訴釈放というかたちで、日本側は決着をつけるつもりのようです。

Img_6795  尖閣諸島に領土問題はない、という基本指針さえ踏まえない閣僚の発言などが相次ぎ、結局のところ中国からの外圧に屈する形での方針変更、国内法に準じて粛々と行うという発言は方向転換を強いられ、本来政治が担うべきところを検察に不起訴という判断をさせ、これを政府が支持するという本来は検察が法にのっとり、政治判断を政府が下すべきところを丸投げ、政治主導という言葉はスローガンで、やはり外交が出来ない、地方自治体程度の運営能力も怪しい政権与党、という状況です。このままでは勘違いさせて武力紛争を誘う形にならなければいいのだけれども。

Img_3709  尖閣諸島問題ですが、問題の中枢は日本領土の占有を中国が長期的に考えている、という事でしょう。従って、日本が主権行使を行う事は認めず、海上保安庁の管轄権も尖閣諸島においては認めない、という背景がある訳です。尖閣諸島を中国が制圧すれば、第一に資源輸入国に転落しつつ工業化を進める中国に周辺海域の底に眠る天然ガスを供給することが出来ますし、米海兵隊を中心に米軍が展開する沖縄本島と台湾の中間部分に位置する尖閣諸島を中国が押さえれば、台湾に中国が侵攻する際に沖縄本島からの海兵隊展開を妨害出来、台湾を併合した後は日本のシーレーンを締め上げる事が出来、日本をアメリカ影響下から切り離し、中国の影響下に置く事が出来る訳です。

Img_9735  いわば、南西諸島限定侵攻を抑止するという事はそのまま、台湾有事を抑止する事にも繋がり、ひいては米中衝突もあり得る訳で、この場合の主戦域は南西諸島、という事になりますので沖縄本島を含めた人口密集地での武力紛争の危険性を低下させる事となる訳でして、尖閣諸島に日本の主権が及んでいる、という事は今まで以上に明示しなくてはなりません。とはいうものの、毎日一年中海上警備行動命令を発令して護衛艦を張り付け、合戦用意の号令を待つという訳にも行かず、平時の警備体制というものは海上保安庁が第一線につく、という形、現状にいたるのですが、この点について。

Img_5856  海上保安庁には、世界最大の巡視船しきしま、を筆頭に警備救難業務船(巡視艇や巡視船)が407隻、航路標識業務船33隻を保有、その総数は440隻となり、世界の海上治安機関としては最大級の規模を誇っています。そして航空機も、回転翼機、固定翼機合わせて73機が運用されており、広大な日本の領海や排他的経済水域を前に警備救難へ日々訓練と実任務の実績を重ねています。しかしながら、海上保安庁の巡視船は老朽化したものが多く、現実問題としてこの代替へ頭を悩ませているのが実情です。平成17年度から一気に置き換えを図っているのですが、そもそも70年代の新海洋秩序に対応するために一気に整備した船が同時に老朽化しているため、厳しいという状況が続いています。現用船の代替を建造するのにも手一杯であり、しかし、今後の南西諸島の状況を考えるならば全体的に増強を模索しなくてもならないように思います。

Img_5132  例えば1200㌧の、しれとこ型巡視船は、3年4ヶ月で28隻が建造され、老朽化していますし、4037㌧の、つがる型ヘリコプター巡視船は老朽化とともに、近年では飛行甲板を持つ巡視船を飛び石方式でヘリコプターが展開する方式に改める構想もあって、巡視船は今後、相対的に中型化する可能性も出てきている訳ですから、大型巡視船を多数集中して数で押し付ける方式が執れなくなれば、見方によっては海上保安庁のもつ警備救難能力が低下している、と相手に誤解させる事にもなりかねない訳です。

Img_3716  一方で、北朝鮮工作船事案を受けて巡視船は、単装機銃から管制式機関砲へ装備が強化され、防弾板の装着や高速化等、高い能力が求められるようになっている事もあり、巡視船の単価も着実に上昇しているのですよね。この関係もあるのか、新造される巡視船は、ヘリコプター格納庫を持つものが2001年に就役した、つがる型の、だいせん、以降建造されておらず、平成22年度計画でようやく、しきしま型の二番船、ソマリア沖海賊事案を睨んでのものということですが、建造される程度で、実質飛行甲板のみ持つ1800㌧の、ひだ型、1300㌧の、はてるま型というようなものに集約されてきています。

Img_8482  しかし、まあ、総トン数で7175㌧にもなる、しきしま型、対空レーダーを搭載してダメージコントロールまで考慮している軍艦のような巡視船を多数、という事はないのですが、ヘリコプターを複数機運用可能な大型巡視船、というものは10隻単位で整備を行ってもいいのでは、と思います。数で威圧、という面以外に災害派遣では飛び石方式の運用が陸上施設の被害と航空機の集中で難しくなるわけですし、ね。護衛艦と違い、電装品はそこまで高度なものは不要、船体も基本は商船構造、護衛艦と比べれば建造費は大きくない訳で、乗員も護衛艦ほど必要ではありません。

Img_0416  一方で、南西諸島ですが、政府が近隣諸国に誤解されるような事を行いますと、今回のような事案が増加する可能性もあります。特に中国の漁船については米海軍の海洋観測船や音響測定艦の航路を妨害するなど組織的に軍事的な行動を執る事もありますので、数で抑えることが可能な勢力を政治が充分な予算と人員とともに確保する、ということには責任があると考えます。また、今回のように誘発するような決定を政治が支えてしまいますと、現場の海上保安官が危険にさらされるような状況も増えてきます。このあたり、政治を担うのならばもう少し配慮が欲しいところです。

Img_6189  海上保安庁は、平時において矢面に立つ訳ですから、もちろん海上自衛隊との協力関係は念頭にあるのですけれども、もう少し関心を持って考える必要があるのかな、と。そういいますのも、このWeblogも海上保安庁関係の特集は多いとは言えませんし、考える密度も薄いですから、ね。実は巡視船は老朽化が問題で、新型巡視船は高い性能が要求されるので建造費も高く充分建造できず、しかし、任務は今後増大し苛烈になる可能性がある、こういう事は頭の片隅に置いて南西諸島の問題を考えたいです。

HARUNA

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コメント (34)
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