尖閣諸島問題ですが、中国の進出について、地下資源や漁業権の問題が提示されています。しかし、それ以上に問題なのは台湾と沖縄を結ぶ位置にある事が大きな問題です。
天然ガスであれば他の地域から取得することも可能でしょうがなぜ尖閣諸島なのか、漁業権であれば日本近海の南西諸島以外にも多くの漁場がありますが、何故尖閣諸島なのか。譲歩さえすれば、漁業権を認めれば、天然ガス田の開発を認めれば、譲歩で何とかなる問題ではないのかもしれない、そういう視点は無いのでしょうか、場所が余りにも微妙なのが問題なのです。今の政府は戦争から逃げようとばかりしていて、起きること自体を防ごうという視点が足りません。
沖縄の在日米軍は台湾有事の際に自国民保護の観点から展開する位置にあり、普天間基地の海兵隊ヘリコプター部隊が岩国の空中給油機の支援を受けつつ台北に展開することが可能です。尖閣諸島は、この中間位置にありますので、飛行場施設はありませんが非常時には不時着も不可能ではありませんし、少なくともここが日本領であれば、ここに中国海軍が進出して妨害を行う、ということが出来ない訳ですね。台湾有事の際に台北の自国民を救出するべく海兵隊が展開すれば、海兵隊員を戦闘に巻き込む危険性から中国軍の活動は制約されます。普天間から最初の部隊がヘリコプターで即時に展開し、佐世保の揚陸艦部隊が続いて合流、嘉手納の空軍部隊と横須賀の空母機動部隊が猛烈に圧力を掛ければ、数千人の米軍兵士を殺傷し究極的には対米核戦争か、もしくは台湾進攻を断念するか、という究極の選択を強いられます。しかし、尖閣諸島が中国にとられた場合どうなるか。
最初に台湾が中国に併合された場合について。中国は現在、インド洋へのシーレーン防衛を意図した進出を計画していますが、これはインドやそのほかの国との有事の際に中東と中国を結ぶシーレーンが攻撃される事を警戒していることを意味しまして、言い換えればこうした警戒を行う中国自身が有事の際には相手国に向かうシーレーンの攻撃を想定している方式の表れ、といえます。海洋輸送に大きく依存する日本としては、中国海軍や空軍によるシーレーン攻撃という事案は最も危惧すべき事例といえるでしょう。しかし、九州近海には韓国海軍が、そして台湾海軍が、フィリピンとヴェトナム周辺にはそもそもASEAN諸国が中国に対して警戒し、米海軍との共同歩調を示していますし、現時点では海上自衛隊の能力を以てその主力を抑制することが出来れば、シーレーン攻撃に対処することが出来るでしょう。
しかし、仮に台湾有事となり、台湾の中華民国が崩壊し、台湾島に中国海軍の基地が建設され、航空基地が建設されれば緩衝地帯が無くなり、中国の軍事力とシーレーン防衛にあたる自衛隊とが直接対峙する状況となります。60年代まで台湾海峡では駆逐艦や魚雷艇との海戦が何度か起きていますが、こうした状況に曝される事も、つまり海上警備行動に際して艦砲やミサイルによる小規模な海戦が発生する可能性とも直面する訳です。緩衝地帯と言うのは重要でして、例えばインドと中国を隔てたチベットが中国に侵攻され武力併合されたのち、国境紛争が続いた事でインド軍は核兵器を装備する必要に直面し、緊張状態が続いています。
台湾というのは、こうした意味で重要な位置にあるのですが、何分、正統政府であった中華民国が交戦団体として扱っていた中華人民共和国が正統政府となってしまったため、国家継承なのか、分裂したのか、それとも中華民国政府が交戦団体に格下げとなったのか、不可思議な状況にあるのですが、中華民国として独立を維持しているともいえますし、日本政府の見解に依拠すれば地域、としてみなす事も出来る微妙な位置づけにある訳です。独立すると宣言すれば中国は侵攻する、と公言していますし、他方中華民国としてそもそも独立はしているともいえる訳です。しかし、海軍力は大型水上戦闘艦約30隻、第三世代戦闘機300機を有する台湾の防衛力は、中国に対する強力な安全弁となっているのです。台湾の独立は、アメリカも日本も支持はしていないのですが、前述の理由から中国が中華民国政府を倒して武力併合することについては明確に不支持を示していまして、波を立てないでほしい、というのが日米の共通したところなのですね。
台湾有事。1996年にかなり際どい事がありました。1996年台湾総統選挙に際して、人民解放軍は第二砲兵のミサイル部隊によるミサイル演習を行い、台湾北部、実は沖縄県からも近くなのですが、この海域に弾道ミサイルを撃ち込み台湾の選挙の妨害を試みました。これに対してアメリカが不快感を示したところ、米中国防当局者の会談で中国側が米軍介入に対して中国は西海岸をICBMで攻撃する用意がある、と恫喝を試みたのですが、返答は空母インディペンデンス、原子力空母ニミッツの台湾海峡展開でした。
空母機動部隊が二隻も展開したのに対して、当時中国海軍にはまともな大型水上戦闘艦さえ数隻しか無く、航空攻撃を試みてもイージス艦とF14に撃退されることは明白でしたし、F/A18を中心とした空母機動部隊の打撃力は恐ろしいものがあるのに、これが二個、中国は一方的にミサイル演習の中断を発表し、台湾の選挙は予定通り実施された訳です。まあ、これで終われば大団円だったのですが、こののち、中国海軍は大型水上戦闘艦の量産体制を確立させるとともにロシアから戦闘機とその技術導入を本格化、某国一国だけ防衛大綱で某国の自衛隊を削減した以外は、東アジアが猛烈な軍拡時代に入って行きました。これは余談。
尖閣諸島ですが、ここ、中国に押さえられると、再度こういう事案が生じた際に沖縄から米軍部隊が台湾有事の火消しへ急行する際、ヘリコプター部隊が尖閣諸島周辺に展開した中国軍部隊によって妨害され、台北へ展開できなくなる事があるかもしれません。迂回すれば、と思われるかもしれませんがしかしヘリコプター部隊も、導入されるティルトローター部隊も航続距離はそこまで余裕がある訳ではありませんし、台湾の北方にある尖閣諸島を中国が押さえて、しかもこの島は航空基地を建設する事が出来るほどの面積がありますから、中国空軍が航空基地を建設した場合、台北が北方から脅かされる、ということにもなりかねません。
自衛隊が排除できないよう日本政府の現在の姿勢が続けば、これを抑止する為に台湾海軍が思い切って進出してくる可能性がありますし、尖閣諸島が日本以外の領有になった事自体が第二次台湾海峡危機へと繋がる可能性も出てくる訳です。考えられるパターンは幾つかあるのですが、究極の所、尖閣諸島が中国領となり基地建設や海兵隊進出を抑止する方式を構築し台湾へ進攻する可能性、尖閣諸島の領有権が変わることを良しとしない台湾が先に進出を試みる可能性、結局は台湾海峡での中国と台湾の有事、という形になってゆく訳ですね。そして米軍が関与できなければ維持できない可能性があり、台湾を起点として日本がシーレーンを抑えられることになる訳ですから、緩衝地帯を失った日中は、日中戦争という危険をはらみながら21世紀を生きてゆくことになる訳です。
民主党政権は戦争から逃げる事は出来るでしょう。しかし逃げる事が出来たとしても東京まで逃げたところで現実問題に追いつかれます、逃避というのは一時的な手段でしかない訳なのですね。戦争から逃げる事よりも戦争を防ぐ努力を行う必要があるわけです。防ぐためには置きつつある危険に対して、主体的に立ち向かってゆく必要があります。もっとも、逃げても追いつかれるということには変わらず、現実逃避は良い結果には至らないのですから、戦争を防ぐためにはどういう抑止力や防衛体制を構築するべきか、ということも考えるべきではないでしょうか。資源問題や漁業権問題というところにばかり気が言っているようですが、これはあまりに認識不足です。台湾問題、ひいては日中戦争にも繋がっている危機なのですから、追いつかれるまで逃げの姿勢で戦争の危険性を無視するのではなく、尖閣諸島、もう少し真剣に考えてもらいたいと思った次第。現状では、インド洋の英領ディエゴガルシアのように尖閣諸島をアメリカ政府に軍用地として貸与したほうが、まだまし、と思うくらいに菅内閣はこの問題に対して誤った対応を続けています。
HARUNA
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