◆無人機との連携が理想
今回のお題は南西諸島防空に無人機を活用する、という話題。尖閣諸島の中国漁船による公務執行妨害事案は、日本国内での事実関係は様々な情報が行き交っています。
中国中央テレビの論調は一貫して不当逮捕という主張を掲げており、その根拠は不明瞭なのですが尖閣諸島は中国領なので日本に執行管轄権がない、という論調も一部あるほか、巡視船が不当に妨害したという、いいかえれば不当に妨害したことで公務執行妨害が捏造であり執行管轄権は認める内容、一方では公海上で不当に拿捕したなど様々な論調があるのですけれども、中国中央テレビのテレビクルーは漁船が係留されている宮古島入りしており、柵越しに海上保安署の拿捕漁船が係留された様子や宮古島警察署前から報道を行っていました。
ただ、現時点では統合幕僚監部報道発表などで南西方面航空混成団の緊急発進にかんする情報も出ていませんし、宮古島周辺への中国空軍の圧力というようなものは無いようです。他方、Su30のような航空機が南西諸島へ進出するような状況となれば、那覇基地からF15を展開させて戦闘空中哨戒を実施する必要が出てくるでしょう。北朝鮮工作船事案日本海海上警備行動ではMiG21が接近したことから三沢基地のE2C早期警戒機が日本海に展開、小松基地のF15が戦闘空中哨戒を実施しています。1976年のMiG25函館亡命事件でもF4が戦闘空中哨戒に展開しています。
尖閣諸島は日本の排他的経済水域、特に等距離中間線を境界とする国連海洋法条約を採用する観点から重要で、天然ガス資源や漁業権のみならず立地上一部埋め立てで戦闘機が利発着できるような1600m滑走路が敷設できるため地政学上ここに日本へ敵対的な勢力が航空基地が建設されれば沖縄本島を含む我が勢力権にたいする重大な脅威となり、引いては第二次沖縄戦への危険性も増大させるものです。こうした観点からこの離島を防衛する必要性は日本のほかの場所と同じく高いわけです。
しかし、難点は那覇基地から尖閣諸島まで距離が大きいことでしょうか。空中給油機を進出させても、そもそもKC767空中給油輸送機が4機しかありませんので限界があります。南西諸島に航空基地があれば便利だったのですが、現在の自衛隊の編成が北方有事を想定した冷戦構造型の延長線上にあるもので、欧州安全保障協力会議や欧州通常戦力削減条約のような緊張緩和の制度が構築されていない極東において、この政策は誤りではないのですけれども、南西諸島防衛の必要性が高まっている中で冷戦終結後、脅威が相対的に和らいだ北海道の四個師団のうち二個師団を旅団へ縮小した際に削減された実質二個旅団分の人員を西部方面隊に転用しなかったという、つけが回ってきているようです。
もっとも、基地航空隊を配置しての防衛は、日本海軍が試みたのですけれども太平洋戦争でこれを上回る航空部隊を集中されて各個撃破されてしまいましたので、南西諸島を防衛するためには部隊の集中と分散を迅速に行える航空母艦の整備が望ましかったのですが、これは現時点で未知数ではあるものの海上自衛隊は過去から一貫してAV8のような航空機に関心を寄せており、現在ではF35Bのような進んだ航空機が世界では開発中、海上自衛隊も、ひゅうが型の、ひゅうが、が各地で訓練を重ね、横浜では、いせ、が公試中、より大型の22DDHの予算が認められ再来年度には24DDHの予算が展望されるので、動静を見守りましょう。
南西諸島に話を戻すのですが、那覇基地にF15一個飛行隊を基幹とする第83航空隊が展開していて、仮に那覇基地が弾道ミサイル攻撃により機能が麻痺した場合でも過去に滑走路工事などで那覇基地が使用できなくなった際に同じ沖縄本島の嘉手納基地や普天間基地の滑走路を利用して運用したこともありますので、お手上げ、とはならないでしょう。しかしどうにもならないのは尖閣諸島までの距離です。かといって、下地島や宮古島に基地を建設した場合には、これはこれで一つの選択肢なのですが、強化型シェルターか地下ハンガーを構築したうえでペトリオットPAC3を運用する高射隊を配置しなければ弾道ミサイルで無力化されてしまいます。基地隊を置いて緊急着陸ができるようにして、救難隊を配置して離島の災害派遣体制の充実と両立するあたりが妥当でしょうか。こうすれば給油拠点としても運用できます。
一方で、平時から恒常的に戦闘空中哨戒を行う、というのはいかにも仰々しいですし、防衛大綱に盛り込まれた航空自衛隊の戦闘機定数はこの任務を想定していません。そこで提示したいのは無人機の活用です。無人機といっても技術研究本部が開発中のTACOMのような高速度で小型の強行偵察型の無人機ではなく滞空時間に優れた低速型の無人機の新規導入をここで提案します。Su30クラスの航空機と遭遇すれば瞬時に撃墜されてしまう可能性が高いですが、滞空時間が24時間以上ある機種があり、先日フランスが導入を決定したアメリカ製MQ9などはサイドワインダー空対空ミサイルを運用可能、赤外線監視装置によりかなり遠距離の目標を発見できると同時に28時間の飛行持続が可能です。
航空優勢確保には早期警戒管制機と連携した戦闘機によってのみ成し得るといえるのですが、いかにF15といえども、一個飛行隊では限界です。元々敵対空域に進出して迎撃機を全て駆逐し、航空優勢を奪取するという想定で設計されたのがF15なのですけれども、操縦しているのは人間ですし空中給油により飛行時間をのばしたとしても数の限界にはどうにもならないわけです。一方で無人機であれば、滞空時間が長く操縦要員は交代が可能です。遠隔操作ですので電子戦を仕掛けられた場合も不安は残るのですが、自律飛行で帰投は可能ですし、人的損耗から乗員を防護することができます。低速ですから、対領空侵犯措置に用いることはできないのですが、大型で低速ですから巡航ミサイルと誤認される心配も少なく、理想的ではあります。
しかし、難点は、航空法上で無人機は無線操縦機とみなされるのであれば空港周辺で運用できない、ということです。航空法がここまで発達した無人機というものをそもそも想定していなかったわけなのですね。そして日本の飛行場は那覇基地を含め人口密集地の中にある場合が多いですので、事故の危険性が指摘されれば第一に日本ではこの種の航空機の運用実績が少ないですので反論できる要素が少ない、ということでしょう。納得させるのは大変ですし、導入しても運用試験で少なくない期間を要することも予想されます。一方、無人機は、これは議論の余地が生まれるかもしれないのですが防衛大綱の戦闘機定数には含まれない、といえるのですから不足する戦闘機を補うこともできるかもしれません。この点から、時間はかかるでしょうか、滞空型無人機の導入は真剣に検討されてもいいのかな、と考えます次第。
HARUNA
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)