北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

島嶼部防衛:日本版海兵隊編成よりも輸送艦で普通科中隊任務群洋上待機を!

2010-09-06 23:31:12 | 防衛・安全保障

◆有事即応!全国展開!!

 日本版海兵隊、ということで先日から少し載せている北大路機関ですけれども、本日は洋上待機、という方法から考えてみます。

Img_6852  輸送艦の増強が前提にはなるのですが、本日のお話を最初に少し挙げますと、普通科中隊を基本とした300名前後の一定数部隊を常時、防災訓練でも長距離射撃訓練でも、展開訓練でもいいので、輸送艦1隻分が常に艦上に待機している体制を構築できないか、ということです。戦車小隊や特科中隊、施設小隊とともに、連隊戦闘団の中隊版である中隊任務群、というかたちで、ね。

Img_3647  南九州の第8師団と沖縄の第15旅団を海兵隊のような編成に改編する、と検討されているようなのですが、まさか水陸両用大隊を編成に盛り込んで両用戦を行うわけにも行きませんし、特科連隊を縮小して代わりに航空連隊を盛り込んでヘリコプターを50機ぐらい配備して空中機動、という訳にも行かないでしょう。すると、方面航空隊に配備されている約50機のヘリコプターと方面普通科連隊との協同で空中機動を行う離島防衛、というのが予算的には限界でしょうか。

Img_8110  ヘリコプターは高いです。徒歩一個小隊を空輸できる多用途ヘリコプターは安価なUH1でも、縮小編成で3機分33~40億円、必要ではあるのですけれども一気に多数を調達することは難しいのです。さて、ここで考えるのが第8師団と第15旅団の部隊について、輸送艦と協同しての訓練を重ねて、上陸作戦に熟達した部隊としての海兵隊、いわば、一般にイメージされるような上陸作戦第一波を実施できるような部隊の編成、というところでしょうか。これならば日本の現在の装備体系でも実現可能だ、と思われるかもしれません。

Img_0647  しかし、この方策には大きな難点があります。協同転地演習として北海道の部隊を本土へ、本土の部隊を北海道に展開させる戦略機動能力向上の訓練を毎年重ねているのですけれども、輸送艦による訓練を第8師団と第15旅団が独占してしまった場合、他の師団や旅団は西方有事の際にどうするのでしょうか。遊兵化してしまうのではないでしょうか。そういう危惧から、個人的にこの手法には反対します。

Img_06081  おおすみ型輸送艦の輸送能力は人員で340名、短期的には1000名、そこに戦車を搭載できる車両甲板に500トン程度までの戦車、そして上甲板にFH70榴弾砲や96式装輪装甲車等を含めて搭載できます。しかし、第8師団で定数9000名、戦車44、特科火砲が60、それに無数の施設車両や支援車両などが加わりますので運べる数は限られています。

Img_4389  もっとも、RORO船を徴用して用いる、といいうことも考えられます。私自身、先日カーフェリーで輸送された第14旅団の車両をみる機会に恵まれたのですが、昨年、おおすみ型輸送艦に搭載されていた第10師団の車両よりもやや多く、もっとも輸送艦のように74式戦車を搭載しているところはみることができなかったのですが、輸送能力には驚かされました。湾岸戦争の兵力展開の際に日本政府へこの種の船舶の提供をアメリカ政府が強く認めたのも頷けました。

Img_2535  しかし、上陸第一波は、輸送艦でなければ無理でしょう。というのも、RORO船は港湾設備でなければ接岸できないので、LCACから揚陸させるわけには行かないのです。例えば、第二次大戦のノルマンディー上陸でも、港湾設備のない海岸にマールベリーという移動式の埠頭設備を展開させて通常のリバティー船から装備を揚陸させていたのですが、荷揚げ設備や支援設備が欠如していて効率が悪かったことから、要港シェルブールの制圧を急いだわけです。

Img_0188  つまり、輸送艦から港湾設備以外に揚陸して一定の部隊を展開、その部隊が港湾設備を制圧して、その港湾設備からRORO船を含む船舶での揚陸を行う、という方式が考えられるわけです。ちなみに、輸送艦が展開する海岸線付近は、空中機動部隊か空挺部隊が制圧して、その支援下での揚陸、というのが理想なのですが、ね。まあ、ガダルカナルの強行輸送のように、貨物船をそのまま海岸線に乗り上げて、ということも無いとは言い切れないのですが、基本は民間船が先頭を切って護衛艦とともに突入、というのではなく、輸送艦が第一波、第二波が民間輸送船で港湾設備から、というのがあり方でしょう。

Img_0122  さて、輸送艦で部隊を輸送するのですけれども、これをどうやるか。有事の際にさあ、輸送艦に乗艦だ!、と意気込んでも九州南部や沖縄近海に輸送艦が展開しているとは限りません、母港は広島の呉基地ですし、輸送訓練や防災訓練や友愛ボートなどで便利に活躍していますので、即座に乗れるとは限らないわけです。九州や沖縄で輸送艦を待つよりは、ヘリコプターや輸送機で出来る限り何度に分けてでも輸送した方が早そうです。

Img_3558  そこで輸送艦に訓練目的で移動する部隊を常時配置する、という案です。普通科中隊は全国に150はありますので、常時一個中隊、というのならば、港まで輸送する師団後方支援連隊や方面後方支援隊にはもの凄い負担がかかるのは分かるのですが、それでも何とかならないでしょうか。

Img_1585  北海道沖でも小笠原諸島付近でも新潟沖でもどこでもいいのですが、揚陸中か乗艦中か、それとも洋上を移動中か、とにかく一個中隊がそのまま洋上にいて、訓練に向かう態勢、しかし、待機中に有事、西方有事でも北方有事でも中央構造線地震でもいいのですが、何かあれば22ノットで現地に駆けつける、という事です。

Img_9011  普通科中隊は、旅団普通科中隊と師団普通科中隊とでは小隊の数も定員も違いますので規模は言い切れないのですけれども、師団の普通科中隊には軽装甲機動車か高機動車が配備されていて、対戦車小隊には87式対戦車誘導弾が、迫撃砲小隊には81mm迫撃砲が配備されていて、ここに戦車一個小隊で74式か90式、近い将来には10式戦車を4両搭載、特科中隊か戦砲隊を配置するとして2~4門のFH70榴弾砲、中隊本部には携帯SAMが配備されていますし、なかなかの規模といえるのではないでしょうか。

Img_6563  臨時編成の中隊任務群、初動では大きな威力を発揮しますし、そういう部隊が駆けつけられる態勢を整えていればもの凄い抑止力にもなるでしょうね。特定の、例えば第8師団や第15旅団を海兵隊のような運用に限定してしまうと、輸送艦に乗るまでが、まず輸送艦の回航を待たなくてはなりませんし、駐屯地から港湾設備まで近いとも限りません。戦車なんかは内陸にいますので、展開までに時間がかかりそうですね。一方、常時部隊が、それこそ東北の部隊でも北陸の部隊でも九州の部隊でも乗り組んでいれば、そのまま緊急事態の第一線に駆けつけられます。

Img_6015  想定はこういうところでしょうか、いざ鎌倉、鎌倉でなくともいいのですが、護衛艦とともに中隊任務群が駆けつけると同時に、担当管区の師団/旅団は出来うる限りの方面航空隊の支援を受けて空中機動の準備を行います。方面航空隊の全力支援を受けられれば、徒歩一個中隊、輸送ヘリコプターがあれば機数×2の高機動車か軽装甲機動車、もしくは120mm重迫撃砲を輸送できますので、対戦車ヘリコプターか戦闘ヘリコプターの支援を受けつつ当該地域か当該地域近傍に展開、輸送艦の到着まで力の限り抵抗します。

Img_9742  第1空挺団や中央即応集団も順次空路で展開して、揚陸できる態勢を構築、そこに戦車を先頭に中隊任務群が揚陸するわけです。22ノットで24時間の移動距離は1000km弱、突発的状況でもなんとか間に合うでしょう、間に合わない場合は次の洋上待機に備え陸上にある別の中隊任務群が別の輸送艦に乗り込んでもいいのですが。中隊任務群が戦車を中心に港湾設備の確保をめざし、その後にRORO船から管区の師団/旅団の本隊が展開、離島から敵を掃討します。

Img_9096  輸送艦の訓練とは別に、陸上自衛隊の輸送という洋上待機を行い、その上で災害派遣対処訓練や友愛ボート任務に備えるのですから、現在の3隻では足りません。インド洋給油支援の補給艦ローテーションを考えると、距離はインド洋よりも日本近海ですから近いものの、別の任務も大きいですから補給艦の5隻、という規模での苦労を考えれば最低6隻、可能ならば8隻の、おおすみ型輸送艦が必要になります。

Img_6959  ひゅうが型や22DDHでは、LCACを運用出来ないので代わることは出来ませんし、大型輸送艦でも一隻で同時に多方面へ展開することは出来ませんから駄目です、地方隊が運用する、ゆら型や輸送艇1号型も任務は軽輸送で戦車を輸送できないので対応できません。すると、おおすみ型と同等の輸送能力を持つ新輸送艦5隻が必要になるので、これは少々予算的に厳しい負担です。

Img_0025_1  しかし、基準排水量16500トン、満載排水量21500トンのフランス強襲揚陸艦ミストラルは、クルーズ船構造を利用したことで、NH90ヘリコプター8機、装甲車両50両、兵員450名とLCAC2隻を搭載できる能力があって2隻で建造費は9億1400万ドル、商船構造を利用すれば、ダメージコントロールなどで不安は残りますが思ったよりも安価に建造できたりするのです。やってみる価値はあるのではないか、と思ったのですがどうでしょうか。

HARUNA

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