北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

島嶼部防衛:提案した輸送艦の普通科部隊洋上待機構想の補足

2010-09-08 23:50:55 | 防衛・安全保障

◆尖閣諸島での緊張状態を背景に

 尖閣諸島の事案、拡大する様子は幸い無いようです、現段階は、ですが。さて、先日掲載した一個普通科中隊の洋上待機構想ですが、考えてみればかなり大きな問題点がありました。

Img_6949  一個中隊、ということで洋上に常に海上自衛隊の輸送艦で展開出来る部隊を確保して、普段は遠隔地の演習場を利用する訓練に向かう途上で、少なくとも一個普通科中隊と少々が洋上に展開、としたのですが、難しい事は確かなのですよね。なによりも現行の編成はこういう待機を想定していない。しかし、島嶼部防衛という任務は存在するのでして、なんとかならないか、というお話。

Img_9269 戦車小隊と特科戦砲隊、戦車小隊と少数の支援部隊を以て即応部隊を編成して、転地訓練の移動という形で実質的な洋上待機を行う、という案なのですが、普通科部隊の能力に差異があるのです。例えば、74式戦車と軽装甲機動車か高機動車、FH-70榴弾砲により構成される部隊もあるのですが、違う事もあります。

Img_2884 待機部隊が第11普通科連隊なんかで編成されていれば、即応の際に相手は、輸送艦から降りてくるのは89式装甲戦闘車や90式戦車、99式自走榴弾砲、ということで相手はびっくりするでしょうね。まあ、個人的に89式装甲戦闘車かそれに相当する装軌式装甲車は普通科第五中隊を中心にもっと配備されるべきと思うのですが、これは後々。

Img_0669  実行可能か、という事なのですが、補足すると理想的な状況は“協同転地演習を恒常的に実施している状態”です。例えば、協同転地演習ということで一個師団がカーフェリーやRoRo船、輸送艦や輸送機、ヘリコプターで移動しようとしているときに「有事だ!」となれば、そのまま展開できるのです。もっともこの場合は鉄道貨物輸送の部隊はそうはいかないでしょうけれどもね。

Img_8353 しかし、師団規模の協同転地演習、ざっと40日程度を要するのですが、一年中行うと14個師団/旅団が必要になり、一巡してしまいます。これはこれで練度向上になりそうですけれども、実際にはそこまで訓練を行ってしまっても、師団訓練検閲を始め、独自の訓練がありますので難しい訳です。。

Img_9197 陸上自衛隊の任務は地上戦に打ち勝つ事であって、遠くへ機動するのは主任務ではなく手段である訳ですから、手段と目的の履き違えには注意が必要でしょう。そこで、中隊規模の協同転地演習を持続的に行って、常に洋上をどこかの部隊が移動している、という体制の構築を以て目的を達することは出来ないだろうか、ということです。

Img_0728  そこで、提示したモデルを、たとえで出してみます。今ざっと思いついたままに書いたので単純ミスもあると思います、お気づきの方はご指摘いただければありがたいです。洋上の移動を72時間として実質三日間で例えば大阪港から輸送艦おおすみ、で室蘭へ北海道の演習場に信太山第37連隊の中隊を移動。到着後第37連隊の部隊が降りると真駒内の第18連隊の中隊が入れ替わりで乗艦、入港時間は24時間で室蘭から舞鶴基地へ72時間かけ移動して第18連隊は饗庭野演習場で近接戦闘訓練を実施、これで一週間です。

Img_7915 舞鶴基地で米子の第8連隊の中隊を乗艦させて72時間かけて宮崎港へ移動して日出生台演習場でゲリラコマンドー対処訓練、入れ替わって国分駐屯地の第42連隊を乗せて72時間かけて仙台港に入港して王子原演習場での野戦訓練を実施、入れ替わるのが多賀城駐屯地の第22普通科連隊で72時間もかからないと思うのだけれども津軽海峡経由で小樽港に入港、ここで第22連隊と交代に北海道で二週間の訓練を行った第37普通科連隊が乗艦して、72時間をかけて名古屋港に。

Img_2474  ・・・、というかたちでしょうか。・・・、これで足してみると24日。土日を挟んでみれば、なんとか一ヶ月。移動は37連隊,18連隊、8連隊、42連隊、22連隊・・・。各一個中隊として、ざっと一個連隊に匹敵する数。・・・、すなわち、四か月で一個師団に匹敵する数が移動する訳ですね。協同転地演習は、北海道に向かう演習と北海道から展開する演習とぜざっと三か月と見積もって、この間訓練は洋上待機を行わなくていい、ということで・・・、それでも厳しい。戦車が不足する師団の場合には一個小隊ではなく2両で臨時部隊を編成しなくてはならないかも。

Img_0888   さて、やはり能力的に無理なのでは、というコメントを多数いただきました。洋上待機、となれば中隊規模とは言っても負担は少なくない事も事実です。選択肢としては、もちろん、中隊待機の態勢が確立するまでは、という暫定的な手段としてなのですが、米軍が紛争地近傍に事前配備船として旅団規模の装備を備蓄している方式があり、有事の際には事前配備船が紛争地に直行、兵員のみ輸送機やチャーター機で迅速に展開すれば装備と人員の合流で即座に完全武装の部隊を展開できる、という米軍の方法です。

Img_7168 しかし、現用部隊の装備更新さえ四苦八苦している状況では現実的ではないのですけれども、他方で、中隊規模であるならば、なんとかなるかも、と思ったりもしました。海上自衛隊としては、輸送艦に常時陸上自衛隊の車両が乗っていると邪魔でしょうが無いかもしれませんが、一方で予備自衛官の教育訓練を洋上で行うなどすれば、船上学校ではありませんけれども、バッテリーが上がったり、動かなくなることはないでしょう。

Img_3975 もっとも、整備訓練以外は船上では実施できないのですが・・・。しかし、予備自衛官は駐屯地警備隊や弾庫整備中隊に配属される、ということですし、何とかなるかもしれません。難しそうですが・・・、何分、難しい島嶼部防衛という任務を行おうとしているのですから、無理の中から難易度の低い無理を探して実行する、ということしか出来ないのですけれども…。

HARUNA

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コメント (16)
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