◆見通し立たない状況下
九月最初の記事ですが、防衛予算概算要求について、本日は見通し、という点に注視して考えてみたいと思います。
自衛隊の任務は世界中で継続、陸上自衛隊のパキスタンでの活動が開始され、国土の1/5が水没という未曽有の大災害に見舞われた災厄に国際社会が一致して立ち向かう、という姿勢を示しました。海賊対処任務では累積1178隻を護衛、航空哨戒も294回を数える事となりました。
こうしたなかで、国内の政治情勢の不透明さが予算面に暗い影を落としています。民主党総裁選が公示され、小沢前幹事長と菅首相が総裁の座を争う形となっています。税収と国債新規発行分を合わせても20兆円ほど不足するという来年度予算の枠を菅首相は提示したのですが、無駄を削減してこういう状況ですので、概算要求はどうなるのでしょうか。
また、政権公約としてマニフェスト完遂を目指す小沢前幹事長が総裁となれば、子供手当や高速道路無料化、農家個別所得保障に高校授業料無償化を実現するその財源はどうなるのか、未知数です。場合によっては鳩山内閣が成立した際のように再提出を命じられる可能性もあり、概算要求というものはどうなるのか、現時点から不安です。
付け加えれば、政権交代を契機として昨年は中期防衛力整備計画の確定と、防衛大綱改訂が中断され、いわば長期計画と中期計画を明示しないまま、そこれそ当たり障りのない装備計画を現行の防衛大綱に基づいて実施している、という状況で、ここまで視程不良が続くのはこれは異例です。
現在の防衛大綱は、弾道ミサイル防衛の重要性に鑑み、陸海空の重装備について、その数を下方修正して費用を捻出することが主眼となった構成となっており、中国海軍の規模拡大と行動活性化、そしてロシア軍の極東地域における戦力向上は想定されていないという内容になっています。
弾道ミサイルによる日本本土への脅威は依然として無視できない状況ではありますが、日本本土への脅威に備える一手段として弾道ミサイル防衛を提示しているのですから、脅威が高まる本土直接武力侵攻という事案や島嶼部への脅威という事案も存在する以上、防衛大綱に明示して基盤を構築する必要がある訳です。
中期防衛力整備計画の未定下での二年連続の概算要求提出も前代未聞です。今回出された防衛予算概算要求では、既に数年前から実績を積んできた多年度分の一括取得による取得費用節約、という方策が用いられているのですけれども、先の数年分を一括発注するこの方式は中期防衛力整備計画が間もなく切り替えられる、という状況下で、少し説得力が無いようにも思えます。
そもそも、どういう脅威が我が国や国民に迫っており、この脅威から社会の安定と秩序を維持することで国民福祉を実現する、ということが防衛政策の最大の目的なのですが、シビリアンコントロールを徹底するわが国において、この政策を画定するのは政治の責務です。
今回の予算は、このように、内閣がどうなるのか未知数、防衛大綱に盛り込まれる自衛隊の任務の範囲が未知数、中期防衛力整備計画が定められていないためどの程度の防衛力を来年度整備すればいいのかが未知数、と未知数尽くしの概算要求となっています。そして防衛のみならず、わが国がどのような来年度を迎えられるかも、未知数である、という現状の延長線上にあるようにも思えてきます次第です。
HARUNA
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