◆即戦力で低取得費用、しかし幾つか気になる点も
海上自衛隊が現有のYS-11輸送機の後継としてC-130の導入を行う方向で決定したようです。稀有な事例ですが中古の機体を一括取得する模様。
中古のC130輸送機、海自配備へ…輸送力増強・・・防衛省は5日、海上自衛隊のYS11輸送機3機の後継として、米軍から中古のC130輸送機6機を購入する方針を固めた。 YS11は老朽化しているほか、機体が小さいことなどから、東日本大震災では大量輸送や被災した空港への離着陸に適さないことが判明。
大型のC130で輸送力を増強することにした。同省は2011年度第3次補正予算案に購入費など約120億円を計上する予定だ。 海自は戦後初の国産旅客機であるYS11を1960年代後半から4機導入。YS11の国内生産はすでに終了しており、現在は3機態勢で神奈川県の厚木航空基地に配備されている。
ただ、YS11の搭載量は数トンで大量輸送に不向きとされ、航続距離も約2800キロと短い。これに対し、C130は最大で約20トン搭載でき、航続距離も約4000キロと長い。C130は空自も15機保有している。(2011年9月6日15時35分 読売新聞)http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20110905-OYT1T01172.htm
海上自衛隊は現在も東アフリカ沖アデン湾における海賊対処任務へP-3C哨戒機をジブチ共和国に派遣し警戒任務を継続しているのに加え、今年度よりジブチへ海上自衛隊の恒久的航空施設が完成し運用開始、その任務範囲は日本周辺を超えて広がっています。
次期哨戒機としてP-1の開発が進められており、開発期間は延長するという報道があったばかりですが、並行して日本周辺地域における外国艦船行動活性化や潜水艦脅威の増大などの実情があり、固定翼哨戒機部隊への機体と任務は重くなるばかりであるのに加え、その後方支援体制も充実を求められることとなるでしょう。
いっそ拡大する任務に対応するために自衛隊に無い大型の戦域間輸送機でも、と思いきや六機分で中古であることから心臓大型輸送機の五分の一の価格で取得できることになります。ここで一つ気になるのは、中古機の取得という点です。事実上の中古機だったという事例はあるのですけれども、部隊規模で多数を中古として取得するのは草創期を除けば今回が初めてではないでしょうか。
過去には、政府専用機補助用にボーイング767を中古で取得しようとした動きもありましたが実現しませんでした。中古機ですが、その構造疲労度合や一括取得となれば維持部品取得や整備費用の問題が出てきます。構造調査も行うでしょうし、機体は航空自衛隊でも運用、エンジンは海上自衛隊が多数運用するP-3Cと同じアリソンT-56系統ですから、大丈夫とは思うのですが気にはなりますね。
最も気になるのは、中古機の取得費用が低い、ということだけが注目され、海上自衛隊が運用する既存のP-3C哨戒機を原型とした電子偵察機などの航空機後継にP-1哨戒機派生型が開発されるのではなく、中古のC-130や場合によっては別の小型旅客機などが当てられ、P-1の生産数が低下し単価が増大するとともに、機種数増大が整備費用高騰と運用体系複雑化を招いてしまうのではないか、ということ。
これは航空自衛隊のYS-11派生機などで、後継機にC-2派生型が充てられる、と考えられている機種についても、中古C-130は新造C-2の五分の一程度の取得費用ですので、もちろん運用できる期間は違いますが、運用時間と勘案し大きな論点となることも予想され、結果C-2の生産数に響けば、単価に影響するでしょう。
もっとも、C-130ですから掃海ヘリコプターの海外派遣に対しての空中給油支援などに充てられる、部隊能力強化の可能性にも繋がりますし、話は少々飛びますが中古機導入という実例は、構造疲労や運用費用というような上記問題点を克服すれば新しい視座を開くこともできるかもしれません。
例えば陸上自衛隊のAH-1S対戦車ヘリコプター後継に費用を抑え中古のAH-64Aを模索し富士重工でD型に改修するという選択肢も出てくるでしょうし、もっとも富士重工にリスク丸投げでライセンス生産の設備を整備させて取得を突如中断させた防衛省がそういうことができるのかと問われれば、土下座しかないのではと思うのですけれども。
このほか松島基地で水没し修理費用が天文学的になりいろいろ言われているけれどもF-2Bの補完にF-16Dを中古で取得という可能性も出てくるわけです。同時にF-4EJ後継機も中古F-16Cで、といわれたらば涙を流す人も出てくるかもしれないのですが、後継機取得がひっ迫していても時間を稼がなければならない機体、救難ヘリコプターや輸送機などへ可能性は広がります。
個人的には、C-2輸送機かC-767を、長く使うのですし考えても、と思っていたのですがしかしYS-11の老朽化は相当深刻、ということも確かですから一括取得でいるのであれば、C-130,という選択肢もあり得るのでしょうかね、と思っています。少なくとも任務範囲増大からしてC-130が過大、ということだけはありませんからね。こちらは問題だと思うのですが、航空自衛隊の輸送能力にも余裕はないようですし。
しかし、海上自衛隊塗装のC-130ですか、厚木航空基地に配備するのでしょうが、第五空母航空団の岩国移転で空きが出るとはいえYS-11産機の後継にC-130六機、どういう機体になるのでしょうかね。また、海上自衛隊は掃海輸送ヘリコプターや練習ヘリコプターへの欧州機導入など、思い切ったことをやる組織だなあ、と。これで失敗していないのですからその決断力と同時に慎重さは凄いですね。
北大路機関:はるな
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