◆次の大災害に備え定数確保は政治の責任
東日本大震災に際し、自衛隊は即座に情報収集を行いその初動の立ち上がりの早さは、日本の軍事組織の即応性の高さを世界に誇示しました。
しかし、自衛隊による大津波が仙台市沿岸部へ殺到する映像、気仙沼市の夜間大火災の様子を記録したうえで、続く被災地への物資輸送の限界などによる衰弱死や餓死といった災害関連死の情報に接するとともに、被災地が広かったとはいえ、何とかもっと多くの物資を輸送することはできなかったのか、ということは誰もが感じることではなかったでしょうか。もっとヘリコプターがあれば、と震災発災当初にも当方は記載しています。
こうした中で、航空ファン誌に東北方面航空隊長のインタヴュー記事が掲載され、如何に厳しい状況下にあっても個々の隊員の機転と努力、上級指揮官と現場指揮官の阿吽の呼吸が困難に立ち向かう最大の武器となった、ということを記しつつ、同時に発災時の多用途ヘリコプター定数が8機であった、という一文が挙げられていました。そういえば、一年ほど前にJウイング誌の第14飛行隊創設を報じる記事に、定数はUH-1が2機とOH-6が2機、という掲載がありました、同じ飛行隊でも随分少ない印象でしたね。
東日本大震災の記事を見ますと定数から、UH-1多用途ヘリコプター8機でよくぞ、と健闘に驚かれる方もいるかもしれませんが、しかし方面航空隊の方面ヘリコプター隊は、確か定数が20機であったはずです。一個中隊を同時空中起動させる、ということで方面ヘリコプター隊の定数は整備され、かなり早い時期に20機体制が北部、東北、東部、中部、西部各方面隊に達成され、一部には増強の輸送ヘリコプターも配備されていたはずです。阪神大震災以降、同時にゲリラコマンドー対処など空中動力の増強が求められる状況だったにもかかわらず、しかも機動力と普通科部隊の増強を掲げて戦車や火砲定数縮減を行ったにもかかわらず、これが解せません。
20機の定数はいつの間に削減されてしまったのか、半分以下というのはあまりに、と思われるでしょう、当方も思いましたが、恐らく背景は1990年代以降の師団飛行隊への多用途ヘリコプター配備があるのだと考えます。そういえば、前述の第14飛行隊創設に際し、八尾駐屯地祭で中部方面航空隊の隊員さんがパッチを販売していまして、不思議に思って尋ねてみましたら、中部方面航空隊の機体を抽出して編成するということを教えてもらいました。方面ヘリコプター隊に多用途ヘリコプターが配備され、師団飛行隊には特科部隊の野砲着弾観測と連絡任務を行う観測ヘリコプターのみが配備されていた時代が長かったのですが、これが1990年代に改められ、この影響があったのでしょう。
空中機動能力を強化するために師団飛行隊への多用途ヘリコプター配備を行う、と防衛予算概算要求における師団近代化には明示されていたのですけれども、実質、ヘリコプターの必要定数が増加していたにもかかわらずヘリコプターの調達数は増加するには至らず、逆にヘリコプターの高性能化により価格が上昇したこともあり調達数は削減傾向にありました。部隊数が増えたにもかかわらず機数は縮小傾向だったことになります。結果、人命が時間次第で本当に左右されるという状況下にあって、機体が定数割れしているという状況に陥ってしまったのです。政治家が防衛費を削りすぎて、人命が凍砂われてしまったのです。
現在進行中の台風12号災害派遣に際しても、防衛省発表をみますとヘリコプター部隊だけで中部方面航空隊、第3飛行隊、第10飛行隊、第14飛行隊、航空学校教育支援飛行隊が派遣されているのですが、第3飛行隊と第10飛行隊、第14飛行隊、ここの多用途ヘリコプターは、中部方面航空隊方面ヘリコプター隊から多用途ヘリコプターが抽出されたため、八尾駐屯地や明野駐屯地に加え、四国の北徳島駐屯地を含め動員する必要があったのではないでしょうか。空中機動能力の増強が目的なのです、部隊を増強したのにヘリコプターの数が増えない、薄く広く配備することは即応性に寄与することもあるのでしょうけれども、通常はヘリコプターを増やす、ということが増強することになるのではないでしょうか、そう考えます。
OH-1観測ヘリコプター、非常に高性能で必要に応じてデータリンク機材を追加装備する研究もおこなわれていて予算次第で更に高い能力を発揮できる機体なのですけれども、調達価格が非常に高い機体ということで、当初は240機を配備するという壮大な計画もあったのですけれども実際には30機前後という調達状況です。しかし、運用が続けられているOH-6観測ヘリコプターの耐用年数は動かせませんので、180~200機程度が同時に運用されていたOH-6は、置き換えるOH-1の不足により、陸上自衛隊全体として観測ヘリコプターは不足傾向になっていることも忘れてはなりません。
観測ヘリコプターは、OH-6の時代では軽輸送任務に対応できるのですから元々師団飛行隊には10機が定数になっていたのですが、これが輸送能力を持たないOH-1に置き換えられることで軽輸送能力が付与されるのですけれども、その分空対空戦闘能力を有しており自衛能力があり、加えて統合監視機材の搭載、続いてデータリンクを付与させることになりますから師団の情報優位を確立するうえで重要な機体であるのですが、師団飛行隊はもちろん、対戦車ヘリコプター隊のスカウトヘリ所要も置き換えられるかも未知数な状況といわざるを得ません。
AH-1S対戦車ヘリコプターにしても、90機以上が取得され、各方面隊に対戦車ヘリコプター、そして教育所要として5.5個飛行隊が配置されました。定数は16機。後継となるAH-64D戦闘ヘリコプター60機により代替されることになっていました、AH-64D戦闘ヘリコプターの定数は米軍で12機、英軍などでは8機編成での運用もおこなわれていると聞きますから、60機の定数でも何とかなることがわかるのですけれども、これも調達価格高騰により11機から13機程度で終了するといわれています。別の機種が充てられる、と考えられるのですが年数を考えますとAH-1Sの耐用年数限界に伴う用途廃止は始まっていますから、定数割れの可能性を忘れてはなりません。
そもそも、これは先ほども少し触れたのですが、部隊数が増強されたのならば機体が増強されなければならないわけで、方面ヘリコプター隊所要20機の五個方面隊分100機に加え、中央即応集団所要と空中機動旅団である第12ヘリコプター隊所要、そして師団と旅団の14個飛行隊所要に加え航空学校所要として多用途ヘリコプターだけで20機が必要になるわけです。すると耐用年数を20年と見積もった場合、毎年10機を調達しなければなりません。防災と防衛を考えるならば政治家はこれを政策として進めなければなりませんし、財政難下での防衛費確保についての財務省の反対は、これこそ防衛計画の大綱に明記し政治決定として進めるなど、防衛と防災へ政治が担わなければならない責務を放棄していたことはないのでしょうか。20機定数が8機、半数割れが国会議員定数だったら与党も野党も大騒ぎ知るのでしょうけれども、災害派遣と防衛の矢面に立つ自衛隊の、東日本大震災発災時でのヘリコプター定数半数割れは議題にもならない、お話になりません。
観測ヘリコプターは必要数が180~200機、多用途ヘリコプター200機、輸送ヘリコプター60機、戦闘ヘリコプター60機、陸上自衛隊の現在の部隊編成から最低限必要な機数はこの通りです。耐用年数を20年と見積もれば、観測ヘリコプター10機、多用途ヘリコプター10機、輸送ヘリコプター3機、戦闘ヘリコプター3機、ヘリコプターだけで毎年26機、中期防衛力整備計画で130機、これだけの調達がどう最低限でも必要です。空中機動能力自体、現状では不十分と考えますから、もっと必要と考えるのですが、少なくとも定数割れしない範囲内では、これだけの機数が揃えられなければならないのです。しかし、これを怠ったことで東日本大震災では助かる人命が失われた、政治の責任は問われなければなりません。
北大路機関:はるな
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