北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

ロシア海軍艦艇20隻が宗谷海峡通過、更に4隻の続航もあり防衛省は警戒!

2011-09-12 22:27:08 | 防衛・安全保障

◆24時間の行動規模としては極めて異例

 厚木基地へ向かう土曜日の早朝に突如報道されたロシア艦艇20隻の宗谷海峡通過ですが、規模はかなり大きいという印象でした。

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 海上自衛隊には、最新鋭護衛艦いせ始め多数の新しく訓練も行き届いた大型艦がありますので、20隻とは凄いと思いつつも、他方で、報道では大型艦があまり含まれていないな、と思いつつ報道引用を第二北大路機関へ速報した一方、本日艦型と数に関してその詳細が防衛省より正式に発表されましたのでこちらに掲載します。なお、宗谷海峡は国際海峡で、我が国領海への審判は発生しておりませんので、国際法上今のところ問題はありません。更に四隻の続航という報道もあり、こちらも詳細判明次第お伝えします。まずは以下に防衛省より引用。

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(お知らせ)23.9.10 統合幕僚監部:ロシア海軍艦艇の動向について・・・9月9日(金)午前1時頃から午前10時頃にかけて、海上自衛隊第2航空群所属「P-3C」(八戸)が、宗谷岬の西方約200kmの海域を東進するロシア海軍スラバ級ミサイル巡洋艦1隻、ソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦1隻、ウダロイⅠ級ミサイル駆逐艦2隻、
グリシャⅢ級小型フリゲート1隻、グリシャⅤ級小型フリゲート1隻、タランタルⅢ級ミサイル護衛哨戒艇6隻、ロプチャーⅠ級戦車揚陸艦1隻、ロプチャーⅡ級戦車揚陸艦1隻、アリゲーターⅣ級戦車揚陸艦1隻、ドゥブナ級補給艦1隻、エルブラス級潜水艦救難艦1隻、イングル級救難曳船1隻、カツンⅡ級救難艦1隻及びオビ級病院船1隻の合計20隻を確認した。その後、当該艦艇が、宗谷海峡を東航したことを確認したhttp://www.mod.go.jp/jso/Press/press2011/press_pdf/p20110910.pdf

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潜水艦は来ていないようだし、大型艦も決して多くはないな、というのが第一印象。冷静にこの規模を見てゆきますと、大型艦は決して多くないことに気づかされます。海上自衛隊のイージス艦より一回り大きく長射程超音速の強力な大型対艦ミサイルを搭載し16発同時射撃という航空母艦への攻撃を想定しているスラヴァ級ミサイル巡洋艦と、同じく対艦ミサイルを搭載しシチル艦隊防空システムを搭載する防空用ミサイル駆逐艦ソブレメンヌイ級の各一隻が強力です。そして比較的大きな大型対潜艦であるウダロイ級駆逐艦二隻の四隻でしょうか。駆逐艦とはいえ、満載排水量は8000㌧前後あり、海上自衛隊むらさめ型たかなみ型よりも大型、しらね型ヘリコプター搭載護衛艦よりもやや大きく有力な水上戦闘艦です。ただ、単に大型、という面もあり、水上戦闘艦は排水量だけでは決まりませんので、これら艦艇は護衛艦に対して古いこともあり、何とも言えないのではあるのですが、重要なのは他です。

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ロシア海軍は冷戦終結後、その艦隊維持費を捻出できないことから急速に弱体化していまして、グリシャ級はソ連海軍時代は警備艦と呼称されていた小型艦で対戦ロケットを搭載していたことから小型対潜艦としても呼称されていました。大きさとしては退役した護衛艦いしかり型よりも小さく、現在最少の護衛艦あぶくま型の半分以下の大きさ、護衛艦隊の護衛艦の五分の一くらいです。次にタランタル級ですが、ミサイル護衛哨戒艇と表現されているのですけれどもこれはやや大型のミサイル艇です。ソブレメンヌイ級と同型の対艦ミサイルを運用できますので沿岸部では侮りがたいのですが、ミサイルが大型ですので大きさも海上自衛隊のミサイル艇の倍以上あり、掃海艇と同じ大きさです。ミサイル艇は小型であるのが望ましいのですが、大型化したぶん、まあ哨戒艇としての能力もある、というところでしょうか、これが六隻です。

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ロプチャー級戦車揚陸艦ですが、これは海上自衛隊がかつて運用していた輸送艦みうら型に相当する艦で、満載排水量4400㌧、艦首部分に観音開き式扉を配置、兵員190名と戦車10両を輸送可能です。アリゲーター級も満載排水量4700㌧、ただ、ロプチャー級が76㍉法などを搭載し火力支援を志向しているのに対し輸送能力のみを特に重視しているため武装を機関砲などに留めていることもあって兵員300名と戦車20両を輸送可能となっています。

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このほかは艦隊支援艦ですので、規模としては先日実施された海上自衛隊舞鶴展示訓練、これよりも、部分的に掃海艇にかえてミサイル艇を大きくして、輸送艦を足した程度なのかな、という規模です、海上自衛隊演習よりは大分小規模。こう考えると、隻数は多いものの、ということは出来るかもしれません。昨年度実施され、スラヴァ級ミサイル巡洋艦に加えキーロフ級原子力ミサイル巡洋艦が参加したヴォストーク2010演習のほうが大規模でした。もっとも、ヴォストーク2010演習は冷戦終結後最大の演習であると同時に、事前に実施が通知されていましたので、これとは対照的だ、ということもできるのではあるのですが。

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 他方、海上自衛隊は東日本大震災への史上最大規模の災害派遣から艦艇部隊のローテーションに変化が生じており、定期整備や訓練計画により多少の変化が生じています。抑止力の低下、という状況に転換していないか、または訓練計画の偏りということがこの地域の軍事情勢に何らかの影響を、ということはないのか、特に前者の点については警戒を要するといえるでしょう。そうすると、隻数をそろえての演習は、急遽計画された演習、と考えることもできるのではないでしょうか。もちろん、前々から計画されていた、例えば多数のミサイル艇部隊と大型部隊の協同、もしくは対抗演習である可能性もあるのですけれども、この点で警戒監視の重要性が出てくるわけではあるのですが。

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さて先ほど、潜水艦が含まれていない、と記載しましたが潜水艦は潜航していればわからないんど絵はないか、宗谷海峡は国際海峡であって浮上航行が義務付けられていても潜航して突破している事例があるのではないか、という声もあるかもしれませんが、海底マイクロフォンとして音響を感知し行動を監視するシステムが構築されており、特にその真上を航行するのですから如何に音響ステルス性が優れていたとしても探知されずに航行することは不可能、この点から潜水艦は現時点では確認していないという情報は正しいということが言えます。過去には戦略ミサイル原潜の航行も宗谷海峡では幾度も確認されていますので、その点からも違いが判るでしょう。

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このように、規模としては隻数が大きいものの大きさでは昨年のヴォストーク2010と比較し大きいものではない、ということができるものの、事前通知がなかったという点で特色があり、海上自衛隊の演習などは特に実弾射撃を行う場合には事前に通知していますので、この点が違います。どういった目的での演習であるのか、その演習内容については脅威がわき、公表されるかは別として恐らく自衛隊による監視は行われていると考えます。

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今回の演習はそういう意味で軍事的よりも政治的な意味合いでの注目すべきところがあるのは上記のとおりなのですけれども、近くロシア太平洋艦隊にはフランスより満載排水量21600㌧の強襲揚陸艦ミストラル級二隻が配備されると発表されており、北海道近海での大型強襲揚陸艦の行動が常態化するのは遠い話ではないでしょう、加えて中国海軍の航空母艦運用開始、という時期も決して遠くはないでしょうから、ヘリコプター搭載護衛艦の充実など海上自衛隊による警戒体制の在り方、護衛艦定数や航空機定数はしっかりと実行と強化してゆく必要が、年々強まっていくことだけは確かだといえないでしょうか。

北大路機関:はるな

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コメント (8)
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