◆イージス艦情報漏えい事件以来の大事件、F-X選定への影響は必至
三菱重工の研究開発部門を含むサーバーがサイバー攻撃を受け、防衛技術情報を含め漏えいした可能性があると報道がありました。2007年のイージス艦情報漏えい事件以来の重大事案で、F-X次期戦闘機選定を含め今後の防衛装備品ライセンス生産にも影響が及ぶ大事件の発生です。
三菱重にサイバー攻撃、80台感染…防衛関連も ・・・ 日本を代表する総合機械メーカー「三菱重工業」(東京都)が第三者からサイバー攻撃を受け、最新鋭の潜水艦やミサイル、原子力プラントを製造している工場などで、少なくとも約80台のサーバーやパソコンがコンピューターウイルスに感染していたことが18日、関係者の証言で明らかになった。
外部からサーバーなどに侵入され、情報を抜き取られていた痕跡も見つかり、同社は標的型攻撃によるスパイ行為の可能性が高いとして警察当局に届け出た。日本の防衛産業を狙ったサイバー攻撃の一端が明らかになるのは初めて。
関係者によると、これまでに感染が確認されたのは、「神戸造船所」(神戸市)、「長崎造船所」(長崎市)、「名古屋誘導推進システム製作所」(愛知県小牧市)などの製造・研究拠点8か所に、本社を加えた計9か所の約80台のサーバーなど。 (2011年9月19日03時15分 読売新聞)
ttp://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110918-OYT1T00734.htm
非常に大きな問題です。安易な情報流出という意味ではSONYの史上最大の個人情報漏えいのほうが規模としては目を引きますが、事が防衛産業だけに恐らく東日本大震災発災後の安全保障にかかわる事件としては最大のものでしょう。航空管制官による米政府専用機情報漏えい事件もありましたが、波及する脅威としては比較になりません。情報流出としては2007年のイージス艦情報漏えい事件以来最大の不祥事です。三菱重工は日本の防衛産業としては最大手の存在であり、特に装備品開発では長い歴史とともに培われた技術陣と、装備開発費において国が負担するはずである基礎研究部分を防衛庁時代から負担することなくいわば自腹という形で担当していることから必然的に三菱重工でなければ日本国内で開発することができない分野、外国製装備の場合においてもライセンス生産には三菱重工で無ければ難しい分野、というところが存在します。加えて、日本の防衛費の水準からは高い水準の防衛力を維持することができているのは自衛隊の優秀な隊員とともに、場合によっては採算度外視で維持費や生産ライン整備に努力している防衛産業の存在も非常に大きいのでして、いわば国が負担を嫌い私企業に依存する体質を恒常化させてしまったわけですね。
今回の不正アクセスはPC本体に関するものではなく、サーバーが被害にあっており、加えて研究拠点という重要な個所が被害にあっている点が大きな問題です。もとろん、防衛産業以外の分野での被害も重大であることは間違いないことですが、事にミサイルや潜水艦、戦車、戦闘機といったデータにかかわる問題は一企業の問題を超えて国家の安全保障に直接かかわる問題でありますし、三菱重工からの基礎研究分野などでの負担はあったにせよ、装備品開発には税金が投じられていることは事実です。加えて、潜水艦などは基本的に艦内では一般の写真撮影はもちろん、見学さえも非常に制限される分野です。新型の戦車や戦闘機、国産の高性能な各種誘導弾など、技術情報がどの程度漏えいしたのか、特に誘導弾については回避などの情報を得る上で重要な情報が多すぎ、この対策を講じるだけでも正面装備にいったいどれだけの追加が必要なのか、考えるだけで直接の利害関係がない当方でも眩暈がします。
情報管理は企業の存続にかかわる問題、ということはSONYの個人情報漏えい事案で繰り返し提示されていた表現ですけれども、防衛分野の情報流出は、再発防止措置の検討も抜本的に行う必要があるでしょう。とはいえ、私企業である三菱重工のデータ安全管理について国、特に防衛省が直接サイバーテロ対処部隊を創設して専従で対策を行う、ということは現行法上で問題がありそうですし、一方で公務員守秘義務などはやはり私企業である以上適用はできません。しかし、防衛にかかわる重大な情報さえも管理できないとあっては、日本の防衛を根本的に左右する重大な事案となってしまいますので、異本企業の情報に関するモラルが問われる、なんていうお座なりの言葉でに以後すことは絶対に避け、私人の財産権にも踏み込みうる法整備を含め、何らかの措置が必要です、何とかせねばなりません。
一番影響があると考えるのはF-35の関係でしょうか。国家規模の問題、といいますと三菱重工は戦闘機生産を実施している防衛産業ですから、現在懸案となっている次期戦闘機選定において、日本側は国内での戦闘機運用基盤を維持する観点からライセンス生産を強く希望しています。最有力はステルス性能を有するF-35で、この開発遅延が実質的に選定の長期化に繋がっています。F-15をライセンス生産し、F-2を共同開発した三菱重工でなければライセンス生産は考えられず、防衛航空産業を担う川崎重工や富士重工、新明和工業では戦闘機のライセンス生産は相当な投資を行わなければ現状では不可能でしょう。最終組み立てのみであればF-35であっても日本で行うことは可能、という一部報道がありましたが、影響は必至でしょう。どのデータが流出したのかはこの際問題ではありません、可能性を放置していたことが問題なのです。思えば海上自衛隊におけるイージス艦情報漏えい事件が次期戦闘機選定の最有力候補であったF-22導入に重大な影響を及ぼしていましたので、国が現状では関与できない分野でも情報管理を行う場合には関与する枠組みが必要です。この点、自衛隊における情報保全の取り組みはここ数年間で特筆すべき全身があったのですが、今後は今回の経験の反映を強く望みます。現時点で失ったものは大きすぎますが、せめて将来に反映させねばなりません。
北大路機関:はるな
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