北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

安保法制への最大の誤解、徴兵制(第6回):第一線戦闘の多様化と歩兵戦闘の専門化

2015-08-26 21:56:21 | 防衛・安全保障
■歩兵戦闘の専門化
前回までに、自衛隊体力検定の練成と個人装備の高度化から、短期間の徴兵は戦闘の役に立たない、と提示しました、それではこれらの部分はハイテクが、技術力により覆う事は出来るのでしょうか。

現在の陸上戦闘はハイテク化したので、これだけ体力は必要なのか、と思われる皆様、ご自分が旅行に行く際の鞄をどうぞ、昔は着換えと洗面道具だけで成り立つものがあったのでしょうが、タブレットPCにデジカメに充電器と携帯電話に無線ルーター、ハイテク化した分、求められるものが増え、重くなるのです。

どういうことか、技術の発展で昔は歩兵が殆ど想定外であった対戦車戦闘が対戦車火器を携行する事で可能となったので持っていくことが求められるようになりました。昔は戦車が来たらば対戦車部隊、基本は戦車部隊が対応していたのですが、技術が発達して歩兵に対応できるようになったので、任務に加わった、ということ。

もちろん、その昔も、歩兵陣地へ敵戦車が展開した場合は、我が国でも火炎瓶と地雷投擲で対戦車戦闘を展開してきました、が、これは防御戦闘、しかも他に選択肢を欠いての収斂として展開したもので、膨大な出血の代償を必要としていたものに他なりません。しかし、対戦車ミサイルの発展は、より主体的に対戦車戦闘を展開し得るようになり、次元が違います。

夜間戦闘は暗視装置の普及により必須のものとなり、普通科部隊は夜間戦闘と夜間射撃まで教育を行っています、暗視装置普及以前は制約された夜間戦闘ですが、無灯火車両機動を含め技術の発展で従来戦闘が起きにくかった状況が狭まり、元来避けられた地域の利用が戦闘を左右する事となるので、その分戦闘訓練の専門性が高まってゆく一例ですが。

加えて市街地戦闘と閉所戦闘と呼ばれる近接戦闘も、従来は特殊戦闘に含まれたものであっても、技術と装備の進化により通常の戦闘の一つとして求められるようになりました。市街地は兵力を吸い込む、というものが第二次大戦期から1980年代までの常識でした、これは建物一つ一つの収奪は膨大な兵力を要するため回避すべきとの理念でしたが。

市街地戦闘は、部隊間の通信確保や、近接戦闘の索敵のカメラや暗視装置等による自動化と高度化、近接照準器具の普及、こうした一連の技術革新により可能となり、他方、その分専門性も高まったのです。具体的には1対1で出会いがしらの戦闘が増え、その分、戦闘技術と応急救護の必要知識、命令系統から切り離される刹那の増大は判断を兵員個々人に求めることになる。

これは戦術にも大きな影響を及ぼしています、情報連携が基本となりますと、攻撃側が防御側の配置を情報共有する事で手薄な兵力配置等を突き、所謂勝ち目の追求が情報優位に左右される事となり、一挙に攻撃側が浸透し、敵の指揮中枢を破壊する事が可能となります、20年ほど前に情報RMAと表現された戦闘方法の普及、これも戦闘を専門化させました。

万遍なく兵力を配置してもすり抜けられ、この弱点を補うべく過度な密度で部隊を配置し浸透対策を行うと全戦火力の増大により簡単に大損害を被る、優位と不利の損耗格差は数百倍となってしまいます、第二次大戦の太平洋島嶼部戦でこの傾向は現出し始めていましたが、例えば湾岸戦争やイラク戦争の機動戦における彼我損耗格差はさらに開き、徴兵されたアマチュアに出る幕は第一線からは消えつつあります。

もちろん、長期間の訓練を積めば、例えば韓国軍の一年数か月、それ以上の期間を掛ければ一定の水準の兵員は養成できますが、そうする事ができ無いのは、日本の人口の多さで陸軍規模が際限なく大きくなり装備を揃えられなくなる、として既に説明しました。すると、志願制のほうがよい。

そして難しいのは車両化です。新隊員特技課程には車両操縦が含まれていませんが装甲車の運転には大型免許が必要となります。陸士特技課程は軽火器や迫撃砲、車両操縦が含まれるのですが、最初の半年間で修了するには戦車部隊等に限られ、普通科部隊で最初の半年後記教育に操縦、というものは出来ません。

北大路機関:はるな くらま
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コメント (2)
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