北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

富士総合火力演習二〇一五 統合機動防衛力と島嶼部防衛能力構築への一考察

2015-08-23 22:33:47 | 防衛・安全保障
■富士総合火力演習二〇一五を終えて
 富士総合火力演習を終えて、今年度は御縁あって予行を見ることが出来ました。

 我が国防衛への関心の高まりを受け、富士総合火力演習も広い関心をもって受け止められていまして、年々参加への一般公募倍率は高まり続けています。聞くところではもう少し広い来場者へ対応する形を模索しているようですが、今年は設営されなかったパネル橋の陸橋一つとっても既にこれ以上の容量を受け入れるだけの余地はありません。

 過去には北部方面隊や東北方面隊が総合戦闘力演習展示を行っており、中部方面隊でも一応の検討は行ったとのことですが、数万規模の来場者に対応し、かつ演習場内に区画を確保した上で会場を設営し、抽選と発送を担いつつ民間業者との調整を企画する、それも自衛隊の演習体系に両立させるというのは非常な難易度があるとのこと。

 本年の富士総合火力演習は74式戦車と10式戦車の履帯脱輪が発生し、装軌式車両の特性と火山性土壌の富士地区演習場特性を鑑みればある種致し方ないとはいえ、数年前に発生した斜面への砲身接触を原因とする砲身破裂事故以来の不具合であり、観衆眼前の脱輪は仕方ないとはいえ、残念でした。

 APFSDS弾の装弾筒跳飛事故の発生は、意外なものではありましたが幸い軽傷とのことで、曳光弾射撃を望見する際、発射方向への跳弾が稀有ながら目視できますので、そういう跳弾も発生するのかと考えさせられましたが、装弾筒の跳弾は起きるのか、と考えさせられます。

 さて、富士総合火力演習ですが、例年よりも若干日程が早く、これは他の教育訓練期間の短縮との話を聞きますので陸上自衛隊全般の教育訓練体系に無理が生じているのではないかと危惧するところです、特に教育訓練部隊からは年度末に創設される水陸機動団要員の一定数の原隊となるようで、その影響が多少あるのでしょうか。

 90式戦車と10式戦車の行進間射撃、当方がご縁ありました日程では実施されましたが、なるほど若干射撃は寸秒の時間差こそありましたが見事で、春に発生したOH-1不時着事案によりOH-6Dが代わり観測任務や安全管理へ活躍するなど、本年の特色といえました。

 そして本年は会場にて映像だけとはいえAAV-7両用強襲車とMV-22可動翼機が試験映像と米軍運用動画を用い、導入予定の装備という前提で島嶼部防衛に関する解説映像が放映されており、自衛隊が島嶼部防衛に関して大きくその防衛体系を転換しつつあるところを端的に見ることが出来た印象です。

 統合機動防衛力、自衛隊は島嶼部防衛に関する能力構築の一環とし、平時警戒監視にあたる部隊と初動任務に当たる部隊に加え重装備部隊と部隊を三類型し、南西諸島と本州九州に北海道と、軽装備と機動装備に重装備を分けて装備する方式を改めて強調し、防衛力に関する概括として放映しています。

 ただ、この方式は本年も数年来の広報動画と併せ、当方はどうしても危惧を受けずにはいられませんでした、何故ならば多くの国民は富士総合火力演習の陸上自衛隊装備と運用をその概要として参考とするでしょうから、自走高射機関砲や装甲戦闘車を広く配備される装備と勘違いしてしまうのではないでしょうか。

 北海道に重装備と本州に緊急展開装備を、といいましても本州の部隊は基本が高機動車を中心とした地形防御に依存する歩兵部隊であり、緊急展開には向きません、特に災害時は別として有事の際には、です。しかし、北海道の部隊は冷戦期のNATO正面と比較すればかなりの軽装備ですし、本州九州は前述の通り。

 装甲戦闘車を北海道の普通科部隊に充足するくらいでなければ、重装備とは言えないでしょう、難しそうに見えますが旅団普通科連隊は44両で旅団は132両、師団普通科連隊は72両で師団は216両、機甲師団所要を合わせ552両配備すればいいわけで、同じ島国のイギリス陸軍が生産したウォリアー装甲戦闘車よりも少なくて済む。

 90式戦車に89式装甲戦闘車と99式自走榴弾砲で固めた部隊ならば重装備部隊といえるのでしょうが、現状は程遠く、本州九州の部隊も、96式装輪装甲車と軽装甲機動車化された中隊程度に装甲化しなければ、緊急展開部隊として運用するにも重装備部隊とするにも少々能力不足は否めない。

 緊急展開部隊というにも、多用途ヘリコプターの能力不足や航空打撃の骨幹となる戦闘ヘリコプターの代替遅延、観測ヘリコプター代替計画の空転など、充分配備されているのは輸送ヘリコプター程度でして、ここに新型機としてMV-22可動翼機が配備されるのですから、また一機種多くの予算が必要な機体が増えるのかと憂鬱とならざるを得ません。

 そして人員不足の最中に新たに4000名規模の水陸機動団を人員定数を拡大せず新設するというのですから、例えば南九州の第8師団を水陸機動師団に改編する、あの1980年の第7師団の機甲師団改編の様に水陸機動装備の集中を図る、というならば兎も角、もう一つ増強する。

 しかも現行定数では十年前に4500名規模の中央即応集団を創設し、実質1個連隊の普通科部隊と一個大隊の特殊部隊と衛生部隊の増設を行った皺寄せがあることを踏まえれば、また人員不足の皺寄せが大きくなる、と考えさせられます、皺寄せは練度低下と部隊負担増大に直結する点を忘れるべきではない、と思う。

 北大路機関では、広域師団構想として師団旅団の雑多な編成を、航空機動旅団と装甲機動旅団へ統一し、例外的に戦車旅団と水陸機動旅団へ改編する部隊を持つほか、部隊編制を簡略化し、教育訓練体系を統一化できないかを連載していますが、これはその危惧の表れで、自衛隊の練度は現在最高度ですが、このままでは最高度を頂点に次は無理が生じ低下へ転換するのではないか、不安を禁じ得ないのです。

北大路機関:はるな くらま
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コメント (11)
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