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翁長沖縄県知事病没:辺野古移設は唯一解決策ではない,普天間飛行場移設問題県民民意を貫く

2018-08-09 20:04:24 | 国際・政治
■沖縄をまもる"第三の道"はある
 沖縄県の翁長知事が昨日8日、亡くなりました、現職沖縄県知事の死亡はあの最後まで県民に寄り添った島田知事以来ではないでしょうか。

 島田知事は太平洋戦争沖縄戦で最後まで県民保護に奔走し職責に殉じた知事です。翁長知事は国が進める普天間飛行場の名護市辺野古への移設反対を掲げ県知事となりましたが、すい臓がんで入院、手術を行いましたが昨日から意識混濁と沖縄県庁が発表、一時副知事が職務を代行すると発表された後、浦添市の病院で亡くなりました。県民愛溢れる筋を通す尊敬できる政治家の鏡です。

 政府と沖縄県、懸案の普天間移設は訴訟にさえ発展した程の状況に、歩み寄ることは出来ないのか。普天間基地移設という大きな政治論争は、元々飛行場を在沖米海兵隊施設移転を行う、というだけのものでした。一時画定した名護市辺野古への移設が自民公明連立与党から民主党連立政権に政権交代した際に東京で政治論点となり、ここに県外移転の可能性を見出した事で、沖縄県が翻弄された構図なのです。

 翁長知事は那覇市長時代に、当時名護市辺野古への移転再決定を行った沖縄県の仲井間知事に対し、辺野古移転反対を明確に示し、市長を辞した上で知事選に打って出て民意を勝ち得ました。十年以上前、知事が那覇市長時代、大学の特別講義にいらした際に講義録作成を行った御縁でお話を聞く機会に恵まれましたが必ずしも反基地の論調ではありません。

 沖縄をまもる、政府と沖縄県庁はこの一点で完全に一致しています。しかし、政府は南西諸島への中国軍事圧力と北東アジア全般への米軍抑止力維持による武力紛争回避を最重要視し、沖縄県庁は県民福祉という視点から沖縄をまもることも同時に考えなければならない、という一点が違います。しかし、双方が合意できる“第三の道”は必ずあると信じる。

 沖縄県に周辺国からの軍事的脅威が顕在化していることは留意した上で、沖縄に軍事脅威を迎え撃つ場合、全県民を安全な九州本州へ疎開させる事まで踏み込んでいるのか、という非常に鋭い、しかし厳しい視点を頂きまして、実のところ当方が専守防衛の限界を考える大きな転換点の一つとなり、憲法と国民の生命、防衛と県民の安全というリアリズムを考えさせられました。

 仲井間知事時代に安倍総理との合意がある、この一点だけで普天間基地を名護市辺野古のキャンプシュワブへ移設する、という決定を金科玉条の如く掲げて継続する、この点への国と都道府県の対立構造が存在するのですが、妥協点は見出せないものでしょうか。ラジカルに沖縄米軍基地全面撤退の布石、としないのであれば双方の妥協点はあるように思う。

 在沖米軍基地そのものを翁長知事は否定しているのではありません、市長の特別講義で知った事です。そして知事として、主たる視点は辺野古移転反対、続いて普天間飛行場閉鎖、この二点です。それでは沖縄県における海浜埋め立てに翁長知事は全面反対なのか、と問われれば翁長知事は那覇市長時代に那覇空港拡張へ第二滑走路埋立建設を主導し、その工事は順調に進んでいます。単純な埋立反対ではない。

 那覇基地へ普天間飛行場施設を統合し、第二滑走路地区を官民両用飛行場化する。沖縄県の辺野古移設反対と普天間飛行場閉鎖、政府の海兵隊飛行場施設移転日米合意履行、この二つの難題を解決し、双方の面目を保つには翁長知事の遺産というべき那覇空港第二滑走路を活用する事が一番確実ではないでしょうか。沖縄県と政府が共に妥協するということ。

 普天間飛行場が市街地の中心部に近く危険であるという視点、実は岐阜基地や小牧基地と八尾駐屯地や小松基地等を比較してみますと、普天間はそれ程危険であるようには思えないのですが、この視点を真剣に考えるならば、那覇空港第二滑走路は沖合にあり、万一訓練中に事故で墜落した場合でも現場は海上となり、市街地へ危険が及ぶことはありません。

 第9航空団と南西航空方面隊司令部、海上自衛隊第5航空群、第15旅団の置かれる那覇基地と那覇航空基地に那覇駐屯地ですが、那覇空港第二滑走路は既に埋立が完了している為、更なる環境破壊の懸念はありません。そしてなによりも、ほぼ完成していますので、辺野古へこれから埋立を本格化させるよりも、海兵隊の移転は迅速にできるという利点がある。

 名護市辺野古の飛行場について、重要なのは普天間飛行場移設反対という民意と、那覇空港の容量限界という現状です。那覇空港LCCターミナルだけでも名護市辺野古沖へ移設できないか、計画では3700m滑走路建設、ボーイング747規模四発ワイドボディ旅客機も十分発着出来、那覇LCCターミナルのように出入場をバスのみとすれば保安上の問題もない。

 キャンプシュワブ埋立について、その許可を建設工事着手後に知事が停止させられるのか、という視点が大きな論争を呼びましたが、埋立許可を工事着手後に撤回する前例は行政として妥当とは言えません、他の民間工事に同様の行政暴走を許す先例となりかねない。しかし、埋立は実施するものの、米軍基地建設か、第二の沖縄空港かで、意味は違ってくる。

 沖縄空港としてキャンプシュワブの辺野古飛行場を名護市辺野古にLCC専用の沖縄第二の空港として転用するならば、新基地建設を回避する県民世論に応え那覇基地への普天間飛行場統合という問題は解決できますし、同時に沖縄県の長年の課題であったもう一つの問題も解決する事が出来るでしょう、もう一つの問題とは、沖縄本島北部開発、というもの。

 沖縄本島北部開発、沖縄県では本島南部に都市部と観光施設が集中しており、北部の開発は進んでいません。これまで沖縄本島北部には米軍北部訓練場という巨大な訓練場がありました。元々7600haという訓練場でしたが、2016年に半分以上が返還され現在は3533haとなっています。参考までに富士総合火力演習が行われる東富士演習場面積が8800haです。

 名護市は本島北部に位置し、ここにLCC専用空港が開設されるならば、ホテルや観光施設等、本島北部開発は一挙に進むでしょう。現在、沖縄自動車道は那覇ICから名護市の許田ICまで延伸しており、名護東道路として将来の高速道路化を見据えた高規格道路が沖縄自動車道とを結んでいます。距離58km、那覇市からのアクセスは必ずしも悪くはありません。

 那覇基地統合案は、あくまで当方が提案できる選択肢の一つですが、他にも沖縄県と政府が歩み寄れる点は少なくないように思えます。しかし、一旦合意したのだから、と寸分の変更も認めないのは、少々意固地にはなっていないか。政府は普天間飛行場移設が実現する訳ですし、沖縄県は民意が一部通ったと将来に誇示できる、新しい可能性が生まれる。そして那覇空港は国運営ですので民間資産の接収という状況は生まれません。

 副知事が暫定的に県政を担いますが、県知事選は来月に行われます。翁長知事は、辺野古移設反対を掲げて民意を勝ち得たのですが、普天間反対派と辺野古反対派は、沖縄県だけでなく日本と周辺諸国から移設反対派と米軍反対派とが論点を錯綜させているように思えます。論理の玉石混交を行いますと県民世論が分裂、将来に禍根を残します。時間は長くありませんが、慎重な討議を望みます。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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