北大路機関

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【映画講評】空母いぶき(2019.05.24.公開決定),【2】中国軍出ない日中武力衝突題材映画

2019-05-09 20:16:09 | 映画
■日中戦闘に映画人の覚悟を問う
 空母いぶき映画化の話題に接した際に、あの内容を勇気を以て映画化するのか、変に妥協してタイトルだけに終わるのか、少々考えたものです。

 日中武力衝突、中国軍の沖縄侵攻を契機として自衛隊が防衛出動、海上自衛隊の航空母艦と中国海軍航空母艦が南シナ海で全面衝突となり、沖縄島嶼部を占領する中国海軍歩兵や空挺部隊に対し、陸上自衛隊が空挺団と水陸機動団を展開させ、第二次沖縄戦という状況となる。空母いぶき、とは非常にシビアな、しかし現実味が有り得る題材を扱っています。

 空母いぶき原作者で劇画家の、かわぐちかいじ氏は過去に“軍靴の響き”としまして自衛隊PKO派遣を契機に政治的発言力を得ようと暴走する作品を発表、“沈黙の艦隊”では冷戦時代に極秘裏に日米共同建造した海上自衛隊シーウルフ級原潜が突如独立を宣言し逃亡する内容を、“ジパング”ではイージス艦のタイムスリップと歴史改編を題材としました。

 日中武力衝突、未読の当方としては、所謂水着回や日常編の様なものがあるかは別としまして、映画という一つのメディアが、日中武力衝突という、リアリズムの面とアイディアリズムの両輪で齟齬の無い回避の努力をせねば、護衛艦へF-35B搭載という現実の次のフィクションの部分がリアルとなり得る作者の主題を、正面から受け止められるのかな、と。

 現実がフィクションに追いついた、とは本作連載が進む中で自衛隊へ護衛艦から運用可能なF-35B配備計画が具体化するなかで指摘されているものですが。この作品、劇画なのですから、平穏無事に満期除籍、という設定はなく、中国軍が南西諸島南部へ強襲を仕掛け、有人島が占領、陸上自衛隊と戦闘、という状況になる訳です。ただ、映画化について。

 海洋冒険漫画なのかミリタリーシミュレーションコミックなのかSFなのか、原作の味方によって評価は分かれるところなのでしょうが、なにしろ昨今はCGが普及しているのですが、日中の武力衝突、中でも南西諸島を舞台に中国海軍と海上自衛隊の戦闘を扱う訳で、これは過去に岡本喜八が独立愚連隊で八路軍と日本軍の戦闘を描くのとはわけが違います。

 あたご、はじめ海上自衛隊の護衛艦が南西諸島方面の警戒監視に当たっていた際に、中国海軍からミサイル攻撃を受け、意図的に命中させないことで最大限の威嚇という武力行使を行った後、政府が新たに新護衛艦へF-35B運用能力を付与させ、武力行使の常態化が武力攻撃という次の段階へ発展した場合に備える、という設定で物語は進展してゆきます。

 そうりゅう型潜水艦と中国海軍潜水艦同士の戦闘が展開、F-35B戦闘機とJ-15戦闘機という航空戦闘や南西諸島南部有人島を占領した中国海軍水陸両用部隊と陸上自衛隊島嶼部防衛部隊や空挺部隊と水陸機動団の戦闘と共に戦闘が拡大してゆく、原作は現在も連載が続いています。映画化では中国軍がどのように扱われるかが、一つの注目点だったのですが。

 中国軍は出てきません。本作の映画化を聞いた際に、どうせ政治的な問題から中国軍の名前は出せないだろうなあ、とは思い、バルベルデ共和国でも出てくるのか、と勝手に想像しているのですけれども、出てくるのは未知の武装勢力という。ガーリーエアフォースというJAS-39戦闘機と少女と小松基地のアニメが放映中ですが、ある意味あっち寄り、かな。

 未知の武装勢力、と言いましても、現実問題として専守防衛ではありますが自衛隊の戦力は相当なものであり、その情報収集能力も非常に大きなものがあります、自爆テロやネットワーククラッキングのような手段ならば兎も角、国家が軍事目的で未知の即ち正体を隠したまま戦いを挑めるような勢力ではありません、護衛艦隊に回線を挑む場合は特にです。

 映画に示すには論戦の要素となり得ます、ただ、日中の軍事衝突という部分を省いてしまっては、“空母いぶき”の作中骨幹を折ったものとなり、“空母いぶき”でなくとも別の作品で例えば、砧大蔵氏の“空母あかぎ”でも、鳴海章氏の“原子力空母「信濃」”でも、夏海公司氏の“ガーリーエアフォース-ライノ再登場!”でも良くなってしまうのですよね。

 頭上の脅威、フランス映画で空母クレマンソーが宇宙からの未知の脅威へ遭遇し、核攻撃か否かの決断を強いられる、という当時建造されたばかりの最新鋭空母クレマンソーが主役のような映画がありましたが、劇場版空母いぶき作中は流石に宇宙人は出てこないでしょうけれども、敢えて中国海軍ではなく未知の武装勢力を相手に戦う、とはどう描くのでしょう。

 実際問題として、現実に緊張状態にある二ヶ国が武力衝突する、という内容は映画では画きにくいものです。あの反戦反核映画の金字塔、東宝が世界に問うた松林宗恵監督の“世界大戦争”でも、アメリカとソ連という国名は伏せられていました。ただ、その覚悟が無いならば、憲法問題と戦後問題を含む自衛隊の日中武力衝突という意図は伝えられない。その出来に、映画人としての覚悟を見てみたいですね。


北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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