■南西諸島有事の想定検証
いよいよ来週から公開という映画“空母いぶき”、原作から大きく内容を転じている様に側聞しますが、原作者と原作ファンが納得できる原作改変の出来を期待したいですね。
空母いぶき。原作が中国海軍の軍事圧力を前に政府は海上自衛隊へ、いずも型護衛艦拡大改良型として航空母艦いぶき型を建造、その一番艦には艦載機として航空自衛隊F-35B戦闘機を搭載する。就役後訓練が進む中、中国海軍が遂に南西諸島南部への侵攻を開始し、自衛隊と戦闘が発生、沖縄県民が巻き込まれる状況下で防衛出動命令が下令、というもの。
映画では、中国軍が出てこないとは聞いているのですが。原作改変というものは、往々にして脚色の延長上で行われるものです。ただ、文字通り空母いぶき原作から中国軍を除いた場合、在り得るのはF-35Bを前に戦後初の空母運用への実績蓄積への試行錯誤に苦慮しつつ成し遂げる、NHK“プロジェクトX”方式の疑似ドキュメンタリーだったのでしょう。
しかし、戦闘状況が展示されるという。今回はゴジラ出てこないようですし、ガメラのような水中移動物体を訓練中に捕捉し追尾しつつ、という内容でもなさそうです。すると、中国は出ないが戦闘は行う、その内容に敢えて“空母いぶき”を扱う必要はあったのでしょうか、“空母あかぎ”でも“空母ほうしょう”でも軍事ライトノベルでよかったような。
中国軍の沖縄侵攻、あり得る内容ではあるのですが、基本的に南西諸島全域は那覇基地のエアカバー覆域内に在ります。つまり、F-35Bを護衛艦に搭載せずとも、南西諸島域内で任務を展開する場合には、例えば日米安保が解消するとか、沖縄本島が将来核物質等で汚染され使用できなくなる状況でもなければ、より航続距離の長いF-15Jが主力となります。
軍事検証の視点から考えれば、尖閣諸島へ着上陸が行われる場合は、自衛隊が対応出来ないと中国の政策決定者が判断した場合に限定侵攻、特に無人島に短期間上陸し既成事実を構築する、という範疇でしょう。過去の歴史でいえば、中国がフィリピンのミスチーフ環礁を占領した場合や、ヴェトナムの赤爪礁守備隊を襲撃し武力奪取したような状況ですね。
軍事検証で、原作に在るような沖縄の有人島を攻撃するならば確実に防衛出動が発令されます、日本の領域内での人命重視は北朝鮮邦人拉致事案への政府対応が全てを示していますし、なによりも兆候が把握された時点で海上警備行動命令と防衛出動待機命令を発令し、強くけん制するでしょう。本土から増派、那覇基地では応急掩体等の構築が開始される。
中国が尖閣諸島に強い関心を示すのは、一説に海底資源獲得を目指す、春暁ガス田建築等がこれを示している、としていますが、海底資源だけで世界第二位と第三位の経済大国同士が戦争を覚悟するほど、尖閣周辺の可掘海底資源量が潤沢ではありません。すると、別の問題がある。最大の可能性は沖縄本島と台湾島の中間に尖閣諸島が位置しているという。
尖閣諸島は飛行場等は有りませんが、中国が此処を占領し、南シナ海のように人工島を建設したならば、中国軍が台湾島へ武力侵攻した際に沖縄本島のアメリカ軍が、第3海兵師団と第31海兵遠征群のアメリカ国民救出や外交官救出での台湾展開を阻止し得ます。アメリカが望むはこの地域の安定、中国は台湾占領、両国は大事となる直接衝突を望みません。
自衛隊は南西諸島南部への中国軍侵攻を受けた場合、那覇基地からF-15J戦闘機とE-2C早期警戒機、P-1とP-3C哨戒機を派遣し、本土から増援するF-2戦闘機やF-35戦闘機と共に航空優勢確保を期すでしょう。すると、中国軍は、この行動を受け南西諸島限定侵攻を断念し撤収するか、若しくは那覇基地を弾道弾や巡航ミサイルで攻撃する選択肢がある。
那覇基地が破壊されたならばどうするか、日米作戦協定に基づき、那覇基地の滑走路が復旧するまでの間、アメリカ空軍嘉手納基地と海兵隊普天間基地の飛行場施設を代替滑走路として作戦を継続するでしょう。では中国軍は、嘉手納や普天間を攻撃できるのか。台湾有事の際のアメリカ介入を回避する為に、先にアメリカと開戦する、さすがに有り得ない。
軍事検証空母いぶき、例えば架空設定で沖縄県の島嶼部に現在の台湾領澎湖諸島の一部とか、台湾領で中国本土に近い金門島が含まれる、というならば、那覇基地からのエアカバーは届かないのですが、現在の地図と日本施政下の領域で状況を展開するならば、那覇基地からの対応で充分対処し得るのですよね。原作で那覇第9航空団は如何にしているのか。
いずも型護衛艦F-35B搭載、現実の視点では空母いぶき原作と似た状況が推移しています。防衛大綱では南西諸島などの局地防空の発着拠点として、ヘリコプター搭載護衛艦とF-35Bを用いるという。これは、例えば集団的自衛権行使を原理主義的且つ教条主義的に解釈し、南西諸島有事の際に嘉手納が攻撃された場合で米軍が出ない状況を想定するものといえる。
かが、いずも、現実的には那覇基地のエアカバー圏外での第三国海軍による通商路破壊、例えば南太平洋や南シナ海でのシーレーン防衛が必要となった場合に、選択肢を残しておく運用を想定しているのだと考えています。丁度、中国海軍による南シナ海閉塞の動きが実際に進展中で、原作の東シナ海よりも南シナ海の方が可能性としては高い、ということ。
原作未読なのですが、冷戦時代に北海道に軍事脅威が集まっていた背景に米軍が北海道に常駐していないというものがありました。若しかすると、原作では沖縄基地問題が拡大し、嘉手納基地は板付新基地に移設し、海兵隊も九州に移転しており、沖縄の米軍基地抑止力が既に無い、若しくは現実よりも南西諸島が遥か南方まで延びている、のでしょうか、ね。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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いよいよ来週から公開という映画“空母いぶき”、原作から大きく内容を転じている様に側聞しますが、原作者と原作ファンが納得できる原作改変の出来を期待したいですね。
空母いぶき。原作が中国海軍の軍事圧力を前に政府は海上自衛隊へ、いずも型護衛艦拡大改良型として航空母艦いぶき型を建造、その一番艦には艦載機として航空自衛隊F-35B戦闘機を搭載する。就役後訓練が進む中、中国海軍が遂に南西諸島南部への侵攻を開始し、自衛隊と戦闘が発生、沖縄県民が巻き込まれる状況下で防衛出動命令が下令、というもの。
映画では、中国軍が出てこないとは聞いているのですが。原作改変というものは、往々にして脚色の延長上で行われるものです。ただ、文字通り空母いぶき原作から中国軍を除いた場合、在り得るのはF-35Bを前に戦後初の空母運用への実績蓄積への試行錯誤に苦慮しつつ成し遂げる、NHK“プロジェクトX”方式の疑似ドキュメンタリーだったのでしょう。
しかし、戦闘状況が展示されるという。今回はゴジラ出てこないようですし、ガメラのような水中移動物体を訓練中に捕捉し追尾しつつ、という内容でもなさそうです。すると、中国は出ないが戦闘は行う、その内容に敢えて“空母いぶき”を扱う必要はあったのでしょうか、“空母あかぎ”でも“空母ほうしょう”でも軍事ライトノベルでよかったような。
中国軍の沖縄侵攻、あり得る内容ではあるのですが、基本的に南西諸島全域は那覇基地のエアカバー覆域内に在ります。つまり、F-35Bを護衛艦に搭載せずとも、南西諸島域内で任務を展開する場合には、例えば日米安保が解消するとか、沖縄本島が将来核物質等で汚染され使用できなくなる状況でもなければ、より航続距離の長いF-15Jが主力となります。
軍事検証の視点から考えれば、尖閣諸島へ着上陸が行われる場合は、自衛隊が対応出来ないと中国の政策決定者が判断した場合に限定侵攻、特に無人島に短期間上陸し既成事実を構築する、という範疇でしょう。過去の歴史でいえば、中国がフィリピンのミスチーフ環礁を占領した場合や、ヴェトナムの赤爪礁守備隊を襲撃し武力奪取したような状況ですね。
軍事検証で、原作に在るような沖縄の有人島を攻撃するならば確実に防衛出動が発令されます、日本の領域内での人命重視は北朝鮮邦人拉致事案への政府対応が全てを示していますし、なによりも兆候が把握された時点で海上警備行動命令と防衛出動待機命令を発令し、強くけん制するでしょう。本土から増派、那覇基地では応急掩体等の構築が開始される。
中国が尖閣諸島に強い関心を示すのは、一説に海底資源獲得を目指す、春暁ガス田建築等がこれを示している、としていますが、海底資源だけで世界第二位と第三位の経済大国同士が戦争を覚悟するほど、尖閣周辺の可掘海底資源量が潤沢ではありません。すると、別の問題がある。最大の可能性は沖縄本島と台湾島の中間に尖閣諸島が位置しているという。
尖閣諸島は飛行場等は有りませんが、中国が此処を占領し、南シナ海のように人工島を建設したならば、中国軍が台湾島へ武力侵攻した際に沖縄本島のアメリカ軍が、第3海兵師団と第31海兵遠征群のアメリカ国民救出や外交官救出での台湾展開を阻止し得ます。アメリカが望むはこの地域の安定、中国は台湾占領、両国は大事となる直接衝突を望みません。
自衛隊は南西諸島南部への中国軍侵攻を受けた場合、那覇基地からF-15J戦闘機とE-2C早期警戒機、P-1とP-3C哨戒機を派遣し、本土から増援するF-2戦闘機やF-35戦闘機と共に航空優勢確保を期すでしょう。すると、中国軍は、この行動を受け南西諸島限定侵攻を断念し撤収するか、若しくは那覇基地を弾道弾や巡航ミサイルで攻撃する選択肢がある。
那覇基地が破壊されたならばどうするか、日米作戦協定に基づき、那覇基地の滑走路が復旧するまでの間、アメリカ空軍嘉手納基地と海兵隊普天間基地の飛行場施設を代替滑走路として作戦を継続するでしょう。では中国軍は、嘉手納や普天間を攻撃できるのか。台湾有事の際のアメリカ介入を回避する為に、先にアメリカと開戦する、さすがに有り得ない。
軍事検証空母いぶき、例えば架空設定で沖縄県の島嶼部に現在の台湾領澎湖諸島の一部とか、台湾領で中国本土に近い金門島が含まれる、というならば、那覇基地からのエアカバーは届かないのですが、現在の地図と日本施政下の領域で状況を展開するならば、那覇基地からの対応で充分対処し得るのですよね。原作で那覇第9航空団は如何にしているのか。
いずも型護衛艦F-35B搭載、現実の視点では空母いぶき原作と似た状況が推移しています。防衛大綱では南西諸島などの局地防空の発着拠点として、ヘリコプター搭載護衛艦とF-35Bを用いるという。これは、例えば集団的自衛権行使を原理主義的且つ教条主義的に解釈し、南西諸島有事の際に嘉手納が攻撃された場合で米軍が出ない状況を想定するものといえる。
かが、いずも、現実的には那覇基地のエアカバー圏外での第三国海軍による通商路破壊、例えば南太平洋や南シナ海でのシーレーン防衛が必要となった場合に、選択肢を残しておく運用を想定しているのだと考えています。丁度、中国海軍による南シナ海閉塞の動きが実際に進展中で、原作の東シナ海よりも南シナ海の方が可能性としては高い、ということ。
原作未読なのですが、冷戦時代に北海道に軍事脅威が集まっていた背景に米軍が北海道に常駐していないというものがありました。若しかすると、原作では沖縄基地問題が拡大し、嘉手納基地は板付新基地に移設し、海兵隊も九州に移転しており、沖縄の米軍基地抑止力が既に無い、若しくは現実よりも南西諸島が遥か南方まで延びている、のでしょうか、ね。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
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