北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【映画講評】空母いぶき(2019.05.24.公開決定),【5】日中友好を目指す新時代のSF映画

2019-05-30 20:19:40 | 映画
■検証:軍事衝突現実化の可能性
 先週の映画公開と共にいろいろあったようですので補足的に第五回を掲載する事としました。日中友好に悪影響を想われた方、杞憂でしたもよう。

 空母いぶき、映画については色々あるようですが、今回の作品について原作愛好家の方々から落胆の声がありまして、いろいろとお話を聞いていますと、まず割切るといいますか、現実世界と作品世界の幾つかの大きな違いを踏まえて、少なくとも映画冒頭部分で説明するべきだったのではないかな、と思いました。ゴジラのようなSF映画か特撮のように。

 自衛隊撮影協力ですが、良く考えてみれば皆無であって当然なのですよね、何故ならば舞鶴グリーンフェスタ会場では空母いぶき映画関連の内容は皆無でした、横須賀基地周辺でも、なにか映画館を除いて総合商業施設が別の意味で凄い事になっていましたが、自衛隊広報と重ねた掲示というものはありませんでしたから、CGで自由にやったようですね。

 空母いぶき映画版、当方未見ですが知人友人に意外と原作ファンが居まして、一寸驚かされたところです。しかしそれ以上に原作を知る人ほど映画版は違和感が在ったようでして。その上で疑問質問などがありましたので、この点についてお答えしましょう。未見ですがネタバレとなる可能性の部分がありますのでご注意ください。良いですか注意ですぞ。

 四回で映画公開前に完結させました本特集ですが、第五回を掲載しましたのは、内容が創造の斜め上を行っていた、とかで映画公開前よりも公開後の方が原作未読映画未読の当方に素朴な質問が寄せられる事が増えた為です。もっとも、ネタバレしようにもネタバレされた当方ですので、伝聞風聞新聞影響はあるかもしれません。気になる方は未読を薦める。

 ネタバレ注意、これから映画を愉しもうという方はここから閲覧はお控えいただければ幸いです。一方当方も未見なのですが、ネタバレ注意と繰り返しますのは、ネタバレしてしまいますと、この映画を余り愉しめなくなるかもしれないからです。小説とかで販売促進の帯に一番大事なネタバレが在ったりしましてガッカリする事もあります、これと同じ。

 中国海軍ではなくカレドルフ東亜連邦という架空の国が出てきまして、話に聞けば建国三年で空母機動部隊を持ったという。そして映画の舞台は南西諸島が現実の日本よりも長く伸びていまして、フィリピン近海に在る沖縄県の離島が攻撃された、という設定とのこと。総じて前評判以上に映画としての完成度の面にて苦痛であった、とは原作ファンのお話し。

 護衛艦なのに空母いぶき艦上に自衛艦旗が掲げられていなかった、とか、艦内からネットメディアがYOUTUBEから実況を行っている、という不可思議なお話しもありますが、この点も含め説明してゆきましょう。空母の映画なのにコンビニが延々と描かれていた等、凄いネタバレをされたものなのですが、側聞する情報を一つ一つ検証してみましょう。

 質問されたのが、日本領土に外国軍隊が侵攻し住民が人質となった際に防衛出動が出ない可能性はあるのか、建国三年の国に空母機動部隊を保有する事は可能か、という質問でした。前者は革新政権ならば有り得ると考えられるかもしれませんが、国土と国民が外国軍隊に蹂躙されて放置した場合、確実に次の選挙前に政権は崩壊します。つまり有り得ない。

 カレドルフとは。空母機動部隊は建国三年の小国で可能なのか、聞かれました。小国の定義は不明ですが、過去にオランダがアメリカ海軍から第二次世界大戦の中古空母を取得した事があります、人口1000万程度の国で海上交通の観点から絶対に航空母艦が必要な情勢があり、更に国内に大型船を建造できる高度な造船業と航空産業があれば不可能ではない。

 カレドルフという架空の国が映画版の中国軍の役割を果たす、その位置とは。劇中に少しだけ地図が出たとの話で、フィリピンルソン島から東の沖合に位置する離島、という事でした。ここが謎の軍拡を行い東亜連邦という新国家を建国、カレドルフ-東亜連邦が建国三年後にすぐ東側に在る沖縄県の離島に武力侵攻し、空母いぶき出動、という内容だという。

 建国三年の国家に航空母艦は可能なのか、と問われますと基本的に不可能ですが、ロシア海軍という事例はあります。ロシア海軍はソビエト連邦崩壊後に北海艦隊に配備されていました空母トビリシを国家継承と共に空母アドミラル-クズネツォフと改名し継承しました。例えば小国でも大国から分割の形で独立した際にその領土に海軍基地があれば、在り得る。

 日本へ小国が攻撃を仕掛ける可能性はあるのか、と問われますと、仮に日本がフィリピン近海に領土を有していたならば、有り得ないとは言い切れません。2013年のサバ州騒乱、所謂ラハダトゥ対立ではマレーシア国内にスールー王国建国を期し、隣国フィリピンから数百人の武装勢力が浸透、治安部隊と大規模な銃撃戦、戦闘と云い得る状況がありました。

 マラウィ騒擾として2017年にはフィリピン国内にISイスラム国戦線の過激派分子が数百名の武装勢力を伴ってフィリピン南部の主要都市マラウィを占拠し、五か月間に渡り市街戦が展開されました。数百名の武装勢力を相手に鎮圧が難航し、某部内誌ではその不手際ぶりが強く問題視されていたりもしましたが、こうした騒擾は実際近年も在ったのですね。

 ただ、武装勢力が極秘裏に空母を保有する事は、現実味がありません。また、映画の世界では台湾以南まで沖縄県が広がっているからこそ、こうした状況を場面として有り得たのであり、例えば朝鮮半島で大規模な内戦が発生し破綻国家化しイスラム原理主義勢力が浸透、というような状況でも起こらない限り、現実の日本領土では起こり得ないでしょう。

 空母グルシャという大型空母がロシア製MiG-35戦闘機60機を搭載し、機動部隊を編成し沖縄県へ侵攻した、という内容という。実在するロシア海軍の空母アドミラル-クズネツォフはSu-27戦闘機24機を搭載しています。すると映画の空母グルシャは空母アドミラル-クズネツォフの倍以上の艦載機を有している事になりまして、背後関係が気になります。

 MiG-35はソ連製MiG-29改良型として2007年に初飛行、エジプト空軍が約50機とインド空軍の空母ヴィクラマディーチャ艦載機として提示された常に新しい航空機です。ただ、MiG-35は陸上戦闘機であり空母艦載機ではありません、インド海軍は実際、艦載機としてMiG-29Kを採用しており、MiG-35の艦載機は現在存在せず、計画も無いという事実が。

 空母いぶき劇中世界は202X年ということですので、今後数年後に可能性はあり得るのかもしれませんが、要するにカレドルフ/東亜連邦は最新鋭の戦闘機をロシアから供給され得る、という設定なのでしょう。一方、これを60機搭載する、としますと、アメリカのニミッツ級原子力空母が現在搭載するF/A-18E/Fの定数よりも多く、必然10万t規模のものとなる。

 ガーリーエアフォースというSFアニメでは異世界からの“ザイ”という中国語で災いを意味する敵が中国を攻撃し日本へも飛来していますが、実際、異次元から来ない限り10万t規模の航空母艦を建造するには、一人あたりのGDPが100万ドルを超えて人口1000万とか、30km四方の人工島を数十個有している等の過程でも無ければ、これは在り得ません。

 現実性という観点からは、MiG-35の原型機であるMiG-29は、東ドイツ軍やハンガリー軍等の運用実績を見ますと、最高稼働率が低い分最低稼働率を高めた機種である為、例えば国連経済制裁等で予備部品などの供給が停止する事で、短期間で飛行不能となるでしょう。空母グルシャにしても数年に一度は造船所での整備が必要、その間が全く無防備となる。

 かわぐちかいじ氏は空母いぶき発表前に沈黙の艦隊、という日本が極秘裏に取得したシーウルフ級攻撃型原潜が突如独立宣言を行う、という設定が在りましたが、例えば空母グルシャも最初は大国が保有していた巨大空母であるものの突如叛乱を経て独立宣言を行い、カレドルフ国を武力で乗っ取り東亜連邦を建国した、という設定ならば、僅かに可能性が。

 いぶき建造の背景ですが、原作ファンの方には悪いのですが劇場版ならば説得力が逆に出ていると思います、何故ならばカレドルフ/東亜連邦がフィリピンのルソン島東方に位置し、そのすぐ隣に在る沖縄県の離島である波留間群島に武力侵攻し、島民を人質にした、という設定がある為です。どういう事かと云いますと、架空の島沖縄波留間群島の位置です。

 中国海軍が南西諸島へ空母により武力侵攻する原作空母いぶき劇中、当方は尖閣諸島で有れば那覇基地のエアカバー範囲内であり、なにも新空母を建造せずとも那覇基地からF-15Jを展開させる事で航空優勢が維持できる、としました。しかし、空母いぶき映画は架空の国が相手とはいえ、沖縄の波留間群島がルソン島から遠くない位置に所在するのですから。

 沖縄県の離島が台湾よりもはるか南に維持されているという映画の設定です、この距離であれば那覇基地からマニラまで1466kmですから、要するにF-15戦闘機の戦闘行動半径では非常に厳しくなります。もしかしたら、映画の世界では台湾島も日本領、という可能性は絶無ではないにしろ、ルソン島近くに日本領、その世界で太平洋戦争頑張ったのですね。

 作品世界では日中関係は非常に良好なのでしょう、だからこそ那覇基地以南に基地が無いという状況下で、突如那覇から1500km近く離れた日本領土のすぐ隣に軍事脅威が発生し、新しく航空自衛隊基地を南西方面に造成する余裕も無く、その為にヘリコプター搭載護衛艦へF-35B戦闘機を搭載する、という決断としたのかもしれません。これなら納得が行く。

 原作は日中武力衝突という世界観なのに映画では中国軍が救援へ来た、と原作愛好家の方はヤケ酒でストリチナヤを空けてしまったそうですが、日中関係が凄く良好な作品世界と仮定し、カレドルフ東亜連邦が建国されるまで南西に脅威は無かった、とするならば、友好国日本の窮状を見かねてカレドルフ東亜連邦海軍制圧へ日中共同対処、と説明できます。

 YOUTUBE実況について。とある訓練にて日本海を航行中にM新聞の記者さんが悲鳴を挙げました、続きC新聞の方も、聞けば電子送稿できないという。護衛艦の艦内だったのですが、飛行甲板に出てみても電子送稿出来なかったといいます。イラク復興人道支援任務では衛星通信アンテナをメディアの方が許可を受け持ち込み電子送稿した事例はあります。

 YOUTUBE実況、先ず作戦行動中の自衛隊部隊が第一線からこうした情報伝送を行う事は、部隊行動秘匿の観点から許可されるとは考えられません、護衛艦が港内に停泊中であれば通信は出来るかもしれませんが、例えば作戦行動中の艦艇から民間放送局が動画を伝送可能という通信帯域を持つ携帯衛星通信機を動かせるとも思えず、この点非現実的でしょう。

 作品中に中国軍がYOUTUBEを見て自衛隊支援へ乗り出すという描写が在ったといいますが、多分その世界では米中関係も非常に良好なのでしょう、現在中国ではYOUYUBEは視聴できません、そもそも中国国内ではGoogle検索さえ現実にはできないのですから、作品世界でYOUTUBEを視聴できる中国、天安門事件の際に民主化出来たのかもしれませんね。

 自衛艦旗が掲げられていなかった点について。無理矢理説明するならば、空母いぶき所属は海上保安庁の公船であるのか、海上自衛隊所属ではなく航空自衛隊所属の多目的輸送船であるか、若しくは建造中に公試という洋上での試験中に自衛艦旗を授与される前、艤装員だけで出動したのか、制作者の精神に異常が在ったのか、何れかという事なのでしょう。

 最後に空母の映画なのに長々とコンビニが強調されていた、といわれました。実はこれ、リアルなのかもしれません、こう言いますのもアメリカ海軍のニミッツ級原子力空母にはコンビニがあります、一回出航しますと三か月から四か月は上陸無しという厳しい勤務で有名な原子力空母では娯楽が艦内のテレビ局と艦内ケーブルテレビ等限られているのです。

 空母艦内のコンビニ、余りその方は多くを語らなかったのですが、恐らく映画製作者が艦内にコンビニがあると聞き、アメリカ海軍の空母艦内コンビニを参考に、海上自衛隊の護衛案では考えられないような描写をした、という事なのでしょうか。なお、海上自衛隊とアメリカ海軍では艦内禁酒、アメリカの空母のコンビニでもアルコールは扱っていません。

 さてさて。曰く“映画はやぶさ”にて人工衛星が最後喋ったのと同じくらいの衝撃。曰くハッピータイガーを韓国が勝手にパクッた映画の形で翻案された手で空母いぶき映画が原作壊変された印象。色々云われる内容ですが、当方としては、中国の空母建造に併せて日本も空母を建造するならば万一の際に協力し合える、とリベラルの人に薦めたい作品です。

 原作空母いぶき作中で日中は緊張関係にあるが、映画いぶき作中は友好関係にある。原作中では中国は一党独裁ですが、映画ではYOUTUBEが視聴可能名程度に民主化された。原作空母いぶき作中では沖縄県は現実の免責ですが、映画ではフィリピン近くまで領有している。原作と違い小国でも巨大空母を導入し得る環境がある。これを踏まえてみる必要が。

 亡国のイージス、奇しくも先日衛星放送で放映されていましたが、あの作品異常に現実の日本とは違う作品であり、先ほどまでBSテレ東で放映された“ゴジラ-モスラ-キングギドラ大怪獣総攻撃”の世界観の様な、現実の日本とは全く異なる歴史を辿ったパラレルワールドの作品、と思うならば、原作愛好家の方々も満足できるのではないでしょうか、と思います。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする