北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

南シナ海は第二のオホーツク海となる【2】太平洋戦争日米空母決戦以来となる中国の挑戦

2019-05-14 20:05:43 | 防衛・安全保障
■中国対艦弾道弾と巡航ミサイル
 ロイター通信“特別リポート-中国習近平の強軍戦略”この特集は幾つかの特集から集成されています。ここには横須賀にも前方展開する空母への挑戦が。

 アジアにらむミサイル増強-米空母が無力化される懸念、というロイター特集があります。特集の内容は中国が進める長距離巡航ミサイルや対艦弾道弾と新造空母という新しい戦力を前に、アメリカ海軍が第二次世界大戦後永らく常套手段として踏襲してきました、巨大空母による戦域単位での空間優位という施策が成り立たなくなる可能性を提示しています。

 アメリカ海軍の航空母艦は、第二次世界大戦以来年々その能力を強化し、航空団の運用、そして何より航空母艦を戦域優位の中枢に位置付ける為の絶え間ない努力と改良が続けられてきました。この為、能力は膨大で、誤解を恐れず表現すれば戦闘機は九州全域の航空自衛隊戦闘機と同数、イージス艦の防空能力と併せ桁外れの戦力と機動力を保持している。

 ニミッツ級航空母艦、原子力空母の戦力は打撃力としては艦載機がその主柱を担います。艦載機は空母航空団という50機程度の戦闘攻撃機に早期警戒機と対潜ヘリコプター及び艦上輸送機から成るもので、空母自体が大量の弾薬と燃料の集積地であると共にF/A-18E戦闘攻撃機の性能がその能力を最大限発揮します。そして遠からず、ここにF-35Cが加わる。

 ニミッツ級原子力空母はもう一つ、多数のイージス艦と攻撃型原潜により防護されており、イージスシステムは共同交戦能力により連接され、E-2D早期警戒機の警戒監視能力と併せる事で、イージス艦はスタンダードSM-2,SM-6とESSM対空ミサイルを搭載し、艦隊への対艦ミサイルや航空機による攻撃は数百発までの同時攻撃ならば基本的に対処可能です。

 1000km以内に接近する事は困難ともいわれます。空母戦闘群、2006年以降は空母打撃群と呼称される空母を中心としたタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦2隻とアーレイバーク級ミサイル駆逐艦2隻から3隻を基本とするこの部隊は、現在、ニミッツ級原子力空母10隻と新型のジェラルド-F-フォード級原子力空母1隻、11個空母打撃群が全世界へ展開する。

 しかし、例えば数百発のミサイル同時攻撃に対抗できるとして千数百発同時攻撃が行われた場合はどうか、空母打撃群に一個駆逐隊を増勢することで対応可能になる、では数千発のミサイルを同時攻撃された場合は飽和状態とならないか、これは有り得る。また1000km以遠からの同時飽和攻撃、例えば宇宙から数百の対艦弾道弾が投じられた場合は、どうか。

 アメリカ海軍航空母艦への挑戦は、逆に中国の勢力圏では空母の運用が難しくなるのではないか、中国の勢力圏とは西太平洋地域と南シナ海全域等という広い範囲を含むものです。詳細はロイター特集を参照して頂くとしまして、現実問題としてアメリカ海軍は第二次世界大戦終戦以来のシーパワーによる挑戦に曝されつつあることは、徐々に現実化している。

 1998年台湾海峡危機、この台湾の民主選挙を中国がミサイルで恫喝した危機はアメリカ海軍が台湾海峡へ空母二隻を展開させる事で封じる事が出来ました、空母二隻と中国海軍の全戦力と空軍の半分が等価交換であり、中国首脳部は武力挑発を断念しました、があれから21年、中国海軍は毎年二桁の国防費増大を続けてきました、戦力は確かに向上している。

 赤城や加賀、翔鶴や瑞鶴、アメリカ海軍がシーパワーにおいて大きな挑戦を受けたのは1940年代まで遡らねばなりません、これは冷戦時代にソビエト海軍がスターリン時代の大海軍再建を期しつつ沿岸海軍型の海軍戦略、フルシチョフ時代の大型艦否定論の中で、ゴルシコフ海軍戦略という守勢を念頭とした海軍戦略が進められた点と比較し対照的といえます。

 アメリカ海軍、現在は空母10隻体制となっていますが、冷戦時代のように15隻、メガキャリアーと呼ばれる空母航空団を搭載可能という航空母艦が有れば、抑止できたでしょう。しかし、アメリカは2001年から2019年の今日に至るまで同時多発テロ以降のテロとの戦いに備えて、軽装甲車や無人機等に重点を置きました、これらは大国間では役に立たない。

 中東や中央アジア地域での対テロ戦争に大量の資材をアメリカが投入していた2001年同時多発テロからの十五年間、ある種失われた十五年間、といえたのかもしれません。森林と都市は兵を呑む、とはこの二領域では戦域優位確保に膨大な歩兵戦力を要する為に避けるべき、戦術の基本と考えられていますが、非対称の戦いでは結果その限りではありません。

 結果、膨大な歩兵用防爆車両や個人防護装備の整備に費用を要し、引き換えにズムウォルト級駆逐艦量産断念やF-35戦闘機量産遅延、F-22戦闘機生産縮小といった従来型戦争における正面装備の計画縮小や中止が相次いでいます。この間に正面戦力を整えていた中国海軍と航空戦力が、アメリカ軍へ挑戦できる位置へ、気付けば足元まで迫っていた、という。

 新しいアプローチが必要となるように思う。ただ、ミサイルギャップといいますか、長射程ミサイル飽和攻撃にはそれ程懸念を抱かずとも対応できるよう考えます、何故ならばアメリカ海軍はソ連海軍の各種巡航ミサイルに対して元々劣勢であり、これを許容したのは空母航空団という圧倒的打撃力が前提であり、飽和攻撃以前に阻止する前提であった為で。

 対艦弾道弾、という新しい脅威がイージス艦の手の届かないところから狙う、という中国の挑戦も、イージスミサイル防空システムは、スタンダードSM-3が中間段階でSM-6が終末段階での弾道弾迎撃が可能であり、イージス艦という冷戦型の装備を育て続けた現状に活路は見出せます。しかしその前に、脅威を認識した、ということが重要なのでしょう。

 数千のミサイルによる飽和攻撃、宇宙からの挑戦、冷戦時代の米ソ対立が現代まで継続していたならば恐らくアメリカ海軍はその対処法を構築していたのでしょう。逆に言うならば、ナンバー1からオンリー1という圧倒的な打撃力を過信し、新しい挑戦者への備えよりも2001年同時多発テロ以降のテロとの戦いへ戦力偏重した結果が、突き付けられている。

 現在のままでは限界は有り得、例えば空母打撃群に駆逐隊を1個増強する、スタンダードSM-6等射程数百kmの艦対空ミサイルを強化し垂直発射装置への同時搭載能力を高める、日米が進める弾道ミサイル迎撃能力の更なる強化、現在50機となっている航空団定数を空母が搭載出来る最大値である70機へ戻す、F-35C戦力化を急ぐ等、施策は必要でしょう。


北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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