北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

南シナ海は第二のオホーツク海となる【3】南洋閉ざす中国の“核の海”“竹のカーテン”建設

2019-05-23 20:17:38 | 防衛・安全保障
■日本-アジア間シーレーン遮断
 南シナ海がこのままでは中国により排他的な海域となる、という理解は誤解です。本論が示すような戦略原潜の聖域となれば排他的でなく、拒絶的で遮断されるのが正しい。

 中国が高める核報復力、南シナ海に潜む戦略原潜、というロイター特集があります。アジアにらむミサイル増強-米空母が無力化される懸念、というものとシリーズ化されているので、中国が南シナ海において進める不可解な人工島建設の意図について、驚かされる視点を提示しています。要するに南シナ海が文字通り第三国が航行できなくなる可能性です。

 南シナ海は第二のオホーツク海となる、本特集の主題ですが、中国軍が強大な戦力を整備しアメリカに対し拒否の姿勢を誇示できる水準まで高めようとしている、という認識は当方にもありました001A型航空母艦の量産等が典型です、可能性として巨大化した経済力までを駆使し、中国がかつてのソ連に近い水準を目指すのではないか、とは考えていました。

 核の海、これは戦略ミサイル原潜を遊弋させる聖域を示します。冷戦時代にはソ連海軍はオホーツク海を充てていました。戦略ミサイル原潜は地上の大陸間弾道ミサイルICBM基地が核攻撃を受けて全滅した際に備え、海中に退避させておく第二次反撃核戦力です。戦略ミサイル原潜が敵の攻撃型原潜に破壊されないよう、敵の来ない聖域が必要となります。

 オホーツク海にあたる中国の聖地は何処か。ソ連は冷戦時代にアメリカの核による奇襲に備える戦略ミサイル原潜の聖域をオホーツク海に見出していました、ウラジオストック軍港から近く千島列島とカムチャツカ半島があり、ムルマンスクが置かれるバレンツ海のように敵の攻撃型原潜が侵入しにくく、日本の北海道北部には日米海軍基地はありません。

 晋級戦略ミサイル原潜、中国が大車輪で建造を進めている戦略ミサイル原潜です。実は過去に中国は戦略ミサイル原潜の建造を試みましたが、技術的な問題に突き当たり一隻のみ建造し量産を断念しました。しかし2007年から晋級戦略ミサイル原潜の量産が開始され、まさか21世紀に核軍拡競争を仕掛けるとは思わず、虚を突かれた構図となっていました。

 中国にとってのオホーツク海は渤海が此処に当るのだろう、と個人的には考えていました、旅順に近く歴史的にも海軍戦力があります。韓国の鎮海基地と済州島基地がありますが、ここを有事の際に制圧してしまえば、と。ただ、渤海は狭すぎたのでしょう、アメリカのシーウルフ級原潜が浸透した場合、中国は晋級戦略ミサイル原潜を護れない判断なのか。

 マラッカ海峡とカリマンタン海峡にバシー海峡とバラバック海峡を閉鎖するだけで南シナ海は事実上中国の内海となり得る。南シナ海であれば奥行きが深く、何より渤海湾と比較して水深も深い。中国本土と南海艦隊主力の支援を受けられると共にヴェトナムやフィリピンの環礁を武力奪取し人工島化した軍事施設により、複郭化した多段防御が可能となる。

 オホーツク海と南シナ海、しかし最大の相違点は、オホーツク海がソ連以外に日本の北海道しか存在せず、良好な漁場ではありましたが重要な通商路ではありませんでした。対して南シナ海は、フィリピンとヴェトナムにマレーシアとインドネシアにブルネイという各国の領海と排他的経済水域が延びています。ここを中国が占有しては各国は死活問題だ。

 日本のシーレーンから考えた場合でも致命的な問題です。中東からの石油タンカーは、例えばマラッカ海峡が閉鎖された場合でもアンダマン海を経由するならば、その航程は二日ほどの違いといいます、中国と全面戦争を試みるかタンカー二日遅延か、と問われれば後者の方が妥当でしょう。しかし、南シナ海全域の航行が難しくなった場合、どうでしょう。

 東南アジア諸国と日本のシーレーンがある訳で、石油だけは確保出来たとしても例えば日本からマレーシアまでアンダマン海を経由し物流を維持する場合と南シナ海を経由するのでは根本から所要時間が違います、京都から東京へ鉄道で行く際に東海道新幹線を使わず、北陸本線と上越新幹線を用いるようなもので、大変な迂回路になります。これと同じこと。

 南シナ海ではヴェトナムへは南シナ海を経由しなければ航行できません。少なくとも、戦略ミサイル原潜の聖域という既成事実が成立した後で抗議したとしても、その時点で中国は相当の資材と予算をつぎ込んだ後ですので、引くに引けない状況が成立します。れこを見越して、豪州以遠は陸路で東南アジアと物流を結ぶ事を検討するのは見当違いでしょう。

 南シナ海への認識、重要なのは中国が南シナ海を資源開発のために進出を強化しているのではなく、戦略ミサイル原潜の聖域を確保する為に拠点構築を進めている、という認識へ改める事です。資源開発ならば、環礁を奪取されたフィリピンやヴェトナムには許容しがたい問題ではありますが、その見返りに経済支援等が多数あるならば、妥協はあり得る。

 しかし、戦略ミサイル原潜の聖域となるのであれば、有事の際にその海域へ接近が拒否されるという様な甘い物ではなく、平時から東南アジア諸国海軍の行動が拒否されるようになり、特に戦略ミサイル原潜を探知し得る水上戦闘艦に対しては拒絶といえる行動が平時からとられる状況となるでしょう、無論有事の際には一切入れない、それが聖域なのです。

 現状そうでないという反論は成り立ちません。中国海軍は航行の自由作戦を人工島付近で行われた際には抗議は行うが、抗議以上は行わない、という反論は成り立たないのです、何故ならば現状では抗議以上の事を行った結果に耐えられるほどの準備が行えていない為の抗議に留まるのであり、準備完了の後にも抗議以上の行動を行わない保証はありません。

 竹のカーテン、とでもいうべきでしょうか。チャーチル首相のフルトン演説における米ソ冷戦を示す鉄のカーテンではありませんが、南シナ海に竹のカーテンが降ろされようとしているのかもしれません。現在は建設途上ですが、中国、核の海が完成した際に南シナ海に降ろされる竹のカーテンは竹が浮力を持つように一旦降ろされれば簡単には消えません。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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