■かわぐちかいじ話題作映画化
水曜日夜といえば中島貞夫の邦画指定席、微妙に古い地域限定話題で恐縮です。その懐古企画というわけではありませんが水曜夜という事で今回は邦画話題を。

空母いぶき、かわぐちかいじ氏の連載漫画の映画化についていよいよ今月公開となるようで、映画館やテレビCMと書店で広告が溢れています。実はこの作品、当方読んだことがありません。一巻の半分くらい、某病院前の喫茶店で読んだのですが。この読んだことのない作品の感想を紹介といいますか批評することは若干良心が咎めるのですが、敢えて側聞する内容とともにいくつかの気になった視点を。

劇場版空母いぶき公開が2019年5月24日と発表され新しい予告編も開示されました。いぶき、くらま、と来たらば次は新鋭いぶき、とはかつての装甲巡洋艦のようですが、海上自衛隊の新型軽空母が中国海軍新型空母を相手に戦うという話題のマンガを堂々実写化です。どこまで描けるのか、映画化発表から一年、いよいよ公開日程が示された訳ですね。

かわぐちかいじ氏、沈黙の艦隊、ジパング、軍靴の響、など様々な作品で世界観を展開させています。沈黙の艦隊、護衛艦の食堂に置かれている事が微妙に多い作品で、冷戦末期に海上自衛隊がアメリカからシーウルフ級原潜を秘密裏に導入した際に艦長が世界へ核兵器の国連管理を掲げアメリカ海軍と日本政府へ叛乱を起こす、という内容で注目されます。

ジパング、政情不安下の南米某国沖での日米合同演習へ向け出港した最新鋭イージス艦が太平洋上でミッドウェー海戦の最中にタイムスリップし、イージス艦が戦時中に現れる事での歴史への悪影響と人命について難題を突き付けられ、イージス艦の軍事利用を企図する勢力との衝突を描いた作品です。双方ともアニメ化は実現しますが実写化はありません。

沖縄県南部において中国海軍の新型空母と海上自衛隊のF-35B搭載護衛艦が全面戦闘に展開する、この原作を映画化すると発表されたのは2018年2月でした。西島秀俊と佐々木蔵之介と藤竜也が主演、監督は若松節朗、最も印象深いのは映画ホワイトアウト、映画化不可能と云われた真保裕一原作山岳小説を織田裕二と佐藤浩市主演で映像化した監督ですね。

映画は出来てのお楽しみ、というところですが、原作について最初の部分、どうしても気になります部分を一つだけ指摘しておきたい。それは艦長が航空自衛官という事です。海上自衛隊ではなく航空自衛隊が移動基地として全部自前で運用するならば有り得るのかもしれませんが、海上自衛隊の艦長の役割について、一寸原作者の方の理解が違うようです。

F-35AがF-35B役で出てくるのか、護衛艦いずも艦上でのロケくらいはできるのか、映画の内容はまだ未知数なのですが、原作では艦長が航空自衛官、副長が海上自衛官という設定、アメリカ海軍では空母艦長は艦載機乗り、という伝統を踏襲したことで、一つの摩擦が、たぶんその後友情かな、という展開がありました。これ、海上自衛隊ではあり得ない。

日米の艦長にかんする責任といいますか、ここの価値観が違います。もっともアメリカ海軍でも間違えても空軍の士官が艦長になることもありえないのですが。艦長は自衛隊では艦の責任を負う、自衛艦旗を背負う存在なのですが、米海軍では指揮官なのですよね、故に責任は安全よりは軍艦の戦術戦略面での立場が重く、本作最初に違和感を受けた印象だ。

アメリカ海軍では軍艦同士の衝突事故が発生した場合でも、艦長が例えば就寝中や食事中であった場合は免責されます、軍法会議にも出廷しなくても良い、しかし、当直士官が責任を問われる。自衛隊ではイージス艦あたご事故を見るまでもなく、艦長に責任が及ぶ。故に艦長には操艦技量とシーマンシップが求められます。ここについて日米は違います。

艦載機搭乗員が空母艦長を担う、アメリカ海軍の伝統です。ハルゼー提督、例えば第二次世界大戦中の闘将というべき提督ですが、アメリカ海軍の草創期における空母機動部隊基礎を育てました。もともと飛行気乗りではなく、なにしろ海兵卒業時点が日露戦争の時代、でしたが空母艦長着任の際に一から搭乗員訓練を修了し、着艦資格まで実力で採っている。

ハルゼー提督の時代からアメリカ海軍では航空部隊指揮官は航空搭乗員である事が求められ、新装備たる航空母艦艦長も例外ではありませんでした、要するに艦載機の運用において艦位や発着へどのように操艦するのかは、実際に搭乗員でなければわからない、という現場の意見が反映された為の措置なのですね。しかし、空軍から艦長は採りません。

アナポリス海軍兵学校において、実は空母艦載機搭乗員であっても練習船での操船技術は履修します。自衛隊も防衛大学校出身幹部はカッター漕艇や水泳の教育はあるのですが、海軍兵学校ほど、基礎教養としての艦船運用に特化した教育は、なにしろ陸海空自衛隊何処へ任官するか決定する前には有りません。すると、航空自衛官の操艦には少々無理が。

ヘリコプター搭載護衛艦の副長には航空幹部が補職される、海上自衛隊では艦長に大きな責任があると共に、しかし艦船と航空機の連接に必要な専門視点を即座に艦長が頼る事が出来る飛行長を副長、とする事は多いようです。実際、無理のない設定として考えますと艦長人事、こちらが、映画といいますか、原作で説得力を持つようにも思うのですが、ね。

ジャーヴィス艦長を1913年に命じられ、その後も駆逐艦艦長を続けたハルゼー氏は獰猛な駆逐艦による強襲戦術で知られ、その後海軍大学校へ。将来の航空母艦及び海軍航空指揮官を期して1934年にペンサコラ飛行学校へ入校を命じられます。母艦搭乗員資格を取ったのは御年53歳、若い候補生と共に低い成績を甘受し、一切妥協せず母艦飛行徽章を取った。

サラトガ艦長となったハルゼー提督は海軍大佐時代、それこそ多大な努力を経て駆逐艦艦長から空母艦長へ努力しているのですね。空母いぶき、所詮漫画だから説得職などは二の次で面白ければよい、と切り捨てる事は出来るのかもしれませんが、海上防衛隊や日本海上軍というような架空名称ではなく海上自衛隊としてリアル指向を示すならば、一寸、ね。

いぶき艦長を目指す艦長候補が、こんな設定ならば有り得た、頑張って艦艇幹部から航空幹部へ転換教育に挑み、小型護衛艦艦長から小月航空基地にて慣れないT-5練習機に挑み、その上で下総航空基地にてP-3C哨戒機、アメリカ海軍留学にて周りから冷やかされつつT-45練習機を経てF-35B艦上操縦資格を取った上で、いぶき艦長に、ならば有り得たか。

かが、海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦ですが、この護衛艦かが、いずも、いずも型護衛艦へF-35B戦闘機運用能力を付与した改良型、という設定で空母いぶき、が建造されるという設定です。いずも型と異なりスキージャンプ台というSTOVL航空機の発進設備が追加されている、という設定です。この空母いぶき、が建造された背景に沖縄防衛という設定が。

中国海軍と海上自衛隊の沖縄を舞台とした限定戦争、これを映画化する事は政治的に可能なのか、例えば海上自衛隊へ撮影揚力を求めた結果に内容へ大きく干渉され駄作となった映画亡国のイージス、戦国自衛隊1549という歴史、脚本に干渉されないよう自衛隊全面不協力で手探りの自衛隊描写を期した結果予算が出来に現れた映画宣戦布告、等を思い出す。

トップガン、同盟国を見ますとアメリカ海軍は原子力空母エンタープライズと空母レンジャー艦上での撮影を許可し、燃料など実費映画会社負担にてF-14戦闘機による撮影を許可したアメリカ映画では、内容に航行不能となった情報収集船支援という名目ではあっても、アメリカ海軍とソ連空軍機が戦闘に展開する内容に撮影協力した事例はありますが、日本はどうも慎重だ。この点も含めて、映画はどうなるのか、興味深いですね。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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水曜日夜といえば中島貞夫の邦画指定席、微妙に古い地域限定話題で恐縮です。その懐古企画というわけではありませんが水曜夜という事で今回は邦画話題を。

空母いぶき、かわぐちかいじ氏の連載漫画の映画化についていよいよ今月公開となるようで、映画館やテレビCMと書店で広告が溢れています。実はこの作品、当方読んだことがありません。一巻の半分くらい、某病院前の喫茶店で読んだのですが。この読んだことのない作品の感想を紹介といいますか批評することは若干良心が咎めるのですが、敢えて側聞する内容とともにいくつかの気になった視点を。

劇場版空母いぶき公開が2019年5月24日と発表され新しい予告編も開示されました。いぶき、くらま、と来たらば次は新鋭いぶき、とはかつての装甲巡洋艦のようですが、海上自衛隊の新型軽空母が中国海軍新型空母を相手に戦うという話題のマンガを堂々実写化です。どこまで描けるのか、映画化発表から一年、いよいよ公開日程が示された訳ですね。

かわぐちかいじ氏、沈黙の艦隊、ジパング、軍靴の響、など様々な作品で世界観を展開させています。沈黙の艦隊、護衛艦の食堂に置かれている事が微妙に多い作品で、冷戦末期に海上自衛隊がアメリカからシーウルフ級原潜を秘密裏に導入した際に艦長が世界へ核兵器の国連管理を掲げアメリカ海軍と日本政府へ叛乱を起こす、という内容で注目されます。

ジパング、政情不安下の南米某国沖での日米合同演習へ向け出港した最新鋭イージス艦が太平洋上でミッドウェー海戦の最中にタイムスリップし、イージス艦が戦時中に現れる事での歴史への悪影響と人命について難題を突き付けられ、イージス艦の軍事利用を企図する勢力との衝突を描いた作品です。双方ともアニメ化は実現しますが実写化はありません。

沖縄県南部において中国海軍の新型空母と海上自衛隊のF-35B搭載護衛艦が全面戦闘に展開する、この原作を映画化すると発表されたのは2018年2月でした。西島秀俊と佐々木蔵之介と藤竜也が主演、監督は若松節朗、最も印象深いのは映画ホワイトアウト、映画化不可能と云われた真保裕一原作山岳小説を織田裕二と佐藤浩市主演で映像化した監督ですね。

映画は出来てのお楽しみ、というところですが、原作について最初の部分、どうしても気になります部分を一つだけ指摘しておきたい。それは艦長が航空自衛官という事です。海上自衛隊ではなく航空自衛隊が移動基地として全部自前で運用するならば有り得るのかもしれませんが、海上自衛隊の艦長の役割について、一寸原作者の方の理解が違うようです。

F-35AがF-35B役で出てくるのか、護衛艦いずも艦上でのロケくらいはできるのか、映画の内容はまだ未知数なのですが、原作では艦長が航空自衛官、副長が海上自衛官という設定、アメリカ海軍では空母艦長は艦載機乗り、という伝統を踏襲したことで、一つの摩擦が、たぶんその後友情かな、という展開がありました。これ、海上自衛隊ではあり得ない。

日米の艦長にかんする責任といいますか、ここの価値観が違います。もっともアメリカ海軍でも間違えても空軍の士官が艦長になることもありえないのですが。艦長は自衛隊では艦の責任を負う、自衛艦旗を背負う存在なのですが、米海軍では指揮官なのですよね、故に責任は安全よりは軍艦の戦術戦略面での立場が重く、本作最初に違和感を受けた印象だ。

アメリカ海軍では軍艦同士の衝突事故が発生した場合でも、艦長が例えば就寝中や食事中であった場合は免責されます、軍法会議にも出廷しなくても良い、しかし、当直士官が責任を問われる。自衛隊ではイージス艦あたご事故を見るまでもなく、艦長に責任が及ぶ。故に艦長には操艦技量とシーマンシップが求められます。ここについて日米は違います。

艦載機搭乗員が空母艦長を担う、アメリカ海軍の伝統です。ハルゼー提督、例えば第二次世界大戦中の闘将というべき提督ですが、アメリカ海軍の草創期における空母機動部隊基礎を育てました。もともと飛行気乗りではなく、なにしろ海兵卒業時点が日露戦争の時代、でしたが空母艦長着任の際に一から搭乗員訓練を修了し、着艦資格まで実力で採っている。

ハルゼー提督の時代からアメリカ海軍では航空部隊指揮官は航空搭乗員である事が求められ、新装備たる航空母艦艦長も例外ではありませんでした、要するに艦載機の運用において艦位や発着へどのように操艦するのかは、実際に搭乗員でなければわからない、という現場の意見が反映された為の措置なのですね。しかし、空軍から艦長は採りません。

アナポリス海軍兵学校において、実は空母艦載機搭乗員であっても練習船での操船技術は履修します。自衛隊も防衛大学校出身幹部はカッター漕艇や水泳の教育はあるのですが、海軍兵学校ほど、基礎教養としての艦船運用に特化した教育は、なにしろ陸海空自衛隊何処へ任官するか決定する前には有りません。すると、航空自衛官の操艦には少々無理が。

ヘリコプター搭載護衛艦の副長には航空幹部が補職される、海上自衛隊では艦長に大きな責任があると共に、しかし艦船と航空機の連接に必要な専門視点を即座に艦長が頼る事が出来る飛行長を副長、とする事は多いようです。実際、無理のない設定として考えますと艦長人事、こちらが、映画といいますか、原作で説得力を持つようにも思うのですが、ね。

ジャーヴィス艦長を1913年に命じられ、その後も駆逐艦艦長を続けたハルゼー氏は獰猛な駆逐艦による強襲戦術で知られ、その後海軍大学校へ。将来の航空母艦及び海軍航空指揮官を期して1934年にペンサコラ飛行学校へ入校を命じられます。母艦搭乗員資格を取ったのは御年53歳、若い候補生と共に低い成績を甘受し、一切妥協せず母艦飛行徽章を取った。

サラトガ艦長となったハルゼー提督は海軍大佐時代、それこそ多大な努力を経て駆逐艦艦長から空母艦長へ努力しているのですね。空母いぶき、所詮漫画だから説得職などは二の次で面白ければよい、と切り捨てる事は出来るのかもしれませんが、海上防衛隊や日本海上軍というような架空名称ではなく海上自衛隊としてリアル指向を示すならば、一寸、ね。

いぶき艦長を目指す艦長候補が、こんな設定ならば有り得た、頑張って艦艇幹部から航空幹部へ転換教育に挑み、小型護衛艦艦長から小月航空基地にて慣れないT-5練習機に挑み、その上で下総航空基地にてP-3C哨戒機、アメリカ海軍留学にて周りから冷やかされつつT-45練習機を経てF-35B艦上操縦資格を取った上で、いぶき艦長に、ならば有り得たか。

かが、海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦ですが、この護衛艦かが、いずも、いずも型護衛艦へF-35B戦闘機運用能力を付与した改良型、という設定で空母いぶき、が建造されるという設定です。いずも型と異なりスキージャンプ台というSTOVL航空機の発進設備が追加されている、という設定です。この空母いぶき、が建造された背景に沖縄防衛という設定が。

中国海軍と海上自衛隊の沖縄を舞台とした限定戦争、これを映画化する事は政治的に可能なのか、例えば海上自衛隊へ撮影揚力を求めた結果に内容へ大きく干渉され駄作となった映画亡国のイージス、戦国自衛隊1549という歴史、脚本に干渉されないよう自衛隊全面不協力で手探りの自衛隊描写を期した結果予算が出来に現れた映画宣戦布告、等を思い出す。

トップガン、同盟国を見ますとアメリカ海軍は原子力空母エンタープライズと空母レンジャー艦上での撮影を許可し、燃料など実費映画会社負担にてF-14戦闘機による撮影を許可したアメリカ映画では、内容に航行不能となった情報収集船支援という名目ではあっても、アメリカ海軍とソ連空軍機が戦闘に展開する内容に撮影協力した事例はありますが、日本はどうも慎重だ。この点も含めて、映画はどうなるのか、興味深いですね。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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