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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

南シナ海は第二のオホーツク海となる【1】ロイター“特別リポート-中国習近平の強軍戦略”

2019-05-13 20:04:26 | 防衛・安全保障
■核の海となる南シナ海
 日本の防衛と云えば、南西諸島と九州が防衛正面となっていますが、その緊張度の源流を辿りますと、実はその源流では憂慮すべき状況が進行中となっています。

 冷戦時代は核大国が核兵器を突き付け合う悪夢の時代でありつつ、しかし過ぎ去った過去のように考えられていましたが、21世紀、平成の次の令和の時代に入り、今更ながら七十年遅れの核軍拡競争を始めようとしている国が存在します。そして、戦略ミサイル原潜により、南シナ海、東南アジアの中央部の海が、新しい“核の海”へと変貌しつつあります。

 オホーツク海は北海道とロシア本土の間に広がる広大な海であり、太平洋とはカムチャツカ半島と千島列島が隔てています。そして遡る事平成以前の昭和、冷戦時代にはソビエト連邦海軍の聖域となっていました。聖域とは文字通りのものでアメリカ海軍や海上自衛隊の行動を全力で抑止する閉鎖海域であり、ここに戦略ミサイル原潜が遊弋していたという。

 戦略ミサイル原潜は射程9000kmから15000kmの潜水艦発射弾道弾SLBMを十数発搭載し海中に潜む、SLBMは各基に数発の500ktから2mtの核弾頭を搭載しており、一隻の戦略ミサイル原潜が投射する核戦力は絶大です。この戦略ミサイル原潜は世界最後の日、最後の切り札、アメリカとソ連が海中に隠すように核のパトロールとして運用していました。

 全面核戦争において陸上の硬質地下サイロに収められた大陸間弾道弾は、そのものが偵察衛星により位置が把握され核攻撃の標的となります、その為に第一撃として運用されるのですが、相手の第一撃でICBMが破壊された場合に、常に海中を移動する戦略ミサイル原潜からのSLBMが切り札となる。だからこそ戦略ミサイル原潜は聖域、核の海へと潜む。

 オホーツク海はソ連にとり、聖域化しやすい条件が揃いました、北海道北部に海上自衛隊基地艦艇は無く、日本の通常動力潜水艦は余り奥へは進めません。アメリカの攻撃型原潜は、ソ連海軍の対潜巡洋艦等を動員するならば、行動の抑止は出来た。一方でオホーツク海に面する北海道は常にたいへんな軍事圧力を受け続け、自衛隊は4個師団を置きました。

 しかし、あの冷戦時代のオホーツク海、これと似た状況が南シナ海という、日本の直ぐ南、日本のシーレーンが通る真下に醸成されつつあるのかもしれません。この海域での基地建設や人工島と戦略ミサイル原潜整備は紛れもないその徴候であり、看過した場合には非常に懸念すべき状況、北東アジア地域を含め平和が維持できなくなる事ともなるでしょう。

 ロイター通信が“特別リポート-中国習近平の強軍戦略”としまして、中国軍の急速な軍拡に関しての方向性を分析する四特集を発表しました。この軸は米中軍事対立の顕在化を前に、中国軍のこれまで不可解且つ急速な軍拡が一つの方向性を有している点を衝いています。ただ、この問題領域において大きな関心事は、この対立に日本が巻き込まれる点です。

 米中対立は、南シナ海を中心に中国が南シナ海の聖域化を図る事で発生し得る。ただ、南シナ海を中国が聖域化しようと考える背景を我々は正確に理解できていなかった可能性があります。聖域化といえば、米海軍のアプローチよりも中国海軍が優位性を誇示できる、という状況を中国が目指し、以て東南アジア諸国へ影響力を、という水準に留まらない。

 尖閣諸島問題等で視られるように、海底資源の確保をめざし中国が環礁や島嶼部への圧力を増大させている、こうした従来型の理解では、国際共同開発による中国参画の機会提示や、衝突を避ける為に暫時影響力に離隔を取る、という施策で妥協が成立するよう、一見誤解しかねません。しかし、目的が聖域化、他勢力排除だった場合、妥協可能でしょうか。

 米中対立は形而的なものであり、米ソ間の対立とは隔絶した規模だ、とは核戦力の話です。中国の核開発は毛沢東時代に確立しましたが、最小限核抑止力、中国が毛沢東時代に採用した核戦略は、若干でも水爆を大陸間弾道弾にて投射できる能力を保持する事で、相手に核攻撃を思い留まらせる、というものです。実際2010年代までこの施策は維持されている。

 最小限核抑止力、大陸間弾道弾は30発に留めるものの、中国を核攻撃した場合には30発でも大都市を攻撃できるという黙示が抑止力となった。これは米ソ間が大陸間弾道弾と戦略爆撃機に潜水艦発射弾道弾を用い、一万二千発と一万九千発の核弾頭を突き付け合った時代には、桁が二つほど違う小規模なものでした。しかし、現在、転換期が訪れつつある。

 第三の核大国を目指す中国、2010年代から晋級戦略ミサイル原潜の量産を開始した中国海軍は最小限核抑止力から相互確証破壊、相手を完全に破壊するだけの質的量的核戦力をアメリカに突き付ける体制へ転換しつつあるといえます。これが、間接的に日本の安全保障に重大な影響を及ぼす事となるのです。これは核攻撃が日本へ、という訳ではありません。

 戦略ミサイル原潜を量産するという事は、戦略ミサイル原潜が安全に航行できる海域、核の海が必要となります、中国はこれまで戦略ミサイル原潜を試作以上に進めませんでしたため、原潜の聖域は不要で、あくまで沿岸部のシーレーン防衛へ重点を置くだけでも充分であったのですが、晋級戦略ミサイル原潜が量産されますと、その為の聖域が必要となるのです。

 日本に影響が、というのは中国がアプローチ可能という戦略ミサイル原潜の聖域が、この条件として、中国海軍の掩護を受けられ、中国が閉塞させ得る、地形要件を満たしているのは、南シナ海しか、無いのですね。しかし、ここは日本の重要な通商路、シーレーンが通っており、ここを聖域化されますと、これはシーレーンの遮断をも、同時に意味します。

 シーレーン防衛と簡単に言いますが、天然資源開発のための南シナ海戦友ならば平時に無害通航を相互に受け入れ得る余地はあるでしょう。しかし、原潜の聖域となれば中国以外の水上戦闘艦艇は勿論、タンカー等の商船も排他的に扱う必要があります。つまり、第三の核大国を目指し原潜の聖域を構築する事が、同時に日本シーレーン遮断と同義なのです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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