■二つの価値観の衝突
シーレーンの維持は船団護衛能力の整備という些末な論理ではなく、広く開かれた海という一つの価値観に依拠するものです。
南シナ海は第二のオホーツク海となる、我が国にとってはシーレーン防衛の問題があります。南シナ海は東南アジア諸国と日本とを結ぶ唯一のシーレーンです。マラッカ海峡等点が封鎖される状況とは異なり、南シナ海という面が封鎖された場合は南シナ海にしか沿岸を有さない諸国とは、黒海をロシア海軍に封鎖されたウクライナと似た状態となります。
TPP環太平洋包括連携協定加盟国も南シナ海沿岸にはヴェトナムとシンガポールがあり、TPP加盟へはマレーシアとブルネイが加盟交渉中という現状です。この状況で南シナ海を封鎖されるようなことが有れば、TPP枠組そのものにも大きな脅威となりかねません。そして、中国人工島と戦略ミサイル原潜等という一連の施策が、懸念の可能性を示している。
しかし、もう一つ、シーレーン途絶と共にそのシーレーン回復を求める場合、日本本土の自衛隊施設と在日米軍基地への軍事圧力が増大する可能性があります。軍事圧力というのは、2017年のように中国からの国籍不明機が異常増大し防衛負担が増大する可能性、若しくは東京湾口に中国001A型空母による示威的な航行が行われる可能性さえあるでしょう。
留意事項は南シナ海封鎖の懸念を、中国が資源獲得のために封鎖するのか、戦略原潜の聖域確保のために封鎖するのか、ここで意味が異なります。資源獲得の為であれば資源の確保は代替手段があります、しかし、戦略原潜聖域確保が目的となりますと、戦略原潜の戦略核の用途がアメリカとの全面核戦争への保険でしか無く、米中対立が前提の施策となる。
南シナ海は第二のオホーツク海となる、その上でオホーツク海が核の海となった状況との相違点ですが、ソ連初の核実験が1949年8月29日に実施されていますのに対し、NATO発足は1949年4月4日であり、所謂冷戦構造が本格的な対立に至る前の抑止というものが成り立ちにくい構図がありました。そしてオホーツク海は当時すでにソ連影響下にあった。
現状変更を海軍力で試みるのですから、その時点で深刻な対立が生じうるのですが、例えばアメリカ海軍は中国海軍の戦略ミサイル原潜聖域構築へ賭ける軍事的緊張度の許容度を甘く見た場合は、結果的に非常に大きな武力紛争へ発展する可能性があります。例えば、中国側が局地戦争の覚悟で横須賀基地や佐世保基地を一つの攻撃目標とする可能性、など。
航行の自由作戦を展開するアメリカ海軍イージス艦に対し、中国海軍の大型駆逐艦が進路妨害を行い、船体接触による航路変更、かつて黒海へ展開したアメリカ海軍ミサイル運用艦に対しソ連海軍フリゲイトが試みたような強硬措置というものは考えられます。しかし、アメリカ海軍がこの現状変更を認めない場合、認めようがないのですが、次の段階は何か。
H-6ミサイル爆撃機の編隊が紀伊半島沖まで飛来したのは2017年8月24日の事でした。航行の自由作戦としてアメリカ海軍による南シナ海閉塞阻止、現在は人工島既成事実化阻止が目的ですが、南シナ海閉塞阻止を展開する場合、西太平洋地域におけるアメリカ海軍の拠点は横須賀と佐世保、嘉手納と三沢、この在日米軍基地への圧力増大が考えられます。
この場合、日米中、この北東アジア地域に重要な影響を及ぼす三カ国の認識と云いますか、価値観の相違を共有する事が出来なければ、非常に深刻な結果を結果として醸成する可能性があります。一つは、中国の戦略ミサイル原潜聖域構築への国家事業としての覚悟をアメリカが認識するか、一つはアメリカの中国軍事力軽視による行動、そしてもう一つ。
日本の価値観として、第二次世界大戦を思い出しますと空襲と飢餓、というものがありました。特に海上自衛隊は潜水艦によるシーレーン遮断の経験から、冷戦時代、ソ連海軍の太平洋における主戦力が潜水艦であった事から、対潜戦闘を特に重視し防衛力を整備してきました。シーレーン途絶が飢餓の社会が共有する記憶を刺激する可能性があるという。
国家が有する価値観、シーレーンに関する日本の価値観を以上の通り挙げましたが、これは同時に海洋安全保障に関する国際公序は、価値観としてグローバル化していない、という実情も併せて理解する必要があるでしょう。例えば伝統的ゲオポリティクス論理とシーパワー論理では海洋は自由か接近経路か、という部分でその理解が真逆となっています。
シーパワーの論理では海は敵味方なく広く開かれるべき、というグローバルな視点に基づくものですが、ゲオポリティクス論理ではこの前提を踏まえつつ、ただし我が国周辺海域を除く、と部分的な海洋閉塞を置く。この価値観に齟齬が生じた状況を放置しますと、大きな摩擦と衝突に繋がりかねず、これが現在、南シナ海で置きつつあるのかもしれません。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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シーレーンの維持は船団護衛能力の整備という些末な論理ではなく、広く開かれた海という一つの価値観に依拠するものです。
南シナ海は第二のオホーツク海となる、我が国にとってはシーレーン防衛の問題があります。南シナ海は東南アジア諸国と日本とを結ぶ唯一のシーレーンです。マラッカ海峡等点が封鎖される状況とは異なり、南シナ海という面が封鎖された場合は南シナ海にしか沿岸を有さない諸国とは、黒海をロシア海軍に封鎖されたウクライナと似た状態となります。
TPP環太平洋包括連携協定加盟国も南シナ海沿岸にはヴェトナムとシンガポールがあり、TPP加盟へはマレーシアとブルネイが加盟交渉中という現状です。この状況で南シナ海を封鎖されるようなことが有れば、TPP枠組そのものにも大きな脅威となりかねません。そして、中国人工島と戦略ミサイル原潜等という一連の施策が、懸念の可能性を示している。
しかし、もう一つ、シーレーン途絶と共にそのシーレーン回復を求める場合、日本本土の自衛隊施設と在日米軍基地への軍事圧力が増大する可能性があります。軍事圧力というのは、2017年のように中国からの国籍不明機が異常増大し防衛負担が増大する可能性、若しくは東京湾口に中国001A型空母による示威的な航行が行われる可能性さえあるでしょう。
留意事項は南シナ海封鎖の懸念を、中国が資源獲得のために封鎖するのか、戦略原潜の聖域確保のために封鎖するのか、ここで意味が異なります。資源獲得の為であれば資源の確保は代替手段があります、しかし、戦略原潜聖域確保が目的となりますと、戦略原潜の戦略核の用途がアメリカとの全面核戦争への保険でしか無く、米中対立が前提の施策となる。
南シナ海は第二のオホーツク海となる、その上でオホーツク海が核の海となった状況との相違点ですが、ソ連初の核実験が1949年8月29日に実施されていますのに対し、NATO発足は1949年4月4日であり、所謂冷戦構造が本格的な対立に至る前の抑止というものが成り立ちにくい構図がありました。そしてオホーツク海は当時すでにソ連影響下にあった。
現状変更を海軍力で試みるのですから、その時点で深刻な対立が生じうるのですが、例えばアメリカ海軍は中国海軍の戦略ミサイル原潜聖域構築へ賭ける軍事的緊張度の許容度を甘く見た場合は、結果的に非常に大きな武力紛争へ発展する可能性があります。例えば、中国側が局地戦争の覚悟で横須賀基地や佐世保基地を一つの攻撃目標とする可能性、など。
航行の自由作戦を展開するアメリカ海軍イージス艦に対し、中国海軍の大型駆逐艦が進路妨害を行い、船体接触による航路変更、かつて黒海へ展開したアメリカ海軍ミサイル運用艦に対しソ連海軍フリゲイトが試みたような強硬措置というものは考えられます。しかし、アメリカ海軍がこの現状変更を認めない場合、認めようがないのですが、次の段階は何か。
H-6ミサイル爆撃機の編隊が紀伊半島沖まで飛来したのは2017年8月24日の事でした。航行の自由作戦としてアメリカ海軍による南シナ海閉塞阻止、現在は人工島既成事実化阻止が目的ですが、南シナ海閉塞阻止を展開する場合、西太平洋地域におけるアメリカ海軍の拠点は横須賀と佐世保、嘉手納と三沢、この在日米軍基地への圧力増大が考えられます。
この場合、日米中、この北東アジア地域に重要な影響を及ぼす三カ国の認識と云いますか、価値観の相違を共有する事が出来なければ、非常に深刻な結果を結果として醸成する可能性があります。一つは、中国の戦略ミサイル原潜聖域構築への国家事業としての覚悟をアメリカが認識するか、一つはアメリカの中国軍事力軽視による行動、そしてもう一つ。
日本の価値観として、第二次世界大戦を思い出しますと空襲と飢餓、というものがありました。特に海上自衛隊は潜水艦によるシーレーン遮断の経験から、冷戦時代、ソ連海軍の太平洋における主戦力が潜水艦であった事から、対潜戦闘を特に重視し防衛力を整備してきました。シーレーン途絶が飢餓の社会が共有する記憶を刺激する可能性があるという。
国家が有する価値観、シーレーンに関する日本の価値観を以上の通り挙げましたが、これは同時に海洋安全保障に関する国際公序は、価値観としてグローバル化していない、という実情も併せて理解する必要があるでしょう。例えば伝統的ゲオポリティクス論理とシーパワー論理では海洋は自由か接近経路か、という部分でその理解が真逆となっています。
シーパワーの論理では海は敵味方なく広く開かれるべき、というグローバルな視点に基づくものですが、ゲオポリティクス論理ではこの前提を踏まえつつ、ただし我が国周辺海域を除く、と部分的な海洋閉塞を置く。この価値観に齟齬が生じた状況を放置しますと、大きな摩擦と衝突に繋がりかねず、これが現在、南シナ海で置きつつあるのかもしれません。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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