北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【防衛情報】フィリピン,サブラ戦車大隊新編とT-129戦闘ヘリコプター&ATMOS自走砲到着

2022-03-01 20:22:14 | 防衛・安全保障
■特報:世界の防衛,最新論点
 フィリピン軍は数は少ないが様々な種類の最新装備を導入、一歩間違えれば雑多なモザイクとなりかねませんが再建と云いますか実質治安軍から陸軍へ転換を進めている。

 フィリピン陸軍はイスラエル製サブラ軽戦車の導入を開始する。サブラ軽戦車はスペインGDELS 社製ASCOD装甲戦闘車の車体へイスラエルエルビットシステム製105mm砲塔を搭載したもので、戦闘重量30tとTORCH-XTM戦闘管理システム及びコンバットNG射撃統制を搭載したもので、フィリピン陸軍は20両を1億7200万ドルにて取得します。

 サブラ軽戦車はフィリピン軍が導入する初の新造戦車となります、フィリピンはアメリカ軍より供与されたM-4戦車やM-41戦車以外、まともな機械化装備をもちませんでしたが、2017年に発生したマラウィ騒擾にて浸透した大隊規模のイスラム武装勢力掃討に五カ月を要しまともな戦車が必要となったためです。フィリピン陸軍は15万規模となっています。
■パンドゥールサブラ導入
 チェンタウロや16MCVのような設計ではなく装甲車に105mm砲を搭載したものではあるのですが。

 フィリピン陸軍はサブラ軽戦車に続きパンドゥールサブラ戦車駆逐車10両を2023年までに導入し初の戦車大隊を編成する方針を発表しました。これは導入が決定しているサブラ軽戦車20両と、今回発表されたパンドゥールサブラ戦車駆逐車10両を合せて30両で戦車大隊を編成するもので、定数は30両、所謂主力戦車は含まれませんが初の戦車大隊です。

 パンドゥールサブラ戦車駆逐車はオーストリアが開発したパンドゥール2装輪装甲車にイスラエルのエルビット社が開発したサブラ105mm砲塔を搭載したもので、サブラ軽戦車として導入するオーストリアスペイン共同開発のASCOD装甲戦闘車車体に搭載した砲塔と同型のものとなっています。パンドゥールサブラ戦車駆逐車の導入費用は94億ペソという。

 フィリピン軍はこれまでFV-101スコーピオン装甲偵察車を機甲戦力として運用していますが、稼働率は低く76mm低圧砲を搭載するも弾薬が枯渇し十分な訓練が行えていません。フィリピン軍は1999年に米比両国で行ったJDA統合防衛力評価においてアジア最弱という厳しい指摘が為されており、戦車大隊新編は20年に渡る防衛力強化の一つの到達点です。
■T-129戦闘ヘリコプター
 一機当たり5000万ドルですが日本のように必要でも放置している現状よりは評価できる一歩と云える。

 フィリピン空軍向けT-129-ATAK攻撃ヘリコプター初号機は2021年内に納入される、トルコ政府が発表しました。これはトルコ航空宇宙産業が2億6939万ドルで契約したフィリピン空軍戦闘ヘリコプター6機の導入計画で、フィリピン軍は非正規戦闘などへの対処へ必要性を痛感していた攻撃ヘリコプターの最も安価な機体を導入することとなりました。

 トルコからのT-129は12月14日に出荷、2021年内にフィリピン国内へ到着したとの事です。T-129-ATAK攻撃ヘリコプターはイタリアのアグスタ社、現在のガリレオヘリコプターがA-129マングスタとして開発した機体のトルコ仕様で、マングスタ自体が開発当時にアメリカ製AH-1Sコブラと比較し半分の取得費用で導入できるという安価を重視した機体だ。

 こうした価格を重視して設計されたとのことですが、現在は一機当たりの取得費用は5000万ドルなっていまして、陸上自衛隊が導入したAH-1S対戦車ヘリコプターよりはかなり高くAH-64Dに近いという現代の戦闘ヘリコプターの価格高騰を端的に示しているのかもしれません。フィリピン空軍は2020年7月にこの導入をトルコ政府との間で締結しています。
■ATMOS自走榴弾砲
 数は一ケタ少ないように思うのですが自衛隊で廃棄されるFH-70の譲渡要請などがあるのか。

 フィリピン陸軍向けのATMOS自走榴弾砲が引き渡しを開始したとのこと。これは2021年12月30日にフィリピンへ搬入されたとの事で、イスラエルのエルビットシステムズ社が開発したトラック方式の装輪自走榴弾砲、フィリピン軍のホライゾン2計画として進められる陸軍近代化の主軸で、フィリピン軍が初めて導入する155mm自走榴弾砲となります。

 フィリピン軍の主力野砲は第二次世界大戦中にアメリカより供与された105mm口径のM-101榴弾砲130門と戦後イタリアより導入したOTOメララM-56軽量砲100門、155mm榴弾砲もあるにはありますが、50年前のヴェトナム戦争中に在比米軍が持ち込んだM-114榴弾砲12門を管理替えした程度で近年イスラエルよりM-71牽引砲を導入したばかりです。

 ATMOS自走榴弾砲は52口径155mm榴弾砲を採用、フィリピン軍は2020年4月に12両を4700万ドルにて取得する契約を締結しています。今回の納入は先行する8両、2022年内に残る4両が取得され、フィリピン軍は12両を2個砲兵中隊へ配備するとのこと。L-15砲弾で射程は30kmに達し、ERFB-BB砲弾を用いた際の射程は41kmとされています。
■UMTAS対戦車ミサイル
 自衛隊もそろそろAH-64Eに切替えて調達を再開すべきとも思うのですよね。

 フィリピン空軍が導入するT-129-ATAK攻撃ヘリコプターは最新のトルコ製電子装置を搭載する事が明らかとなりました。機体には20mm機関砲と最大76発のハイドラ70ロケット弾を搭載、またUMTAS対戦車ミサイルの運用能力も有していて、これはトルコが独自に開発したレーザー誘導式のミサイルで限定的な空対空対処も可能とされています。

 更にトルコ製FLIRのASELFLIR-300Tを搭載し夜間戦闘能力も高いとされています、ASELFLIR-300Tは5000mの距離で装甲車両や人員を識別可能であると共に、近年評価を上げているトルコ製無人航空機にも遠距離探知能力が評価されているシステムで、この採用によりフィリピン軍はゲリラ対処以上に限定的な島嶼部防衛にも資する装備といえます。
■中古AH-1Sを取得
 案外自衛隊のAH-1Sも延命改修したならばもう少し寿命を延命できるのかと思いつつTOWミサイルの限界も感じます。

 フィリピン空軍はヨルダン陸軍から提供されたAH-1S対戦車ヘリコプター受領式を行いました。これは2018年にフィリピン政府とヨルダン政府の防衛協力協定締結に際して、AH-1S対戦車ヘリコプター中古機2機の譲渡が発表されていたもので、フィリピンでは新たに導入するトルコ製T-129攻撃ヘリコプター取得に先立つ運用研究等に用いるという。

 AH-1S対戦車ヘリコプターは空輸によりクラーク空軍基地へ搬入されたのちに、メジャーダニロアティエンザ空軍基地の第15航空団へ配備される計画で、操縦要員はヨルダンへ派遣しヨルダン軍による操縦教育課程を経ているとのこと。AH-1SとT-129は機関砲が同じM-197-20mm機関砲であり、操縦ではコックピットも同じタンデム方式となっています。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ハリコフ無差別砲撃,ウクライナ侵攻に"作戦の軍事的稚拙"の印象とソ連時代と違う意思決定

2022-03-01 07:00:22 | 国際・政治
■臨時防衛情報-ウクライナ情勢
 本日も朝に臨時情報を。将来の日本防衛へも影響するでしょう、ロシア軍はウクライナ政府との停戦交渉が無条件降伏に進まない事に対しハリコフ無差別砲撃を開始しました。

 北海道へのソ連軍侵攻が現実のものとなっていたならば、こうした状況となったのでしょうか。なお、ロシア国防省はキエフ市民へキエフからの退避勧告、としましてキエフ南西のヴァルシコフへ安全経路を提示しまして、これはキエフへの核攻撃警告や化学攻撃の予告とも取れます。非常に不快を感じるとともにロシア軍の行動になにか稚拙さを感じるのですね。

 ロシア軍はハリコフへの無差別砲撃を開始しましたが、人道危機であると共に疑問が生じます、ロシアはソ連時代の歴史に学ばないのか。市街地への無差別砲撃は建物を瓦礫の山に変えますが、1943年のスターリングラード攻防戦ではドイツ軍が市街地を無差別砲撃と無差別爆撃により瓦礫の山に変えた結果、無数の死角が逆に自分の首を絞める事になった。

 スターリングラード攻防戦では、瓦礫の山ひとつ一つが対戦車陣地となり、膨大な歩兵と工兵を吸い込む消耗戦の場となりました。今回ロシア軍は機械化部隊を侵攻させています、仮に大規模な化学攻撃を加えるならば事情は変わりますが、親ロシア派住民の多い東部ハリコフで化学兵器の大規模使用は、毒ガスによるロシア系住民殺戮をロシア軍が行う事になる。

 ロシアはソ連時代と比べて政治意思決定がプーチン大統領に集中しすぎており不具合を起こしているのではないか、こうした懸念があります。ソ連もロシアも、こう考えるのはソ連の政治システムへの無理解があります、独裁国家といわれるソ連でも、共産党一党独裁という構図はあっても、その意思決定は政治局の合議制が採られ、ロシアとは違います。

 今回のロシア軍ウクライナ侵攻は、よほど軍事の素人が作戦を立てたのではないかと不安になります。それはロシア軍参謀本部の無能を揶揄するわけでは決してなく、政治が参謀本部との調整を抜きに事実上門外漢による頓珍漢な作戦を立てたという構図があるのではないでしょうか。この侵攻作戦で軍事的に考えると不自然な点を、以下に示しましょう。

 事前攻撃の不徹底と無計画な地上軍力押し。開戦に際してロシア軍は巡航ミサイルや弾道ミサイルによる攻撃を加え、ウクライナ軍の航空戦力を破壊したと発表しましたが、ミサイル攻撃から地上軍侵攻開始まで数時間、当初計画は戦術核兵器でも使用するつもりではなかったのかと疑いたくなるほどの短時間で、実際のところウクライナ空軍は健在でした。

 禁忌である一本道路での無計画な進撃。これは驚きました、余程の素人でなければ立案しません、1944年マーケットガーデン作戦の失敗は勿論、ロシア自身がソ連時代のアフガン侵攻で痛感している筈です。2月28日報道でキエフに向かう5kmの車列、という衛星写真が報道されていますが、あれこそ格好の目標であり、示威的というよりも稚拙的という。

 兵站の無視。これは前述の一本道路にも重なるのですが、戦闘部隊を無計画に投入しており、戦車が一本道で渋滞を起こしていますので、補給車両が通行できません。また、開戦五日で地上部隊の六割が侵攻したと報道されていますが、これらも先鋒部隊の兵站輸送を妨げています、戦闘部隊さえ送れば補給は無くとも、という前提と云わざるを得ません。

 野戦防空の稚拙。ウクライナ軍はトルコ製無人機を作戦に投入しています、当初はロシア軍の防空システムを突破できないものと考えられていましたが、地対空ミサイルが複数破壊されていて、ウクライナ軍発表映像を見る限り、道路上で、つまり稼働していない移動状態に破壊された。2008年南オセチア戦争で痛感した無人機脅威、14年を経て対策が未だ。

 今回の作戦は、政治的な要求で立案されたものではないか。今回感じるのは、ナゴルノカラバフ紛争でのアゼルバイジャン軍が展開した様なマヌーバ、戦術機動を執らず最短距離を力押しし、一本道を逐次投入される部隊が各個撃破されている現状です、これは2010年代にシリアで実施したロシア軍の運用と比較し余りにお粗末だと云わざるを得ません。

 四方向からのウクライナ侵攻、衛星写真などから専門家が苦悩したのは主軸はどの方面なのかという事でした、四方向からでも“全てを求めるものは全てを失う”という軍事常識があり、主攻部隊と補助攻撃部隊を分けねばなりません、均等に分散すれば各個撃破されますから。しかし、今回四方向の部隊を見ますと、ほぼ全て主軸となっているのですね。

 以上の点から軍事視点ではなく政治が作戦を画定した印象を感じます。ロシア軍はソ連時代から作戦研究は盛んであり、分析も西側資料を含め充実したものがありました、しかし、今回は"たくさん集めて&最短距離で&何も考えず進む"という水準です。もちろん損害を度外視すれば勝てるでしょうが、ロシア軍の損耗や経済後退、代償は大きなものとなります。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする