北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【防衛情報】豪州NH-90早期退役とフィリピンのブラモス導入,インド軍アルマータ戦車構想

2022-03-29 20:05:46 | インポート
■週報:世界の防衛,最新12論点
 今週の防衛情報は陸軍関連、戦車にヘリコプターに自走砲に極超音速対艦ミサイルと多彩な12の話題をお伝えします。

 オーストラリア陸軍はNH-90多用途ヘリコプターの早期退役を発表しました、後継としてUH-60多用途ヘリコプター40機を追加取得する方針です。NH-90多用途ヘリコプターは1990年代にアエロスパシアルやアグスタとフォッカー社などが共同出資し設立したNHIインダストリーズ社が設計、現在はエアバスヘリコプターズ社が製造しています。

 NH-90多用途ヘリコプターはオーストラリア陸軍が41機と海軍が陸軍と統合運用の形で6機を運用しています。空虚重量5.4tで最大離陸重量10.6t、ロールスロイスRTM322かGE-T-700エンジン双発で兵員20名を空輸可能、これはUH-60の空虚重量4.8tと最大離陸重量10.66tよりも若干大型ですが、後部にカーゴハッチを有し天井が高い点が特色です。

 オーストラリア陸軍がNH-90を導入したのは2005年で旧式化したUH-1Hの後継機として導入しました。更にUH-60の後継機としても導入しています。当初、2037年までNH-90を運用する計画でしたが、稼働率を維持する為の整備費用が当初想定をはるかに超えて高く運用継続を断念しました。後継としてUH-60系統最新のUH-60Mが導入されるもよう。
■豪州NH-90後継機はUH-60
 NH-90の稼働率はやはり豪州の域内整備が要因なのでしょうか気象気候の要因なのでしょうか。

 オーストラリア陸軍はNH-90多用途ヘリコプターの早期退役背景には。NH-90は現在も製造が続く優秀なヘリコプターとされています、しかし、開発当時にはドイツ連邦軍において20名の定員に対し完全武装のドイツ兵を20名収容できない、標準的な装備の兵員2名が同時に後部扉を利用できない強度の弱さ、ホイスト運用能力の低さが指摘されている。

 NH-90そのものはオーストラリア以外にフランスやドイツとイタリアやスペイン、オランダ、ノルウェー、フィンランドにニュージーランド、オマーンやカタールでも運用されていますが顕著な問題はありません。オーストラリア軍仕様はNRH-90といい、プリスベンのエアバス子会社オーストラリアエアロスペースが製造し維持部品等も供給しています。
■オースリアのCAVSプログラム
 オーストラリアからオーストリアの話題ですがフロントガラスを配置した輸送車的なパトリア装甲車、意外と自衛隊が検討しているAMVよりも日本向きやも。

 スウェーデンはパトリア装甲車CAVSプログラムへの参加を発表しました。CAVSとはCommon Armored Vehicle Systemの略称で、フィンランドが開発したパトリア装甲車シリーズの共同開発計画です。パトリア装甲車は陸上自衛隊がパトリアAMV装甲車を評価試験中ですが、パトリア装甲車にはフロントガラスを配置した輸送車型の装甲車も存在します。

 CAVSプログラムはフィンランドの提唱に際しラトビアやエストニアが参加しており、研究開発とともに多国間国際分業による生産も実施、即納も可能であり、ラトビアは2021年8月に200両を発注しますと最初の車両は10月末に納入され、単なる優先顧客扱いではなく、共通部品プールなどで参加国がステイクホルダーとなる点が、このプログラムの特色です。
■ウクライナへジャベリン供与
 熱線画像誘導方式のジャベリンはアクティヴ防護装置の無い戦車には天敵の様なもの。

 ウクライナへジャベリン対戦車ミサイルなどアメリカの防衛協力供与装備が到着した、これは12月12日にアメリカ国務省が発表したもので、6000万ドル相当の防衛協力援助となる。2022年初頭には対迫レーダー4基を含む高度な防衛用の装備品が供与される。アメリカのウクライナへの防衛協力は2021年だけで4億5000万ドルに達するとのこと。

 ウクライナ領であったクリミア半島をロシアが併合して以来、ウクライナへのアメリカの防衛協力は強化され、既に援助規模は25億ドルに達している、また訓練支援もフロリダ州兵をウクライナへ派遣し訓練すると共に在欧米軍特殊作戦部隊はウクライナ軍特殊部隊訓練支援も行っているとされる。防衛協力には対戦車ミサイル等致死性装備も含まれている。
■ウクライナ新型自走迫撃砲
 ロシアの軍事圧力の更なる増大を受けて各種装備を泥縄的ながら大車輪で揃えています。

 ウクライナ軍は最新鋭のBARS8MMK自走迫撃砲を受領しました。これはウクライナのウクロボロン公社が独自に開発したBARS-8耐爆車両に車載式120mm迫撃砲を搭載したもので、車高の高い四輪駆動耐爆車両の後部扉に一体化した迫撃砲を搭載、迫撃砲は後部扉と一体化、射撃は停車し駐鋤と砲身が一体化した後部扉を路面に展開させて射撃する。

 BARS8MMK自走迫撃砲は戦闘受領10tでSTANAG4569のレベル2の防護力を備え、乗員3名で停車から射撃までは30秒間で毎分12発を射撃可能、射撃から陣地変換までは20秒間という。120mm迫撃砲の射程は8kmで車内には60発の砲弾を搭載しています。エンジンはカミンズ社製350hpディーゼルエンジンを搭載し最高速度は120km/hを発揮します。
■ポーランドが余剰クーガー取得
 自衛隊のブッシュマスターと同様の治安任務を重視した野戦車輛のひとつ。

 ポーランド陸軍はアメリカより余剰クーガーMRAP耐爆車両300両を導入します。クーガーMRAP耐爆車両は四輪駆動式でポーランド軍はISAFアフガニスタン国際治安支援任務参加の際に展開させたパトリアAMV装甲車を補完する車両として2004年にアメリカ海兵隊よりクーガーMRAP耐爆車両40両を受領しており、現地での運用実績があります。

 クーガーMRAP耐爆車両300両は輸送費用と教育費用等を合せて2750万ドルの費用となりますが、もともと一両は100万ドルを要する車両です。決定したのは2021年12月ですが、アメリカ軍は2022年第1四半期のポーランド軍への引き渡しを予定しており、ポーランド軍では非装甲のハンヴィー高機動車をクーガーMRAP耐爆車両へ置き換える予定です。
■ウィーゼル軽装甲車無人型
 自衛隊で云えば軽装甲機動車を無人化させて前線輸送や負傷者搬送に斥候や尖兵任務に充てる様な感じでしょうか。

 ドイツのラインメタル社は12月9日、ウィーゼル装甲車を改造したロボット車両を発表した。ロボット車輛は物資輸送など既に実用化されている技術とともに、武装させ敵の防御力を斥候する能力を将来的に付与させる構想で、遠隔操作による運用は勿論、完全自律による自動運用やコンボイモードとして特定車輛や歩兵に随伴し車列を組む能力がある。

 ウィーゼル装甲車はドイツ連邦軍が空挺部隊用に開発した装軌式装甲車である、その重量はCH-53重輸送ヘリコプターへ搭載するべく2.8tと軽量だが大胆な傾斜装甲の採用により7.62mm徹甲弾に耐えるとともにラインメタル20mm機関砲やTOW対戦車ミサイル発射器搭載能力を持つ。小型だが信頼性は高く、小型車の多い軍用ロボットには最適といえる。
■インドの新型装輪自走砲
 155mm野砲を四輪トラックに載せるというのは一見してかなり冒険に思えます。

 インド陸軍は新型のMArG155mm装輪自走榴弾砲を発表しました。これは2021年12月に緊張続く中印国境地域など、山間部においても運用可能な155mm榴弾砲として写真が公開されたもので、四輪トラックの荷台部分に155mm榴弾砲を搭載、車体部分は装甲化され片側2扉方式を採用、射撃に際しては車体後部の駐鋤を展開して射撃する構造です。

 MArG155mm装輪自走榴弾砲について四輪駆動トラック自走砲への155mm砲搭載は世界唯一のものとされ、主砲は39口径、射撃能力は緊急時には30秒間で3発、効力射では3分間で12発、持続射撃では一時間42発が射撃可能という。射程は発表されていませんが39口径砲身であり30km程度は見込まれ、高山部では空気抵抗が薄く飛翔距離が伸びます。
■ノルウェーCV-90延命改修
 CV-90は大量に売れていますので延命改修でも産業として成り立つのが凄いと思う。

 ノルウェー国防省はCV-90装甲戦闘車の近代化改修及び増強についてBAEシステムズ社と正式契約を結びました、この契約ではノルウェー軍は現在144両のCV-90を運用していますが、更に20両を増強することとなり164両体制となります。また近代化改修としてBAEシステムズ社は更に7年間延長して戦闘システムなどの各種アップデートを行います。

 増強される20両は装甲戦闘車型ではなく戦闘工兵型12両と汎用輸送型8両で5000万ドル規模の契約です。ノルウェーでは次期主力戦車選定として2025年の採用に向けドイツのレオパルド2A7戦車と韓国のK-2戦車が試験車両をノルウェーに持ち込んでの評価試験が本格化しており、CV-90の増強とともに陸軍機械化装備の近代化が大車輪で進んでいます。
■インド軍アルマータを検討
 アージュン戦車の開発が長期化した為に実用化の時点で旧式化をしてしまい思い切って外国の教えを乞う構図、日本の戦車産業もうかうかしていられない。

 インド陸軍は次期主力戦車へロシアのアルマータシリーズ派生型を検討している、これはロシア政府高官がアルマータシリーズプラットフォームにもとづく車両をインドに独自開発車輛のプラットフォームとするよう提案したというもので、インド陸軍では開発が長期化し開発中に陳腐化しているアージュン主力戦車の代替車輛となる可能性も考えられる。

 アルマータ共通装甲プラットフォームは、共通車輛から主力戦車や装甲戦闘車と野戦防空車輛に自走榴弾砲や装甲偵察車を統合化するもので、強力な主力戦車であると同時に多種多様な装甲車両を一つの基本車輛で統合し、開発費用を抑え近年各国で縮小が進む陸軍装備体系の量産効果を維持すると共に諸兵科連合部隊での整備互換性を強化する意味がある。
■フィリピンがブラモスを検討
 これは東南アジアにおける中国の軍事圧力の構図を一変させる可能性がある。

 フィリピン軍は沿岸防備用にインドよりブラモス超音速地対艦ミサイルの導入を交渉中ですが、このほどミサイル取得への予算的裏付けが取れたと2021年12月末にフィリピン国内報道がありました。フィリピン軍は2個中隊分のブラモス地対艦ミサイルを取得したいとしており、3000億ペソを投じるホライズン2国軍近代化計画の一環としています。

 ブラモス超音速地対艦ミサイルはインドがロシアのP-800ヤホント超音速対艦ミサイル技術提供を受け開発した超音速ミサイルで射程は300km、マッハ3の超音速巡航が可能となっています。インドではブラモス2としてロシアよりツイルコンミサイルの技術提供をもととした射程350km、マッハ5クラスの極超音速対艦ミサイルも開発中となっています。
■マレーシア軍次期装甲車
 自衛隊の装輪装甲車もせめて東南アジア並の水準が必要と最近追い付かれている構図を眺めて思う。

 マレーシア軍は400両の次期装輪装甲車選定にイヴェコVBTPやロテムK-806やFNSSのPARSを検討中とのこと。マレーシア陸軍は1981年にドイツ製コンドル軽装甲車460両を導入しています、これはウニモグトラックを原型としては小型装甲車体を取り付けた四輪駆動装甲車ですが導入から40年を経て老朽化が進んでおり、後継選定を開始しました。

 イヴェコVBTPはイタリアのイヴェコ社が開発した六輪駆動式装甲車でブラジル陸軍へVBTP-MRグラアニ装甲車として大量配備された事で知られているもの。ロテムK-806は韓国が輸出用として開発した装輪装甲車、トルコFNSSのPARS装甲車はトルコ軍用装甲車として開発されオトカコブラなど四輪駆動の軽装甲車を置換えている実績があります。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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ドイツ-アロー3弾道弾迎撃ミサイル検討か,イスラエル製射程2400km-ロシア軍ウクライナ侵攻受け防衛強化

2022-03-29 07:00:42 | 防衛・安全保障
■欧州ミサイル防衛-歴史的転換
 我々を見くびるな。ショルツ首相はプーチン大統領との首脳会談後にロシア軍ウクライナ侵攻が開始された際に叩きつけた強烈な一言ですが、彼は有言実行の政治家でした。

 ドイツがロシアからのミサイル攻撃に備え独自のミサイル防衛システムを配備する、ドイツのショルツ首相が発表しました。しかし驚かされたのは、これまで考えられていたペトリオットミサイルPAC-3-MSEの増強というような手段ではなく、格段に強力なイスラエル製ミサイル防衛システムアロー3を導入する方向で検討を進めているというドイツ国内報道が。

 イージスアショア東欧配備。ロシアとNATOの関係悪化は2007年に当時のアメリカブッシュ政権がイランからの欧州へのミサイル攻撃からNATOや在欧米軍基地を防衛するべく整備方針を示した事が、ロシアの欧州へのミサイル抑止力をも阻止しかねないとし、ロシアはNATOオブザーバー国から離脱、関係悪化が始りました。しかしアロー3は更に凄い。

 アロー3は射程2400km、イスラエルが大陸間弾道弾を含む大量破壊兵器から本土を防衛するべく開発したもので、イージスアショアに搭載されるスタンダードSM-3の射程1300kmを大幅に上回るもので、なにしろ2400kmといえば単純比較は出来ないのですが、ベルリンとモスクワの距離でさえ1610kmにしか過ぎません、2400kmと云う距離はものすごい。

 ショルツ首相は、独自のミサイル防衛システム導入について、目的を達成する為ならば隣国に暴力を用いる周辺国が存在する事を認識したうえでの選択、こう説明しておりドイツ全土を網羅する防衛システムが必要である、と強調しました。ただ、アロー3についてドイツとイスラエル両国国防省正式発表はなく、ドイツの新聞ビルド紙が報道したというもの。

 アロー3はミサイル本体がスタンダード3よりも巨大ですが移動発射装置から運用可能です。その売却は、防衛協力という視点からは近年ドイツとイスラエルの防衛協力は深化しており、イスラエル製スパイク対戦車ミサイルや無人偵察機を始めその調達や防衛企業支援なども進められています、両国関係を考えるならばアロー3の導入は現実的といえるでしょう。

 F-35戦闘機導入、ドイツ空軍は一旦決まっていましたF/A-18E/F戦闘機導入を一転して第五世代戦闘機であるF-35導入を決定しました。これは予測されていたものの驚きをもって受け止められました、何故ならば空軍はF-35を必要としていましたが、第五世代戦闘機を取得した場合、独仏共同開発第六世代戦闘機への開発費投資が鈍る為の妥協案だったゆえ。

 しかし、驚いたのはショルツ首相のNATO首脳会議における発言に新世代戦闘機の導入と開発を進める、という表現があり、これを言い換えればドイツ政府はF-35戦闘機の導入と並行し、フランスとの第六世代戦闘機共同開発を並行するという意味に他なりません。そしてドイツの国防費増額は、この計画を具現化可能な程に増額される規模となっています。

 ドイツの欧州防衛への世論はロシアのウクライナ侵攻により根本から変容したと云えます、その一端は世論調査によっても判明しており、インフラテストディマップ社の世論調査によれば、ウクライナへのドイツからも兵器供与について、世論の賛成はロシア侵攻前には20%であったのが、ロシア軍ウクライナ侵攻を受け一気に61%まで文字通り急騰しました。

 国防費増額も年額邦貨換算13兆円という巨費の投入も支持率は69%に達しており、冷戦後終了している徴兵制の再開にさえこちらはフォーカス社世論調査では47%が支持するという数字となっています。強力なミサイル防衛システムの配備と第五世代戦闘機導入に第六世代戦闘機開発並行、日本もやってはいる事ですがドイツの方針転換は、歴史的といえる。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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