北大路機関

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【防衛情報】フィリピン海軍パグシシカップ演習とホセリサール級フリゲイト防空武装計画

2022-03-15 20:21:28 | 先端軍事テクノロジー
■特報:世界の防衛,最新論点
 今回はフィリピン軍の現状について最新の論点を纏めてみました。日本の隣国の一つであるフィリピンの安全保障情勢を見てみましょう。

 フィリピン海軍はパグシシカップ2021演習においてMARU海兵隊水陸両用即応群能力を実証しました。これは西ミンダナオ地域、スル州パナマオのバランガイブランシー沿岸部において実施した大規模な演習の最終段階に行われた大規模な展示訓練において、水陸両用装甲車を含む機械化部隊を洋上から海岸線に展開させる実動演習を演練したものです。

 パグシシカップ2021演習での揚陸演習はフィリピン海兵隊第8上陸大隊と海軍第2建設大隊が中心となり、予備役部隊や周辺住民ボランティアも参加し、ターラック級揚陸艦から発進した上陸用舟艇2隻とAAV-7両用戦闘車4両、及び複合高速艇など舟艇が参加し実施されています。なお、フィリピンは韓国でライセンス生産されたAAV-7を取得運用中だ。

 AAV-7両用戦闘車も参加した今回のパグシシカップ2021演習はフィリピン海軍が新しく編成したMARU海兵隊水陸両用即応群の実証実験としての側面を有しているとともに、上陸作戦のほか、人道支援や大規模災害における海上からの救援を想定したものであり、戦闘訓練と共に巡回医療や沿岸部での井戸掘削等、訓練内容は多岐に及ぶものとなっています。
■海軍史上二度目のミサイル訓練
 自衛隊では普通のハープーンの様なミサイルはなかなかフィリピンには荷が重いのでしょうか。

 フィリピン海軍は水上戦闘艦からの史上二度目の対水上ミサイル発射試験に成功しました。フィリピン海軍は2000年代まで第二次世界大戦中の中古艦を装備するなど限られた海上防衛力で凌いでいましたが、近年中国海軍の軍事圧力増大を受け海軍力強化を進めていました。射撃試験を実施したのはイスラエルより取得したスパイクER対戦車ミサイルです。

 スパイクER対戦車ミサイルは射程8kmの対戦車ミサイルですが、イスラエルのラファエル社は艦載用にMPAC多目的発射装置を改修しており、小型の警備艇であっても近距離であれば水上戦闘艦に大きな打撃を加える装備として販売しています。ミサイルの発射試験は2021年10月28日にミンダナオ島近海に設定された演習海域において実施されています。

 パグシシカップ2021演習として実施されたミサイル発射演習は、フィリピン海軍の第3水上舟艇船体の警備艇より実施されました。射程8kmの対艦ミサイルはハープーン対艦ミサイル等と比較すれば射程は短いですが、排水量25tの小型警備艇にも76mm艦砲に匹敵する打撃力の付与が可能です。演習は対テロ任務等も加えて五日間に渡り実施されました。
■ホセリサール級に対空ミサイル
 ミストラルと云うのは野戦用の自衛防空戦闘に用いるものという印象があるのですが。

 フィリピン海軍は新型フリゲイトホセリサール級へミストラル3艦対空ミサイルを搭載する計画です。ホセリサールは韓国の現代重工により一番艦ホセリサールが2020年に、まだ二番艦アントニオルナが2021年3月に竣工、本級は韓国海軍のインチョン級フリゲイトのフィリピン海軍仕様となっています、建造費は2隻で160億ペソ、兵装は含みません。

 ホセリサール級フリゲイトは満載排水量2600tで韓国製海星艦対艦ミサイルや76mm艦砲を搭載していますが、建造費160億ペソとは別の兵器費用は20億ペソしかなく、艦対空ミサイルの搭載は後日搭載となっていました。しかしMBDA社との間で正式にミストラル3艦対空ミサイル調達が決定したという、射程は6km、原型は歩兵携行式MANPADSです。

 フィリピン海軍は1992年にミスチーフ環礁を中国に占領されていますが、海軍近代化は鈍く十年前まで駆逐艦は第二次大戦中の護衛駆逐艦とアメリカ製カッターのみ、潜水艦は勿論ミサイル艇も保有せず、潜水艦を探知可能な航空機は哨戒ヘリコプターを含め皆無でしたが、近年更なる中国の軍事圧力を受け、漸くながら沿岸作戦能力を整備しつつあります。
■T-129攻撃ヘリコプター検討
 日本もAH-1S後継ヘリコプターの選定が難航していますが。

 フィリピンはトルコよりT-129攻撃ヘリコプターとFNSS-PRS装輪両用装甲車導入構想を更に進めました。これは10月1日にフィリピンのロレンザナ国防大臣とトルコのアカル国防大臣の電話会談において、調達装備の概要では、2021年4月に進捗の在ったトルコからの防衛装備供与に関する具体的な納入時期と予算について詰めの交渉を行ったものです。

 FNSS-PRS装輪両用装甲車はFNSS社がファミリー化した装輪装甲車で四輪型の偵察車と六輪型の装甲輸送車、砲塔搭載が可能な八輪型の多目的装甲車型があり、いずれも水陸両用能力を有しています。フィリピン軍は四輪型の導入を計画しており、これは操縦手と車長及び斥候兵など5名が定員となっており、RWS遠隔操作型銃搭の搭載も可能というもの。

 T-129攻撃ヘリコプターはアグスタウェストランド社が開発したA-129攻撃ヘリコプターをトルコのTAI社がライセンス生産し、独自の戦闘システムを搭載したもので、スパイクERミサイルやヘルファイアミサイルの運用能力を有し、改良型としてトルコ製エンジン搭載型の開発も進められています。フィリピンは防衛力強化として陸軍刷新を進めています。
■東欧製ブラックホーク取得
 ブラックホークヘリコプターをフィリピンは工夫し安価に取得しました。

 フィリピン軍は新しく取得したブラックホークヘリコプターを東部ミンダナオ軍管区へ配備しました。配備された数は4機、フィリピン国内で活動を続ける武装ゲリラ鎮圧任務へ投入されます。ブラックホークヘリコプターではありますが軍用型のUH-60ではなく民間型のS-70iヘリコプターを取得し軍用仕様としたもので初期機の不具合を解消したもの。

 S-70iヘリコプターはシコルスキー社の子会社であるポーランドのPZLミエレツ社により製造されているもので、UH-60よりも飛行能力以外の性能は無いものの、安価となっています。フィリピン軍は2億4146万ドルで5機を取得しましたが、初号機が事故に見舞われた為、これらの問題を是正した4機が、改めてフィリピン軍へ配備されたかたちです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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NATO支援圧力狙いポーランド国境30kmに巡航ミサイル攻撃,アメリカは更なる防衛援助

2022-03-15 07:00:47 | 国際・政治
■臨時防衛情報-ウクライナ情勢
 ロシア軍の侵攻が続くウクライナ情勢ですがやはり戦闘機の不足と重装備供与への各国の及び腰が懸念となっている。

 バイデン大統領は12日、新たにウクライナへの軍事支援として2億ドルとなる軍事支援を発表しました、ABC報道。先週も3億5000万ドルの軍事支援を発表していました。この2億ドル規模の軍事支援は携帯対戦車ミサイルや携帯地対空ミサイルを中心としたもので、アメリカ政府の絶え間ない支援は明らかにウクライナ情勢をウクライナ有利に進めている。

 バイデン大統領の支援表明ですが、重要な点は戦闘機の供与に踏み込んでいない点です。アメリカでは野党共和党を中心に、ポーランドなどが装備するウクライナ軍戦闘機と同型機であるMiG-29ウクライナ供与を仲介すべきという声がありますが、バイデン大統領は紛争へ関与の懸念から了承していません。援助予算130億ドルが可決したという一幕もある。

 バイデン大統領はアメリカ軍をウクライナへは派遣しないという当初の姿勢を堅持しています、ただ、防衛装備品支援等を通じてウクライナへ搬入する要員は居り、こうしたウクライナ軍の後方支援要員へ被害が及んだ場合はどうするか、そしてロシア軍がNATO加盟国である隣国ポーランドNATO施設に誤爆以外の意図的な攻撃が在った場合、どうなるか。

 ポーランド国境近くのウクライナ軍をロシア軍が攻撃、39名が死亡したとの事。BBC報道。これは平和維持治安センターに対する攻撃で巡航ミサイル30発が投入、ヤボリンに在る施設でこれまで最も西側へのロシア軍攻撃となった。ポーランドとの国境から30kmしか離れていません。ロシア軍の首長としては此処に西側の軍事支援施設が置かれていたという。

 ポーランドから30kmという距離の攻撃ですが、ここ平和維持国際治安センターは開戦前にNATOから供与された装備品の訓練施設としても散られていた事が事前に報道公開されていました。また、ロシア外務省はNATO等の防衛装備品供与は攻撃の対象となると発言していましたが、今回はウクライナ国内に限って現実のものとなったかたちでしょう。

 ポーランド政府の危機感は大きなものがありますが、ポーランドのドゥダ大統領は、仮にロシア軍が大量破壊兵器を使用した場合にNATOがどのように行動するかは考えておかねばならない、こう発言しています。化学兵器がウクライナ西部で使用された場合はポーランドへも影響が及ぶ懸念があり、しかし関与は第三次世界大戦へ拡大の懸念もあるのです。

 化学兵器など次の段階に行くのか。メリトポリ、ロシア軍の占領が続くウクライナの都市ですが、BBC報道です。市長がロシア軍への協力を強要された際に拒否した事でロシア軍により拉致されるという事件がありました。拉致された市長は行方不明で、ロシア軍は傀儡市長を市長とするという、これまで懸念されていた事態が発生しました。しかし、ヘルソン市内ではデモが行われている。

 メリトポリ市内では食糧不足となっており、この為にウクライナ当局が備蓄した食料を共同店舗等により供給する配給制度に近い体制となっていますが、市長拉致事件を受け完全武装のロシア軍に対しても市民がデモを行うウクライナ当局へ支持はあるようです。ウクライナでは占領された都市と共にキエフ近郊で砲兵により潰される街も増加しています。

 メリトポリ以外にも市長が拘束された事例があります。一方、近く四度目の両国停戦交渉が予定されており、アメリカのシャーマン国務次官補の発言として、今度は双方に停戦の前向きな兆しがあるとの談話をロイター通信が報じています。仮に停戦が実現した場合は、拘束された市長の安否とともにロシア軍ジュネーヴ条約違反の扱いが焦点となりましょう。

 自衛隊でさえ全機教育は三カ月だ。志願兵は訓練が三日間、BBCが報道しました。ウクライナでは若年層を中心に志願兵が日々増加しています、キエフにてBBCが取材した内容として志願兵は三日間の訓練で陣地構築など第一線へ投入されているという。なお、特筆しておきたいのは未だ市街戦に展開していない首都キエフにおける状況で、三日間の訓練にて戦闘に投入されている訳ではない。

 志願兵はジュネーヴ条約に基づく戦闘員を示す腕章を全員が装着しており戦闘服に代えています、その上でカービンや小銃、AKSやAKMなどの装備を携行していました。彼らは徴兵経験のある予備役ではなく従軍経験の無い十代の若年層という。三日間で執銃訓練など最低限の訓練を行っているとのことですが、ミサイルなどの重火器は装備していません。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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