北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

3.11東日本大震災十一年,COVID-19とウクライナ戦争下に再確認する復興と未来への課題

2022-03-11 20:03:11 | 北大路機関特別企画
■忘れ得ぬ巨大災害の記憶
 震災の記憶の風化と呼ばれる十一年目ではあるのですが、それは被災地が震災からの復興に多忙を極めている故であり忘れようがないようにも思えるのです。

 東日本大震災から11年となります。三年目となるCOVID-19という非常事態の日常化、そしてウクライナでは第三次世界大戦につながりかねないロシア軍侵攻とNATOはじめ周辺国への核兵器を含む軍事圧力が加えられ続けており、いわば非日常の中での震災慰霊の日となりました。実際のところロシア軍の原発攻撃などはあの3.11の古傷を抉られる印象だ。

 津波の強烈な映像はいまなお色あせること無く、悲痛な声とともに記録された当時の語り部として、広く公開されています。しかしあの震災の悲劇は、復興計画があまりに教条的な平時手続きに則ったものであり、阪神大震災復興に際してのような、拙速でも迅速な復興措置を採用しなかったことが、被災地域からの復興に影響する人口流出を生みました。

 復興計画。11年を迎え今日危惧するのは、多大な人口流出を呑んで進められた高台移転と嵩上げ工事は、嵩上げ工事が果たして次の同程度の津波に対応するのかという素朴な疑問と、そして高台移転には短時間で造成された山間部造成工事が今後予測される大規模豪雨災害への深層崩壊などの災害への耐久性をどの程度精査したのかという切迫した懸念です。

 嵩上げ工事は、津波の遡上高だけをもとに造成されたのではないのか、地形からの合成波をどの程度計算したのかが不安でなりません、田老の防波堤の一件があるためです。世界最大と呼ばれた防波堤は、結局行き場のなくなる津波の圧力は、逃がさなければ圧迫で乗り越えてしまいます。要はその計算が安心できるかと、どの程度為されたのかということ。

 計算は充分なされたのでしょう、しかし遡上高だけを計算したのであれば、おそらく上がってきます。こういうのも津波の高さは10m前後ですが遡上高は地形によっては40m近い標高まで上がっている地点がありますので、例えば海にたいして楔型につきだした、戦車装甲の被弾経始構造の様な、津波の流れを左右に逸らす造成でなければならなりません。

 楔型地形でなければ圧迫された津波の圧力は第一波や第二波を支えるかもしれませんが、津波の直撃に耐えても津波の遡上に浸食されます。この考慮が為されていないのかもしれないと憂慮するのは、津波を弾く地形を考慮している場合には、弾かれた津波が浸透する、つまり前回の津波では無事であった地域に被害が及ぶという視点がある筈なのですけれど。

 ハザードマップではこの前回無事であった地域への被害の転移までが考慮されていない点が、遡上まで計算したのか、という懸念の一つです。もっとも、嵩上げが40m以上、安全係数を一割とって44m以上の標高になっている嵩上げ地形について何ら心配はありません。また標高50m以上の地形へ高台移転された地域は安全といえます。次の津波に関しては。

 深層崩壊。懸念があるのはもう一つ、山を切り開いて高台移転した地域です、粘土層まで造成に際して切り土で取り去っているように見える地形が、造成途中の報道映像をみますと確認できる。粘土層は滞水層に過度な降雨の流入を防ぐものですが、ここを切り取ってしまいますと一定以上の豪雨で山が水を含みすぎ山が変形し破壊される深層崩壊へと至る。

 地形調査、ボーリング調査を充分に行っているのでしょう、故に粘土層に見えたものも充分な地質調査をおこなっていると信じているのですけれども、どうしても高台移転という住民合意を集める必要と良好な立地か旧居留地からの近さという部分を比較した場合に後者が重視されていないのか、次の災害を、どうしても心配してしまう。充分検証されたか。

 復興計画は本当に難しい、それは日本の大都市は実は地震多発地帯に広がり、太平洋に面する地域での良港の条件は津波被害地域に集中している為です。どういうことか、それは地震多発地域が人口密集地域の条件に適合しているためです。日本の都市は河川に沿って広がりました、この京都でさえも、平安遷都は神泉苑という水源があったためなのですね。

 大都市は東京も大阪も名古屋も、河川に沿って発達した、故に近年は豪雨による水害の懸念が指摘されていますが問題はそこではありません、河川はなぜそこを流れるのか、それは地形に脆弱な特性があるためで、脆弱というのは大半が活断層の真上、つまり岩盤に罅が地震により穿つ地形に流れ大河が形成、そこに気付かず都市が広がっています。ただ。

 活断層と河川と大都市の特性とはべつの都市部があります、熊本や福岡と札幌などが顕著なのですが、火砕流堆積大地は地震とはそれほど関係ありません。もっとも火山性地震や熊本地震のように未知の活断層により生じるものもあるのですが、つまり長い周期で発生する地震災害の研究前に醸成された日本の都市計画はそれほど考慮していないということ。

 復興計画の難しさというのは、高台移転や嵩上げ工事は、もともとなぜその地域に都市が造成されたのかという利点を無視しているためです。例えば交通要衝や鉄道線などをもとに市街地は造成というよりは形成されてゆきましたので、住民を移転したとしても市街地中心部が移転先に自然形成される確証はないのですね。賑わいを取り戻す厳しい現実が。

 人口流出というものはここにある、例えば自治体などは好条件で商店や産業施設の高台移転を提示していますが、一つは高台移転に平時手続きとして時間をかけすぎたために人口流出があり、実現までに三年五年を要した、その間に内陸部へ自然移転している住民が多く、これが人口流出となり復興できなくなっている。阪神大震災の時は故に計画を急いだ。

 その上であくまで高台に移転するならば、STOL機専用空港を多数新設するとか、国営鉄道のような形で第三セクターほど地元経済に左右されない公費負担の鉄道を旧中心部から高台まで人流を無理矢理捻出するなどの施策を執るか、浸水地域でも浸水の被害が低い公営高層住宅をさっさと建築し、津波の際は籠城させ救助拠点とするなど、あって然るべき。

 しかし、この試みは平時手続きを重視しすぎたことでの遅滞、またなにより行政は責任を問われないよう、あくまで住民合意、あたかも革新都政時代のような決めない政治を貫いたことで復興着手が遅れました。当時は復旧は一日遅れれば復興着手が一ヶ月遅れ、復興着手が一ヶ月遅れれば復興完了が一年遅れると表現したものでしたが、現実のところは。

 無責任状態、日本の問題は加点主義ではなく減点主義であり、だれも責任をとりたがらない状況がこうした現状を生んでいるようにもおもえてなりません。若しくは責任を取る枠組みが循環しない為に政治システム全体が機能しない、誰かの英断が他者の平時手続きにより習性と云う名の埋設に見舞われている構図がある、これは震災復興だけに留まらない。

 責任ある政治を、こう反論する事は簡単なのですが、日本社会全体が何かこう新しい事を行う際の合理的手続きを従来の慣習が押し潰してしまう事を、また一の大成功よりも十の失敗、十の成功よりも一の大失敗を、挽回できない視点として恐れる構造が醸成されているのではないでしょうか。東北復興を見て、実は日本社会の鏡なのだとも感じる次第です。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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北方領土でロシア軍ミサイル演習!包囲されつつあるキエフと初のウクライナロシア外相会談

2022-03-11 07:00:19 | 国際・政治
■臨時防衛情報-ウクライナ情勢
 ロシア軍の軍事圧力は遂に北海道北部へ及び、一方でキエフでは包囲されつつあり人道支援には遠くない将来ベルリン大空輸の様な決断が求められるのでしょうか。

 ロシア軍は10日、北方領土においてS-300地対空ミサイルによるミサイル演習を実施したとの事です。極めて射程の長いS-300地対空ミサイルの実弾射撃訓練を行う場合、周辺空域へ影響が及ぶ可能性がある為、相当前に演習空域を発表する必要がありますが、今回は演習終了後に発表しています。この訓練では数十の空中目標を撃墜したと発表しました。

 民間航空機への危険はソ連防空軍がジャンボ旅客機を撃墜した大韓航空007便撃墜事件があり、また過去にはロシア製S-200地対空ミサイルが演習空域からはるか離れた旅客機を誤射したウクライナ防空軍によるシベリア航空機撃墜事件等が発生しています。ウクライナ情勢との関連性は断言できませんが、今年に入り極東地域での軍事演習が増大している。

 ロシア軍が関与した事件として過去にはウクライナのクリミア併合後、ウクライナ東部紛争に際しては親ロシア派占領地域から武装勢力が運用していない地対空ミサイルシステムによりマレーシア航空機撃墜事件が発生しており、ロシア軍の関与が疑われています。ロシア軍はウクライナへ多数極東地域から引抜いており、留守部隊は行動を強化しています。

 ウクライナ侵攻に際する停戦をめざし、ロシア軍のウクライナ侵攻開始後初の両国外相会談がトルコにおいて行われました。ただ、直ちに停戦を求めたウクライナのクレバ外相に対して、ロシアのラブロフ外相は外相会談でありロシアを代表する立場にないとして成果なく終わりました。ラブロフ外相はトルコではなくベラルーシでの会談を重視する姿勢だ。

 両国外相会談の場を用意したトルコのチャウシュオール外相は、今回の会談はトルコを含めた三者会談で在ったと示し、両国関係を取り持つべく仲介外交の継続を示しています。ラブロフ外相の、ベラルーシでの会談を重視し自らに代表権は無いとした発言は何の為の外相会談であるかを疑問視させるもので、ロシアの政治決定プロセスを浮き彫りにした。

 外相会談が実りなく終わる一方、ウクライナではキエフ北東端のベリカディメルカとスキピン境界地域にロシア軍が進出していることがAFP通信に現地報道により判明しました。またキエフの北西にあるイルピンやブチャでは一週間以上ロシア軍の砲撃が加えられており、キエフは南部を除き包囲されつつある状況、南部からの各種物資搬入が続いています。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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