北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【防衛情報】ポーランド配備イージスアショアと韓M-SAM&中HQ-19&米ペトリオット輸出

2022-03-08 20:05:38 | 先端軍事テクノロジー
■特報:世界の防衛,最新論点
 今回は防空関連の最新情報を紹介しますが、ミサイルシステム配備の政治的背景やミサイル輸出への政府の関与度合いの必要性など間接的に考えさせられるものが多い。

 ポーランドに建設が進む在欧米軍イージスアショアは2022年内に稼働状態となる、在欧米軍が発表した。在欧米軍は中東イランからの欧州同盟国への弾道ミサイル攻撃を警戒し、既にルーマニアのデベゼルへイージスアショア陸上配備ミサイル防衛システムを運用している、デベゼルはルーマニアの首都ブカレストから150km、欧州の半分を防衛している。

 欧州の残る半分を防衛するべく建設が進むのがポーランドのレジコボに建設が進むイージスアショアだ。イージスアショアは海上配備システムと違い移動できないが、陸上配備故にイージス艦の様な船体の劣化は度外視でき、50年間から75年間に渡りミサイル防衛任務に当る事が出来る。レジコボのシステムもデベゼルと同じく、運用はNATO管理下で行う。

 イージスアショアの欧州配備はイランからの弾道ミサイルを警戒し2007年に決定した、近年は北朝鮮が欧州との外交的対立の際に射程がパリ等に及ぶことを示唆し、北朝鮮からの核恫喝へも備える意義があるが、2007年の配備決定の時点で不快感を示したロシアとの緊張関係は2021年に至るもぬぐえず、欧州とロシアの対立に発展し緊張は現在も続いている。
■スウェーデンPAC-3受領開始
 弾道ミサイル脅威に一応の形を点けるには最適な装備と云う事なのでしょうね。

 スウェーデン軍は新型のペトリオットPAC-3ミサイルの受領式典を実施しました。式典は11月18日にハルムスタード基地において実施され、ペトリオットミサイルはスウェーデン軍正式名称としてLvS103と制式化されています。スウェーデンはロシアによるウクライナクリミア半島併合や軍事介入を受け、弾道ミサイル防衛能力整備を決意しています。

 ペトリオットミサイルはAN/MPQ-65レーダー装置4基とAN/MSQ-132管制システム4基、そしてM-903発射装置12基と、ペトリオットミサイルMIM-104Eミサイル100発とPAC-3-MSEミサイル200発を取得しました。既にNATO加盟国では15か国がペトリオットシステムを採用し、欧州では永世中立国であるスイスでも採用が検討されています。
■韓国製M-SAM地対空ミサイル
 韓国製M-SAM地対空ミサイルを見ますとミサイルの輸出にはいろいろと企業以外の努力の必要性が垣間見える。

 アラブ首長国連邦は韓国製M-SAM地対空ミサイル導入計画を発表しました。これは2021年UAE防衛装備展に際して発表されたもので、正式契約と成れば35億ドル規模の契約、韓国史上最大のミサイル輸出実現となります。ただ、韓国防衛事業庁によれば、現在は輸出交渉段階であり、ミサイル輸出は現時点でまだ確約した訳ではないともしています。

 M-SAM地対空ミサイルはホーク地対空ミサイルの後継として韓国が独自開発したもので、射程は40kmであり有効射高は15000mに達するとのこと。韓国ではロシア製S-400地対空ミサイルの技術提供を背景に独自開発を進め、トラック機動とともに垂直発射能力を持ち、この点についてはアメリカのペトリオットミサイルよりも先進的であるとしています。
■M-SAMの性能とは
 アブダビ兵器展はかつての南ア製装備の位置を韓国が置換えている構図だ。

 韓国製M-SAM地対空ミサイルはアブダビ兵器展において大きな注目を集めています、それはアメリカ製地対空ミサイル以外の自由主義圏での有力な防空システムがタレス製アスター30地対空ミサイルの射程120kmしか存在せず、NATO加盟国では情報保全上導入が難しいロシアや中国製地対空ミサイルの射程延伸に対して後塵を拝している現状がある。

 M-SAM地対空ミサイルは射撃中隊が8発のミサイルを搭載下TEL移動式発射器を4両乃至6両にPESAパッシヴ式Xバンドアレイレーダーを配置、これは毎分40回転し100km圏内の目標を探知し、射撃指揮装置は同時に40個までの目標を追尾し6目標と同時交戦能力がありK-VLS垂直発射装置より運用します。韓国では既に第一線運用中となっています。
■パキスタンHQ-19受領
 HQ-19地対空ミサイルは戦術用と云う位置づけですが実のところ射程は長い。

 パキスタン陸軍は中国よりHQ-19地対空ミサイルを導入したと発表しました。これは2015年より続いた導入交渉を経て実現したもので、パキスタン陸軍ではHQ-19地対空ミサイルをHIMADS中高高度防空システムと位置づけ、低空防空用に30mm機関砲を搭載したFD-2000SAMシステムとレーダーと共に複合的な防空システムを構成するとのこと。

 HQ-19地対空ミサイルはアクティヴレーダーホーミング方式の地対空ミサイルで射程は100kmとアメリカ製ペトリオットミサイルに匹敵する射程を持ちます。ただ、現在は中国とロシア製地対空ミサイル射程延伸が非常に進んでおり、自由主義圏では長射程に区分されるペトリオットミサイルも戦術防空用HQ-19と並び、ペトリオットの陳腐化が進みます。

 HQ-19地対空ミサイルについては、過去トルコ軍がHQ-19地対空ミサイルを取得した際、電子妨害対処能力の低さやEMP電磁パルス対策が施されていない事を暴露され、中国へ返却された事がありましたが、今回パキスタンへ輸出されたものは改良型となっています。ただし、トルコ輸出型返品からのEMP対策の概要などについては公表されていません。
■イタリアミサイル部隊中東へ
 クウェートとイタリアはユーロファイター戦闘機の輸出で協力関係に在るのですが。

 イタリア陸軍は中東のクウェートへアスター30SAMP/T地対空ミサイル部隊を展開させています。クウェートへの展開はアメリカを中心とする有志連合による対ISIL武装勢力鎮圧作戦、生来の決意作戦への有志連合としての参加で、同時にイタリアからは地中海の対岸に当るリビア情勢の緊迫化や、シリア情勢の急変への待機という意味も有しています。

 アスター30 SAMP/T地対空ミサイルはユーロサムにより開発された欧州独自の地対空ミサイルシステムで射程は120km、航空機や巡航ミサイル及び無人機への対処能力を持つと共に射程600kmまでの短距離弾道ミサイルに対しての迎撃能力を持つとのこと。尚イタリアでは有志連合の生来の決意作戦支援任務をプリマパルティカ作戦として命名しています。

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ロシア軍ウクライナ侵攻十三日目,進まぬキエフ包囲とハリコフ転進部隊西進-広がる人道危機

2022-03-08 07:00:22 | 防衛・安全保障
■臨時防衛情報-ウクライナ情勢
 ウクライナ情勢は日本防衛にも大きな影響を及ぼすものとして注視してきました、間もなく二週間を迎える最中に所感を纏め且つ最新の状況を纏めてみました。

 ロシア軍の侵攻は日本時間2月24日の開戦から13日目を迎えます。12日NHK報道によれば、ウクライナ侵攻へロシアウクライナ国境とウクライナベラルーシ国境に集結したロシア軍の95%が投入されたとのことです。これにより17万名の兵力が展開したこととなりますが、当初二日で陥落するとされた首都キエフはまだ外縁が包囲されつつある段階だ。

 ロシア軍侵攻、不思議なのは衛星写真などを確認した場合、それが全て開示されている訳ではないという認識の上でも不思議なのは、ウクライナ領内にロシア軍が補給拠点をどう確保しているかは謎だという点、勿論分散され航空攻撃を警戒、航空優勢確保を発表しているのに不自然ですが、こうした可能性はある。しかし謎が残る、どう渋滞を超えるのか。

 17万の兵力は単純計算で毎日51万食の給食が必要となりますしロシア軍の弾薬基数は122mm砲弾でも数十発でしかなく、数日に一度は補給が必要で、仮にもう一基数増加携行したとしても13日間も持続するのかという素朴な疑問符が残るのですあまり長期戦を想定せず、停滞しているのではないか。一方で東部ハリコフから転進した部隊は前進中である。

 不思議な点は幾つもあり、そもそもハリコフから転進した部隊は順調に進んでいるように見えるのですが、この部隊は戦車部隊を中心とした第一親衛戦車軍であり、そもそもハリコフからキエフまで高速道路E40,M03経由で480km、実際は側道を使っているといいますが東海道新幹線が東京新大阪間515kmですのでほぼ同距離なのですが、ここまで迂回して燃料はどう軍に補給するのでしょうか。

 キエフ北方で渋滞したままのロシア軍部隊ですが、渋滞5kmの第一報が示されたのは先月27日、多少動いてはいるようですが依然として滞留は続いており、現代軍隊が九日間も漫然と道路上に渋滞しているのは、大群で圧力というよりは攻撃軸と攻撃経路を無視した児戯のような稚拙さを曝しているとしかいえません、これがロシア軍動向の率直な印象です。

 たくさん軍隊を集めて並べればびっくりして降参するんじゃないかな、的計画とは考えないのですが、17万の兵力が広大なウクライナに展開、しかも欧米の補給でジャベリンにパンツァーファウスト3にNLAWにAT-4とM-72,携帯対戦車火器の見本市という状態にロシア軍が曝される。そもそも指揮官は自軍補給は勿論損耗を把握しているのか、疑問です。

 マリウポリ人道危機、アゾフ海沿岸のウクライナ東部マリウポリではロシア軍による住民退避の為の停戦が三日間連続で実現していません、これは都市部での戦闘による民間人犠牲者を回避するべく、市街地の外へ住民を強制退去させるためのウクライナとロシアとの間で第二回停戦協議において合意した内容なのですがロシア側が不履行としているのです。

 マリウポリ一時停戦、その履行が為されない状況と云うのは、マリウポリを包囲したロシア軍が砲兵による砲撃を続けており、市民が地下室から路上に出る事が出来ない為とのこと。なお、これと関連した発言ではありませんが、プーチン大統領はウクライナが全面降伏に当る非武装化を約束するならば停戦は可能であると発言しており、被害が懸念される。

 ロシア国防省は日本時間7日、キエフとハリコフ及びマリウポリとスムイについて人道回廊設置の為の一時停戦を発表しました。人道回廊とは、市街地から非戦闘員が退去するための安全地域を一時的に確保するものです。ロシア国防省がこうした発表をする背景には、前述のマリウポリ一時停戦が実現しておらず改めて列記した事に現れている構図でしょう。

 ロシア国防省は人道回廊について、市民を陸路で市街から退避させた後で空路により脱出させるとしています。ロシア軍はこれを無人機等により監視するとしていますが、ウクライナのゼレンスキー大統領は空港が完全に破壊されている点を指摘しています。日本時間7日1600時に設置される人道回廊ですが、同時にロシア軍へ補給の猶予を与える事にもなる。

 人道回廊について、難しいのは過去にシリアで設置された名目上の人道回廊です、シリアではダマスカス近郊において人道回廊を数時間のみ設置し、その後に市街地を大規模砲撃により制圧しました。数時間では退去は勿論周知も出来ない短時間ですが、ロシア軍は人道上配慮したと強弁した背景があります、今回も市民は大量殺戮の危機が迫っています。

 核施設へのロシア軍攻撃が再度行われました、今回狙われたのはハリコフに在るウクライナ国立物理技術研究所で、原子核物理学研究や核融合発電基礎研究にあたるプラズマ物理学の研究、および核燃料サイクル研究などが行われています。ロシアのプーチン大統領はウクライナ侵攻開始後、当初の主張を捨ててウクライナは核開発をしていると主張する。

 核施設へのロシア軍攻撃は複数の原子力発電所がロシア軍に占領されるなどしていますが、一説にはロシア軍はウクライナへ電力供給を絶つために占拠しているという分析もあるようです。しかし、発電所を包囲しているのだから電力供給を絶つには送電線を切断するか鉄塔を倒せばよいわけで、この点ロシア軍の原発物理占拠について、説得力はありません。

 核施設へのロシア軍攻撃、問題はロシア軍がウクライナ国内の通信網遮断を開始しており、ウクライナ非常事態省によれば開戦劈頭に占領されたチェルノブイリ原発では周辺部の放射線モニタリングポストが機能していない、放射線情報の伝送が出来ない状況となっています。過去ソ連は1986年にチェルノブイリ原発事故発生の際、事故を公表しませんでした。

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