北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【防衛情報】極超音速ミサイル対処用のレーザー兵器とNGI次期迎撃ミサイル,バルト海沿岸のキンジャール

2022-09-12 20:01:57 | 先端軍事テクノロジー
■特報:世界の防衛,最新論点
 今回の防衛情報は、極超音速ミサイルという新しい時代の脅威についてどのように取り組むかという視点を纏めてみました。

 アメリカ海軍のギルディ海軍作戦部長は8月25日に行われたヘリテージ財団シンポジウムにて極超音速ミサイル対処用のレーザー兵器開発を発表しました。指向性エネルギーシステム、具体的には高エネルギーレーザーや高出力マイクロ波を用いたレーザーシステムを示しており、中国やロシアの極超音速兵器へ対抗能力を整備することが狙いとのこと。

 極超音速兵器は従来のミサイルよりも高速であり弾道ミサイルと異なり不規則軌道を採るために探知や迎撃の難度は格段に高く、ロシアはウクライナで極超音速ミサイルキンジャールを実戦使用しているほか、中国も2021年に極超音速滑空体の発射試験を実施しています。これに対して、開発国の中国ロシアを含め世界各国の海軍は対処法がありません。

 アーレイバーク級ミサイル駆逐艦プレブルにロッキードマーチン社製レーザーシステムヘリオスを搭載、2014年にはペルシャ湾に展開したトレントン級ドック型揚陸艦ポンスでレーザー兵器システムの試験を、2021年にサンアントニオ級輸送揚陸艦ポートランドにて高度なレーザーシステムの試験を実施しており、実戦配備を加速させるという事でしょう。
■MQ-9B無人攻撃機艦載機
 これはMQ-9B無人攻撃機艦載機というものの可能性の一つを示すに過ぎない論点ではあるのですが。

 MQ-9B無人攻撃機艦載機は艦隊防空戦闘機任務を担いうるか。新しい脅威である対艦極超音速滑空兵器については、かつてのF-14A戦闘機が担ったような防空圏の構築が必要となる可能性があります、これはF-14Aを退役に追いやったイージス艦による広域防空では会敵時刻という点で、迎撃にも用いるスタンダードミサイルの速度に限界があるためです。

 MQ-9B無人攻撃機艦載機型はジェネラルアトミクス社が今年5月20日に発表したもので、現在MQ-9は発着に1067mの滑走路を標準としていますが、短距離滑走能力を強化し蒸気カタパルトや電磁カタパルトを用いずとも305m以下の滑走距離にて発進できる能力を付与する構想です。この場合、兵装搭載能力や滞空時間などに影響が及ぶとは考えられるが。

 MQ-9B無人攻撃機は1000km以遠で数十時間に及ぶ哨戒飛行が可能で、搭載可能なミサイルには現時点で極超音速滑空兵器を迎撃可能とする装備はありません、しかしかつてのようなF-14戦闘機の役割をF-35やF/A-18Eに充てて、当時のバックファイア爆撃機よりも長距離から変則的な軌道を行う脅威に対応するよりは、無人機は選択肢となるでしょう。
■カリーニングラード
 キンジャールは要するにF-15のような高高度まで短時間で到達する戦闘機から短距離弾道弾を発射するというもの。

 ロシア国防省はカリーニングラードへのキンジャールミサイルとMiG-31戦闘機配備を発表しました。国防省によれば8月18日、キンジャールミサイル運用能力を持つ3機のMiG-31K戦闘機をチカロフスク基地に配備、カリーニングラードはロシア本土から離れた飛び地であり、NATO加盟国であるリトアニアとポーランドと国境を接しています。

 キンジャールミサイルは地対地ミサイルであるイスカンデルミサイルをMiG-31戦闘機が高高度まで上昇した上で投射し、射程とともに落下速度を大幅に向上させ従来のミサイル防衛システムによる迎撃を困難とさせるもので、高高度から発射した場合にはマッハ10の速度を発揮するとされています。3機のMiG-31はチカロフスク基地で24時間待機を行う。

 MiG-31戦闘機、ロシア軍の意図は不明ですがイスカンデルミサイルは射程が500km程度であるのに対して高高度から発射するキンジャールミサイルは射程2000km以上に達し、東欧地域に留まらず西欧地域まで射程に収める事となります。しかし、高高度から発射する必要があり、MiG-31はその間は無防備となります。政治的な配備といえるでしょう。
■NGI次期迎撃ミサイル
 多種多様化するミサイル脅威に備えるNGI次期迎撃ミサイルについて。

 アメリカ軍が開発するNGI次期迎撃ミサイルは八月までにシステム通信技術開発の実証実験を完了したとのこと。これはロッキードマーティン社が開発を進めるアメリカ本土ミサイル防衛システムの一環として開発されているもので、いちれんの通信試験はカリフォルニア州サニービルにありますロッキードマーティン社施設において実施されたとのこと。

 NGI次期迎撃ミサイル、今回の実験は通信機能を広範囲のミサイル迎撃戦域において複数のデータリンクからの情報を暗号化して相互共有するとともに必要なデータを瞬時に作成し不具合や状況変更に際してのリセットを迅速化させたという、この開発にはテキサス州オースティンに本社を置くXマイクロウェーブ社が協力企業として参画しているという。

 NGI次期迎撃ミサイルの開発は2027年の完成を期して開発を進めていますが、核戦力の運搬手段が従来の弾道ミサイルに加え、極超音速滑空兵器など多様化していると共に、従来のロシアからの核戦力に加え中国の核戦力増強と、何より北朝鮮弾道ミサイルのアメリカ東部地域射程圏内への延伸という状況を前に切迫感と迅速化を念頭に進められています。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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ウクライナ軍東部戦線で反撃成功-ロシア軍ハリコフ州全面撤退,ウクライナ軍ルガンスク州リシチャンスク市へ

2022-09-12 07:01:06 | 国際・政治
■臨時情報-ウクライナ情勢
 戦車の威力を再確認させられまして自衛隊の重装備への見方についてもう少し現実の戦訓を反映しては、と思うのです。

 ウクライナ軍はロシア軍が占領している東部のハリコフ州、クプリャンシク市とイジューム市に向けて前進を開始しました、ハリコフ州での反撃は9月初旬に開始、ウクライナ軍は既に50kmに渡りロシア占領地域へ楔を打ち込みつつあり、CNNによればクプリャンシク市とイジューム市の郊外に到達している。やはり最後は戦車なのか、という印象です。

 この24時間で戦況は大幅に動いています、元々この話題は主題を“ロシア占領下の東部ハリコフ州のクプリャンシク市とイジューム市郊外に展開”としまして日曜日朝に掲載する記事として作成したのですが、朝までにクプリャンシク市とイジューム市まで到達する勢いであった為、9.11同時多発テロの話題に切替えました、そして朝までに実際そうなった。

 ロシア軍ハリコフ州からの撤退、これは15時間ほどまえの情報ですが、南部ヘルソン州に転進させた部隊を呼び戻す事無く、ハリコフ州からの撤退を進めルガンスク州の占領へ部隊を転進させる事としています、しかし15時間前のAFP報道ではウクライナ軍はルガンスク州のリシチャンスクへ向け反撃を進めており、ロシア軍は実質、潰走が始っています。

 ハリコフ州のイジューム市はロシア軍のウクライナ侵攻における要衝であり、イジューム市を中心に南部のドネツク州への攻撃拠点としており、またクプリャンシク市は鉄道拠点でもあり、ロシア軍は鉄道を利用し兵站を支えている、この為にウクライナ軍がクプリャンシクを奪還した場合、短期的には影響は無くとも数週間後には兵站が干上がる事となる。

 やはり最後は戦車なのか、という印象を受けました。ロシア軍ウクライナ侵攻に際し緒戦ではアメリカ軍が供与したジャベリン対戦車ミサイルが猛烈な威力を発揮したと報道され、我が国財務省では、戦車は非効率でありジャベリンが有れば防衛は成り立つ、こう防衛省へ提言書を発表しましたが、現実は厳しく対抗策でジャベリンの発射が難しくなりました。

 対戦車ミサイル陣地には砲兵射撃をという原則は1973年の第四次中東戦争を教訓に確立したものですが、同様にジャベリンの射程は2kmである為に射撃陣地と思われる地域へ猛烈な砲撃が加えられるようになり、ウクライナ軍はBMP-1や供与されたM-113装甲車により錯綜地形を利用し対戦車戦闘を行うように転換しています。ただ、砲兵には敵わない。

 反撃が続いていますが、クプリャンシク市とイジューム市が失陥した背景にはロシア軍が砲撃重視という、元々ロシア軍はBTG大隊戦術群に大隊規模の砲兵部隊を配置するなど火力が高い事から砲兵で圧迫するという伝統的な状況に転換します。しかし、ここでHIMARSの供与が状況を変えました、猛烈な砲撃には大量の砲弾が要る、ならば弾薬集積所を狙う。

 財務省風に言えば装甲車とHIMARSがあれば大丈夫、というところでしょうか。HIMARSの威力は物凄く、先日はポーランド軍が500両のHIMARS導入をアメリカに打診した事は記憶に新しい。ただ、領土をとられてしまいますと反撃に歩兵の浸透攻撃では限界があったのですね。そこでウクライナ軍はNATO各国供与のT-72と併せ戦車を活用し始めた。

 戦車の出番が来るまでに時間がかかりましたが、戦車をウクライナ軍は分散運用していました、敵火力優位の状況で戦車を大量に集めて運用しては湾岸戦争のイラク軍の様に殲滅されてしまう。しかし、戦車の強みの一つは機動力であり集合と分散を迅速化できます。敵砲兵火力をHIMARS,そして元々ある火砲や供与火砲で対抗出来、いよいよ戦車の出番に。

 ウクライナ軍の反撃が成功している背景には、先月からのウクライナ南部におけるロシア占領地域への反撃が成功している為、ロシア軍は南部占領地域を防衛するべく東部占領地から部隊を引抜き、結果手薄となった為でした。CNN報道によればロシア軍はこれを受け南部から戦力を引抜き東部占領地域の防衛に充て始めているとの事、二番煎じの気がします。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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