北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【防衛情報】フィリピン軍特集-メルカヴァ戦車橋導入と広がる憶測にAW-159対潜ヘリコプター初度作戦能力

2022-09-26 20:01:09 | 防衛・安全保障
■特報:世界の防衛,最新論点
 フィリピン軍の進化は多種多様な装備調達に進んでいる一方で2000年代初頭のナイジェリア軍やケニア軍のように種類だけが増えすぎるのではという関心と共に見守っています。

 フィリピン軍はイスラエルよりメルカヴァMk4-AVLB戦車橋2両を導入しました、これは近年フィリピン軍等で進められる機械化部隊再編により、戦車部隊の半世紀以上ぶりの再編など重装備が増加した為の陸軍工兵機材強化の一環です。なお、車体だけとはいえイスラエルがメルカヴァシリーズを海外へ輸出するのは今回が初めての事例となりました。

 しかし、メルカヴァMk4派生型の戦車橋導入には憶測も浮かんでしまいます、エンジン系統などはメルカヴァMk4そのままであり、整備補給面でメルカヴァの運用能力を得る事となり、将来的にメルカヴァMk3-BIZ等を中古で取得する道も開けます、一方、レオパルド1派生工作車などはレオパルド1採用国以外に採用されるなど、何とも言えぬ一面もある。

 フィリピン軍は現在、装甲戦闘車に砲塔を搭載した軽戦車部隊を運用していますが、かつて運用していた戦車はM-4戦車であり、現在の第四世代戦車は勿論、第一世代戦車や第二世代戦車の運用経験もありません。これは考え過ぎともいえるのですが、フィリピン軍は中古のメルカヴァ戦車を視野に含めているのか、増強急ぐフィリピン軍の関心事でしょう。
■VBTP-MRグアラニ
 自衛隊の96式装輪装甲車に見慣れているとやけに豪華に思えてくる選択肢と思う。

 フィリピン軍はブラジル製VBTP-MRグアラニ装輪装甲車28両を導入します。フィリピン軍は少なすぎる装甲車を補強するべく28両を4700万ドルで取得する方針です。この導入計画はイスラエルのエルビット社が仲介しており、近年のフィリピン軍は装輪自走榴弾砲や工兵車両にミサイルシステムなどイスラエル防衛産業との防衛協力を強化しています。

 VBTP-MRグアラニ装輪装甲車はブラジル製ですが元々の設計はイタリアのイヴェコ社でイヴェコラテンアメリカ社がEE-11ウルツ軽装甲車を置換えるブラジル軍次期装甲車調達計画の為に現地防衛企業と合弁会社として創立しています。VBTP-MRグアラニ装輪装甲車は様々な派生型が在りますが、フィリピン軍は六輪型を導入するとのことでした。

 フィリピン軍の装甲車部隊は元来、治安作戦や対ゲリラ戦闘を想定していましたが、中東からの武装勢力浸透により発生したマラウィ騒擾と、近年の中国軍軍事圧力を背景に正規戦への対応能力強化が必要と認識されており、VBTP-MRグアラニ装輪装甲車導入もその具体的施策の一つです。ただ、フィリピン軍は15万名規模、近代化には時間もかかります。
■Mi-17ヘリコプター16機
 この報道の少し後にアメリカとの間でCH-47ヘリコプター導入の交渉が本格化しました。

 フィリピン軍はロシアから導入予定のMi-17ヘリコプター16機の調達計画を正式に破棄しました、これは7月27日にフィリピン当局者が発表したもので、フィリピン政府は輸送ヘリコプターの増強を計画しているものの、ウクライナ戦争後のロシア装備調達はアメリカ経済制裁の影響や、ロシアによる報復により定期整備体制の不安などが考えられるため。

 ヘリコプターの調達はフィリピン政府の前大統領であるドゥテルテ大統領が任期満了直前の6月30日にロシアンヘリコプターズ社と契約したものをマルコス新大統領の就任後に急遽契約破棄したかたち。ただ、マルコス新大統領は中国等の脅威に対し防衛力強化の方針を堅持しており、7月25日に行われた初の施政方針演説においてもこの点を強調している。

 Mi-17ヘリコプター16機は2億2700万ドルで調達する計画、邦貨換算で302億円となります。今回の調達破棄はアメリカ国務省との調整も行われたとの事ですが、この302億円は機体規模は違えど日本のスバルUH-2であれば25機分となり、フィリピンは契約破棄となったベル412代替にもUH-2を候補の一つに挙げ、Mi-17契約破棄後の去就に注目です。
■AW-159艦上航空運用能力
 ヘリコプターによりソナーを機動運用する研究は第二次世界大戦中からあるのですがフィリピンとしては艦上対潜航空元年だ。

 フィリピン海軍は8 月 9 日、フリゲイトホセリサールへのAW-159艦上航空運用能力の初度作戦能力獲得を発表しました、フィリピン海軍はアグスタウェストランド社の支援で要員を要請しています。ホセリサールは2020年に韓国で建造されフィリピン海軍に引き渡されている水上戦闘艦でフィリピン海軍としては初めて取得する水上戦闘艦でもあります。

 AW-159はフィリピン海軍が史上初めて導入する対潜航空機で、2016年3月にアグスタウェストランド社との間で2機の取得と要員教育支援に関する1億ユーロの契約を結んでおり、機体は2019年にフィリピンへ引き渡されています。なお、ホセリサールでの航空機発着には蜂の巣状の甲板に機体から接続装置を差し込むハープーン方式が採用されています。

 ホセリサールはフィリピン海軍が韓国より導入したホセリサール級フリゲイトの一番艦で満載排水量は2600t、76mm艦砲や韓国製SSM-710K対艦ミサイルとミストラル簡易防空ミサイル等の運用能力と共にヘリコプター格納庫を有しており、また艦上には将来発展用にVLS8セル分の区画が配置されてて、乗員は65名、小型ながら有用なフリゲイトです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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北朝鮮-平安北道泰川付近弾道ミサイル発射,25日0653時発射のミサイルは不規則軌道を採り600km飛翔

2022-09-26 07:00:01 | 防衛・安全保障
臨時情報-日本海弾道弾落下
 北朝鮮は25日0653時頃、朝鮮半島北西部平安北道の泰川付近から弾道ミサイル一発を日本海に向け発射しました。飛翔距離は600kmとの事ですがミサイルによる船舶や航空機への被害などはありません。

 平安北道泰川付近から発射された弾道ミサイルは到達高度60kmで水平飛行距離600kmを飛翔し日本海に落下したとのこと。韓国は本日26日よりアメリカの原子力空母が参加する合同演習を予定しており、バイデン大統領も訪韓予定、此処に照準を絞っての示威行動と見られます。弾道ミサイルは最高速度がマッハ5程度、変則的な軌道を採り落下しました。

 変則機動、北朝鮮が現在開発を試みているのは日米のミサイル防衛システムを回避する為の次世代ミサイルです。これは弾道ミサイルは発射すると宇宙へ向け上昇し放物線を描く様に目標へ到達するという方式、第二次世界大戦中にドイツ軍がイギリス本土へ撃ちこんだV2ミサイルと基本的に同じという状況から脱却することがその目的といえましょう。

 弾道ミサイルが放物線を描く限り、上昇段階の数カ所をレーダーにより標定する事で大まかな落下予想地域が判明する為、迎撃ミサイルを展開させやすくなるのですが、不規則軌道を描いた場合、何処に落下するのかが分りにくくなりますし、宇宙空間に向けて上昇するのではなくより低い高度を飛行するならば、レーダーに発見されるまで時間を稼げます。

 しかし、技術的には非常に難しいのです。何故ならば弾道ミサイルは高い高度まで上昇する事が目的ではなく、高い高度から落下する際に音速の十倍前後、衛星軌道よりも上に到達するミサイルでは音速の二十倍以上の速度を発揮します、が、この速度で不規則軌道を行う事は、自動車が最高速度で小刻みな蛇行運転をするような、分解の危険が生じます。

 変則的な軌道をミサイルが分解しないよう実現するには、弾道ミサイルの速度を落とせばよいのですが、弾道ミサイルが迎撃しにくい要因はその速度にあるのですから、速度を落とせばミサイル迎撃システムにも捕捉されやすくなり、不規則な軌道を高速と両立させる技術が、求められている、だからこそ北朝鮮はミサイル実験を繰り返しているのでしょう。

 日本のミサイル防衛については、課題です。北朝鮮の様な核保有国の核ミサイルへの恫喝は、従来であればこちらも同等の核戦力を配備し相互確証破壊、相手が撃ちこむならばこちらも核を使うと示唆する方式が冷戦時代に用いられてきました。しかしミサイル防衛という、相手が撃ちこもうとするならば命中する前に迎撃するという選択肢を拓いている。

 ミサイル防衛ですが、不規則な軌道を採る弾道ミサイルに対しては、探知技術や中高度での迎撃ミサイル等を併せて開発する必要があります。防衛費を節約だけしたいならば報復戦力という選択肢は無いわけではないのですが、日本は核兵器を保有しないという国民的合意のもとで安全保障政策を一貫しています、すると迎撃技術を高めなければなりません。

 ミサイル防衛は巨額の費用を要しますが、逆に従来のミサイルならば迎可能な能力を日本が整備したからこそ、北朝鮮は新技術を開発しようとしている。北朝鮮に核兵器と運搬手段である弾道ミサイルを放棄させる強制手段を執らない事も日本国民の世論の一致するところでありますから、防衛費は高くなるのですが、今後も迎撃技術を強化してゆく必要があるのですね。

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