北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

ウクライナ戦争出口戦略-セバストポリ軍港はロシアが保持できるのか,南部ヘルソン州攻勢その先にクリミア半島

2022-09-15 20:17:54 | 国際・政治
ウクライナはロシアを許すか
 ゼレンスキーウクライナ大統領は5月にブチャでの自国民虐殺事件を受け2014年のクリミア併合後占領が続くクリミア半島を含めた領土奪還姿勢を堅持しています。

 セバストポリのロシア軍基地は維持できるのか。これは少々気が早い話なのかもしれませんが、仮に今後ウクライナ軍が東部地域と南部地域に続いて、クリミア半島奪還を開始した場合、ソ連時代からロシア連邦時代まで一貫して維持している黒海艦隊の拠点、クリミア半島南部のセバストポリ軍港をロシア軍基地として維持できるのかは、問題となります。

 黒海艦隊の任務は黒海にNATO海軍の進出を抑止し、潜水艦などからの巡航ミサイル攻撃からロシア本土、特にモスクワを防衛する事に在ります。現代、というよりも冷戦時代から冷静に装備を考えるならばモスクワを南方から攻撃する手段は既にあるのですが、黒海艦隊が南からの攻撃への抑止力になる、という概念は既に防衛の基盤となっているのです。

 クリミア半島南部のセバストポリ、人口は42万名でセバストポリ市の面積は864平方キロメートル、このセバストポリの半島に占める面積なのですが、クリミア半島は面積として2万6844平方キロメートルですので、もともと大半がウクライナ領土であったのですが、ここを2014年にロシア軍が侵攻し奪取、ロシア式の統治や治安維持態勢が惹かれている。

 ウクライナの領土奪還への強い意志は、もともとキエフ北方のブチャで確認されたロシア占領軍による虐殺行為、この表現には議論の余地があるようですが、避難する民間人の車に戦車砲を撃ちこんだ、商店に押し入り逃げる民間人を射殺、こうした監視カメラ映像が確認、後ろから撃たれた集団埋葬地などが奪還後に発見されると、こう云わざるを得ない。

 イジューム、上記のブチャはロシア軍占領が一ヶ月程度でしたが、今週ウクライナ軍が奪還したハリコフ州のイジュームでも残虐行為が確認されており、同市の市議によれば人口4万0200名規模の街ではあるのですが、1000名程が死亡したという、今後確認が必要な証言もあり、ブチャ以上の残虐行為が確認されたならば、ウクライナ世論は硬化しましょう。

 クリミア半島での占領は8年間に及び、もちろんロシア側の主張では住民投票を行いロシア側への統合を希望していたとの主張はあるのですが、選挙の正当性、なにしろ日本の様な適正な選挙を行わない国は存在しますので、適法なデモ行為やWebでの政治的発言一つで逮捕される国があり、クリミア半島の住民がウクライナ本土ほど自由でない事は確かだ。

 ヘルソン州でのウクライナ軍反撃は進展しているとの報道が大勢を占めています、もともとヘルソン州でのウクライナ軍反撃はロシア軍をハリコフ州から引き離すための陽動と考えられていて、ウクライナ当局者もこれを認める話が出されているのですが、陽動であっても、ロシア軍の占領部隊が戦闘能力が低く南へ、つまりクリミア半島方向へ進んでいる。

 セバストポリについて考えられるのは二つ、クリミア半島をウクライナ軍は奪還するが元々ロシアの街であったセバストポリをウクライナ領土クリミア半島からは切り離して考える、という可能性が一つ。もう一つは、勢いに乗ってセバストポリまで占領しロシアに思い知らせるという、いわばウクライナ侵攻への報復的な行動が執られるということ。

 クリミア大橋の維持が認められるのかも問題です。2014年のクリミア併合と共にロシアは2018年にクリミア大橋という、クリミア半島と大陸側のロシアロストフ州のタマン半島を結ぶ18kmの鉄橋を開通させています、クリミア半島とロシア本土を結ぶ橋梁ですが、セバストポリは菱形のクリミア半島南部にあり、道路の大半はウクライナ領を通行している。

 ゼレンスキー大統領の出口戦略がどのように考えられているかは未知数ですが、一つはセバストポリの維持を認めた上でクリミア半島を奪還する、つまり2014年以前の状態へ回復させる事です。これならばロシアを刺激しないがウクライナ住民の人権をウクライナの制度に戻す事が出来る、将来再度の侵攻の懸念を残すが決定的な対立は避けられるといえる。

 セバストポリを含めて占領するとなりますと、ロシア側の停戦交渉における交渉余地がなくなる可能性が高くなります、何故ならば黒海にはロシア本土のクラスノダールにも基地はありますが小規模であり、またセバストポリには造船所があるため、ここを失陥すると黒海艦隊は再建さえ出来なくなる、こうした事情から戦争が全面戦争に拡大する可能性が。

 ウクライナ世論を考えますと強硬論が出てくる可能性があります、それはロシア軍によるインフラ破壊が大き過ぎ、非戦闘員の被害も看過できなかったものがあるためです。ただ、こうした出口戦略とは、これは軍事用語では“政治の季節”という段階であり、今はそこまで考える余地は無い、まだまだ戦闘の趨勢が全般を決める段階ともいえるのですが、ね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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ロシアウクライナ戦争-加速が予測される中東欧NATO諸国の旧ソ連製ロシア製装備からの脱却

2022-09-15 07:00:29 | 国際・政治
■臨時情報-ウクライナ情勢
 ウクライナ軍の反撃は攻勢限界に達しようとしているとの分析がありますが、可能性としてこれも高度な情報戦なのでしょうか、この一方で今回は東欧について考えたい。

 東欧各国が今後MiG戦闘機やT-72戦車からの脱却を加速する必要があります、もちろんこれは東欧諸国がNATO加盟が進むと共に徐々にNATO標準装備への転換は進んでいるのですが、今後この動きを誘くさせる必要が生じます、その理由はロシア軍ウクライナ侵攻から再三云われている通り、NATOからロシアへ武器整備という道が閉ざされる為です。

 戦闘機などは定期整備と共にエンジンは寿命が期待より短い為に換装が必要ですし、アップデートも必要でしょう、ただこれにはサードパーティ製の部品などを用いる事も可能ですが、いずれにせよ全てをロシアから独立して行うには限界があります。そして経済制裁の状況下は勿論、将来的にもNATOはロシア製装備に依存する事が難しくなるでしょう。

 問題はこの費用がかなり大きくなる点です。MiG戦闘機やT-72戦車を一例に出しましたが、ヘリコプターや火砲等をふくみますと、繰り返しますが徐々に置き換わってはいるのですが、それでも軍隊を丸々切り替える事には変わりありません。東欧NATO諸国はポーランドを筆頭に防衛費のGDP比率はかなり高い水準となっていますが、なお不足するのです。

 戦闘機や戦車、課題は冷戦後の装備は冷戦時代の兎に数量が必要な総力戦に備えて、性能はある程度高いもののそれ以上の取得費用を抑え数を揃えるという発想が多かったのです、環境センサーや砲塔装甲の一部を省いたレオパルド2戦車や、ハイローミックスの名のもとに性能を絞った事を公言したF-16戦闘機などがその好例ですが、冷戦後の装備は違う。

 冷戦時代的な戦争が現在進められているウクライナを見ますと、装備体系や装備設計思想の回帰はある意味当然といえるのかもしれませんが、欧州やアメリカの製造する装備は高性能の反面相当に高価なものとなっています。この発想に共通する装備は自由主義圏では今のところ韓国が製造する装備が、性能はやや高く取得費用を抑えているという点がある。

 ロシア軍のウクライナ侵攻は一過性なのか、重要なのはロシアの主張する特別軍事作戦が、現実的な期間で終息した場合に、欧州とロシアの緊張関係は元の段階まで戻るのかという点で、現状のロシア政府の選択が欧州諸国にとり一線を越えた、と考えるならば、欧州やアメリカの防衛産業も、設計思想からして冷戦時代への回帰が求められるのかもしれません。

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